差し出された毒杯

しろねこ。

文字の大きさ
21 / 36

味方となるもの

しおりを挟む
「安心しろ、アドガルムが味方してくれる」
ロキは自信たっぷりにそう言った。

「隣国が何故我らの味方を?」
フェンは疑いの眼差しだ。

縁もゆかりもないのに手を貸してくれる道理がない。

「アドガルム国第二王子のティタン殿下が、ミューズ様が命を落としかけたところを助けてくれたのよ。そしてミューズ様と婚約を交わしたの」
ロキの妻、アンリエッタが子ども達に理由と事情を伝える。

「ミューズを通して俺様たちは図らずともアドガルムの王族と関係を持てた。嬉しいだろ?」
ロキは歯を見せ、ニヤリと笑う。

「現在リンドール王城に張ってある魔術の結界は、俺様が作った魔道具によるものだ。あれより強力な物をこの領に置いてあるんだが、ちと魔力が要るのが難点だな。数日なら俺とアンリの魔力で充分事足りる」
魔法だけではなく、人が入れないように出来るらしい。

それ故有事の際にしか使用しない。

「援軍が来るまでは大変だが、来てしまえば大丈夫だ。辺境伯領でアドガルムと協力した親父が、リンドールに攻め入ってくる予定だから、こちらに余計な兵は避けないはずだ」

「外の見張りや憲兵はどうします?」
キールの疑問。

結界は外からの者を阻む。

しかし内にいるもの、リンドール国の手先となっている者達をどうするのかと。

「お前が倒してこい、キール。親父にしごかれた剣の腕を生かし、捕縛すればいい」

「俺が?」
無茶を言う。

一介の兵でしかない自分がそんなことを出来るとは思えない。

「お前の祖父はあの剣聖シグルドだ。名に恥じぬよう頑張れよ」 
ロキの軽い口調に、フェンが咎めた。

「お待ち下さい、父上。流石にキール一人では心配です。俺も行きます」
フェンの言葉にロキはダメだと言った。

「フェンとシフには別な役割がある。余計な魔力は使うなよ」
他にも考えがあるのだと、ロキは言う。

「ここは王城に近い。普通に進軍するよりは、ここから兵を進めたほうが制圧が早くなる。これは俺様が提案したことだが、ここの屋敷に大規模な転移魔法陣を用意し、アドガルムの軍隊を呼び寄せる。大人数を短時間で転移させるから、滅茶苦茶魔力はいるが、あちら側でも魔力のあるものがいるから何とかなるだろう」
一気にここから攻め入るつもりだ。

外側からはエリックとシグルドが進軍する。

ここ、内側からはティタンとロキが進軍する予定だ。

「これから俺たちの捕縛の為と反発する領民の制圧のため、リンドールの軍が派遣される事が予想される。その際一度結界を張り、進行を食い止める。
転移魔法を使用する際に一度結界を解き、終えたら再度結界を張る。俺様の魔力なら可能だ。外側の兵はそれなりにいるだろうが、アドガルム軍が道すがら倒してくれる手筈だ。ミューズも転移魔法時魔力を出すといってくれたが、あの子のは温存だ。ティタン王子とリンドール王城に向ってもらい、王妃派の者に示さねばならない。正統な血筋をな」
それを聞いてキールは心配になった。

「ミューズは戦いに向かない。そんな危ないところへ行かせるつもりなのですか?」

「そうです。ミューズ様に何かあったら、お父様はどうされるおつもりですか」
シフも抗議した。

「暗殺されかけたミューズはそのまま他国に逃げる道もあったんだ。それをせず、ティタン王子の婚約者となってでも、リンドールを取り戻すという覚悟を持ったのだ。逃げ出すことなく戦地に赴くあの子を尊重し、力を尽くすのが俺様達の役目だ」
ロキはミューズの意志を尊重する。

亡き姉の残した愛娘が望むなら、叶えるはリリュシーヌの弟である自分の役目だ。

「一応聞こう」
ロキは家族一人ひとりの顔を見る。

「アンリエッタ、フェン、キール、シフ。戦いから逃げるなら、俺様が転移魔法にて好きな国へ行かせてやるぞ。一度行った場所なら行けるのだが、俺様は殆どの国に行った事があるからな。選び放題だ」
ロキの言葉に誰も答えない。

