猛獣のお世話係

しろねこ。

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番外編:猛獣になった第二王子⑥

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ティタンはようやく地上に出れた。

階段を上るのは下りるよりは楽だったが、落ちないように気を遣うのが草臥れる。

ふんふんと自分の体の匂いを嗅いでみた。

途中で血の匂いが濃くなったから、体に染み付いてないか心配だ。

ニコラはまだ来ないだろう。

はて、と気づいてティタンは廊下で佇んだ。

自分一人で歩いてよいものか、いや、また城内の人を怯えさせてしまう。

付き添いの者もいない。

どうしたら良いかと、ぐるぐると考えていると、
「お待たせ♪ティ様」
と、明るい声と派手な容姿が見えた。

兄エリックの護衛騎士、オスカーだ。

「初めて見ましたが、とても可愛らしい姿ですね」
頭を撫でられる。

こんな口調だが、オスカーはれっきとした男だ。

「ニコラから連絡来たから、アタシが来ましたわ。このままエリック様のところに向かいましょう、そこでニコラと待ち合わせしてるのよ」
ティタンはオスカーの隣を歩く。

オスカーは長めの白髪の一部を赤く染め、刺繍を入れた騎士服を着用していた。

派手なメイクをしたオスカーと、人より大きな猛獣が並んで歩いている。

目立ちまくりだ。

「いいわね、皆が見てるわ」
ふふんと誇らしそうにしているオスカーに、ティタンはちょっぴりげんなりした。

(悪い奴ではないのだが…)
ちょっとだけ苦手としているのは、内緒だ。









「ティタン。だいぶその体に慣れてきたのだな、足取りが軽く見えるぞ」
エリックはスムーズに歩く姿に感嘆の声を上げた。

床に座り、前足をにぎにぎしてみた。

確かにだいぶ身体に慣れた気がする。

「オスカーありがとう」

「いえいえ、大丈夫ですよ。それよりアタシもニコラもいない中、何もなかったですか?」
エリックの命令だから離れたが、従者も護衛騎士も離れることはあまりない。

オスカーはその点を少々心配していた。

「何もなかった。大丈夫だ」
エリックはそれだけ良い、ティタンに嬉しそうに話しかける。

「ニコラから少し聞いた、死の呪いは解けたと。良かったな」

「?」
先程ニコラからもその言葉が出た。

死にかけていた事すら分かっていないし、真実の愛がどうのこうのしか聞いていない。

「ティタン様戸惑ってますね。もしかして、聞いてないんじゃないですか?」
オスカーは、ティタンが目を泳がせている様子でそう判断した。

「そうだった。イタズラに怖がらせてはいけないと、まだ伝えていなかったな」
エリックはティタンのたてがみに触れる。

(皆すぐ撫でてくるな……)
ティタンは本当の獣ではないから、触られるのに違和感を感じていた。

皆中身が人間だと忘れかけてるんじゃないか? とティタンは訝しんでいる。

「ニコラはまだ掛かるそうです。エリック様から伝えてよろしいかと思いますよ」
オスカーが通信石でやり取りしていたようだ。

ティタンもこくこくと首を縦に振り、同意する。

多分、今ニコラに会えば鼻が無事ですまないと思ったからだ。

きっと血の匂いが濃くなっているだろう。









「そうだな。危険は脱したしティタンも休ませねばならないから俺から言おう。ティタンの体には二つの呪いがあり、一つはこの猛獣の体になること。もう一つが呪いをかけられた者は、かけた術師を愛さねば死んでしまう魔法だ」

「?!」
ちょっと、いやかなり怖気が奔る。

それは先程見た女性を、愛さねばいけないという事だったのか?

あれ?
しかし彼女は兄に会うのを切望していた。

そもそも呪いの対象者であったのは自分じゃない。

「ティタンはあの女の狙った人物じゃなかった、だから呪いは解かれた。不幸中の幸いだ」
ティタンに愛されたくなかったのだそうだ。

何だか最近意図せず振られてばかりだと、ティタンは不貞腐れる。

いや、勿論はた迷惑な者に愛されなくて全然いいのだが。

告白してないのに、勝手に振られてるようで、気分が悪い。

「だから俺の命は、お前に助けられた。礼を言う……あんな女を愛せと言われたら、あいつをこの手で殺して死を選んでいたな」
エリックの方からピシッと何かが壊れる音が響いた。

氷が割れるような音だ。

「エリック様。有り得たかもしれない未来の話でも、死を語る事はお止めください。我々は命を賭してあなたの手足となります、如何なる害も排除しますので、くれぐれもそのような事を仰らないでくださいな」
オスカーの声音は至って真面目だった。

「変なところで真面目だな」

「アタシだから言ったのです。ニコラが聞いたら、死ぬなんて言わないでください~って泣きますよ?」
にっこりとオスカーは微笑んだ。

「ティタン様。エリック様を助けて頂いたあなたにアタシやニコラは多大な感謝をしておりますわ。なので今後アタシ達は、あなた様を愛する令嬢が現れるよう、全力でサポートします。まずはティタン様に好意を持っていた令嬢から情報を探ります。呪いが解ければ、そのまま婚姻相手となりますので、大事な事です」
意識していなかった事だった。

真実の愛、そうか、婚姻を結ぶのか。

不安そうに尻尾が揺れる。

「あら、これは嬉しいってことかしら?」
抗議するよう、より尻尾を強く振り、首も横に振る。

「違うようだが、婚姻が嫌ってことか?それとも意中の人がいるのか?」
複数の質問には何と返したらいいのか。

意思疎通の難しさに頭を悩ましてしまう。




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