「父上。俺達は公爵であるあなたの命に従います。命はなくとも自分達の従姉妹を守るため、そして故郷を奪われないためにも戦いに参加します」
フェンは代表して答えた。

ロキは満足気に頷いた。

「では、俺様と共に行こう。みな、死ぬんじゃないぞ」
ロキは楽しそうに笑った。

「魔力を思う存分奮うのは久々だ。なぁアンリ?」

「そうですね、私の為に戦った時以来では?」

「あんなの本気じゃないぞ?」
アンリエッタは魔法大国ムシュリウの出自だ。

ロキはアンリの婚約者と魔法対決をして打ち負かし、アンリを自国へと連れ帰ってきた人だ。

相手もなかなかの魔力を持っていたが、ロキの比ではない。

魔道具の修行をしつつムシュリウに滞在していたのだが、そこでたまたま見かけたアンリエッタが気になった。

婚約者からのアンリエッタへの扱いが糞すぎると、ロキは勢いのまま決闘を申し込んだ。

異国の者が、魔力の高さを誇るムシュリウの民に喧嘩を売るとは、王族をも巻き込む決闘となってしまった。

ロキは自分が勝てば、アンリエッタを王命のもと譲り受けさせてほしいと話し、もし負ければ、今まで作った全ての魔道具の権利を譲ると交渉した。

アンリエッタは止めた。

普通の人がムシュリウでも魔力の高い貴族に喧嘩を売って、ただで済むとは思えないと。

ロキは自信たっぷりだった。

「俺様を信じろ」








その後完膚無きまでに叩きのめし、体面を潰されたとムシュリウの魔術師団と戦ったが、王城まで半壊させたしまったので、ロキとアンリエッタを追わない事を条件に国を出た。

当たり前だが、ロキはムシュリウ国に入る事を禁止されている。

「さて、あとは城内の結界だが、そちらの解除はあるものに頼んでいる」
少し前に結界に触れた魔力。

ここより弱い結界とはいえ、ミューズを守るために張っていたものだ。

その中で魔法を使えるなんて。

回復魔法は問題なく使える、しかし害を為す魔法は打ち消すはずだった。

「あの中でも普通に魔法が使えるとは、面白いな」
アドガルムに聞くまでは、誰の魔法か検討もつかなかったが、計画を聞いて納得がいった。

ならば有利になれるようにと、その魔力の主に結界の解除方法を教えた。

もう二十年くらい前のものだから、王城でも知っているものは少なくなっているだろう。

時折結界の維持のため魔力は注がれているようだが、城に操れるものなどいない。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 
恋愛
「わ……私と結婚してください!」と叫んだのは、男爵令嬢ミーナ プロポーズされたのは第一騎士団の団長、アークフリード・フェリックス・ブランドン公爵 アークフリードには、13年前に守りたいと思っていた紫の髪に紫の瞳をもつエリザベスを守ることができず死なせてしまったという辛い初恋の思い出があった。 そんなアークフリードの前に現れたのは、赤い髪に緑の瞳をもつミーナ 運命はふたりに不思議なめぐりあいの舞台を用意した。 ⁂がついている章は性的な場面がありますので、ご注意ください。 「なろう」でも公開しておりますが、そちらではまだ改稿が進んでおりませんので、よろしければこちらでご覧ください。

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

あなたにわたくしは相応しくないようです

らがまふぃん
恋愛
物語の中だけの話だと思っていました。 現実に起こることでしたのね。 ※本編六話+幕間一話と後日談一話の全八話、ゆるゆる話。何も考えずにお読みください。 HOTランキング入りをしまして、たくさんの方の目に触れる機会を得られました。たくさんのお気に入り登録など、本当にありがとうございました。 完結表示をしようとして、タグが入っていなかったことに気付きました。何となく今更な感じがありますが、タグ入れました。

恋は雪解けのように

ミィタソ
恋愛
王国アルテリア。 公爵家の令嬢エステルは幼馴染の侯爵嫡子クロードと婚約していた。 しかし社交界デビューを目前に、突然の婚約破棄を通告される。 「貴女の瞳には野心がない。装飾品でしかない女性に、我が家の未来は託せぬ」 冷徹に宣告するクロードの手元に、安物とは思えぬ新たな指輪が光っていた。 屈辱に震えるエステルは、古びた温室で偶然出会った謎の青年に差し出された赤い薔薇を握りしめる。 「この花のように、貴女は凍てついた大地でも咲ける」 そう囁いた青年こそ、政敵である辺境伯爵家の嗣子レオンだった。 雪解けと共に芽吹く二人の恋は、王家の陰謀に巻き込まれていく――。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

処理中です...