差し出された毒杯

しろねこ。

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魔法の代償

リオンは自室のベッドで横になっていた。

目にはアイマスク。

だらしなく大の字になり、部屋の中には机が運び込まれ、カミュ及び数名の文官が机に向かっていた。

「モーリー侯爵は白、マクロ伯爵は黒だな。私兵は約三十名、魔術師は三名、息子も魔法が使えるようだ。魔道具による武器は投擲系と、微力な結界系のみ。ミーツニク伯爵はグレー。一応メモって。私兵約五十名、魔術師は十名。子息ニ名は騎士として訓練している。令嬢は防御系魔法に優れているな。魔道具は、身体に異常をきたすようなものだから、対峙するなら耐性などに気をつけて」
ぶつぶつとリオンが言った貴族の戦力についてメモをし、地図で住む場所を探し記入していく。

数が多いので、なるべく侵攻上関係がありそうなところだけ。

リンドールの勢力をある程度把握するために、リオンは魔法を使っていた。

「ごめん、切り替え。王城で動きだ。あぁなかなかシグルド様とロキ様から返事がないことに立腹だ、書状を届けた者が叩かれた」
頭に手を当て、リオンの独白は続く。

「王城の動きはピリピリしているな。黙って従う者と、反発したい者がはっきりとしてきた。まともそうな宰相は助けるようティタン兄様に進言しておこう。おっと新たな指示だね。四日後にはロキ様のところとシグルド様の所に兵を出す? 大変だ。すぐ父様と兄様に伝えてきて」
何人かが部屋を離れ、報告へ向かう。

ノックの音にカミュが応対する。

「ティタン様がいらっしゃってますが……どうされますか?」
カミュの声にリオンは弾かれたように飛び起きた。

「すぐ通して。王城内以外は一度感覚を遮断する」
リオンはアイマスクを外し、ベッドに、腰掛ける。

頭がクラクラした。

「忙しいところすまんな、って大丈夫か?」

「少し目眩がするだけです。大丈夫ですよ」
色々な情報がリオンの頭を駆け巡っていたため、情報量の多さに疲れてしまったようだ。

頭を押さえ、腰掛けているリオンにティタンは心配になる。

「こんなになるまで……本当にすまないな」
リオンの部屋に置かれている情報や、地図への書き込みに驚いた。

エリックからリオンがとても大変な事をしてるとは聞いていたが、一人でこんなに情報を集めるとはどうやったのだろうか。

「ティタン兄様の為なら何でもします。ご婚約おめでとうございます」
話には聞いた。

だが、まだ大々的には発表されていない。

今はまだ口約束であるから、今回の件の決着がついた後に正式に発表されるのだろう。

「ありがとう。その事についてだが、正式にミューズを娶るため、リンドールへの侵攻を開始する」
ミューズの地位を取り戻さなくてはならない。

「準備は大体進めてました。ティタン兄様には将として皆をお導き頂くようお願いしたいです。僕のことも手駒として、有効活用してください」
リオンはにこりとした。

「本当に、大丈夫なのか?今でさえ負担が大きいのに」
リオンは無理をし過ぎているとしか思えない顔色をしている。

「もう情報集めは終わりにします。王城内だけに絞れば、魔力や体力の消費は少なくなりますから」
繋いでいたそれらを、切った。

前回のパーティで、皆を回復させた副産物として、リオンは自身の魔力を皆の体に潜り込ませていた。

リオンの魔力を知らず知らず内包した者を軸として、あちこちを探査していた。

普段は見えない屋敷内や、大事な会話がリオンには筒抜けだった。

数の多さに辟易したので、重要な人物や関係ないものは回線を切り、厳選していった。

それでも、数は多い。

アドガルム国からでは距離があるため魔力の消費も激しいが、リンドール王城内だけに絞ればもう少し楽になるはずだ。

カミュがリオンの体を支える。

「ティタン様、リオン様はかなり無理をしています。これ以上の負担を掛けるような事はもう」

「カミュ、勝手な事をいうな。僕は大丈夫だ」
実際魔力の消費はそこまで問題ではなかった。

だが探査の魔法を広範囲にかけていたため、情報の多さに脳の処理が追い付かず疲労が激しい。

目を塞いで、脳に流れる映像に感覚を集中させていたのだが、それでもかなり負担は大きかった。

「無理をするな。兄上にも言っておくから」
リオンを戦から外すという事も検討しなくては。

そもそもリオンにはかなり世話になっている。

ティタンの代わりにリンドールのパーティに行ったことも聞いた。

詳細は教えてもらえなかったが、ますます王妃達が嫌いになる。

「シュナイ先生に頼んで疲労回復の薬を貰ってきてくれ。僕は行く」
リオンはそうカミュに頼んだ。

リオンの代わりはいない。

エリックからも、役目は聞いていた。

リオンが抜ければ大幅に計画を変更するようになるのはわかっている。

「気持ちだけで充分だ。無茶をするんじゃない」
リオンは頭を撫でられる。

子ども扱いが、今は腹立たしい。

「僕も、一人の男です。必ず役に立ちますからね」
リオンはドサッと横になった。

維持でも回復して、ティタン達の力になるんだと意気込んだ。

疲れは我慢出来ず、直ぐにすーすーと寝息をたてて眠ってしまった。

「ありがとな、カミュ。ずっと付き添っていてくれて」

「いえ。それが俺の仕事ですから」
カミュは毛布を掛け直し、リオンをあらためて寝かせてあげる事にした。

「しかし置いていけば恨まれそうだな…」

「恨むでしょうね。とりあえずシュナイ医師に、薬湯をお願いしましょう。あとは治癒師も呼んで、疲労回復の魔法もお願いしたいと思います」
全快、とは行かなくてもある程度は回復するだろう。










ティタンはリオンの部屋を後にし、ミューズの元へ行く。

(以前に薬について詳しかったな。それとなく聞いて見るか)

忙しい中だが、ミューズに会える口実を見つけ、ティタンは少しだけ心を踊らせた。

「ミューズ、入るぞ」
ノックをし、返事がしたので中に入る。

「ティタン様、どうされました?」
ミューズは今や普通に起きて椅子に座り、マオとリンドールの地図を見ていた。

攻め入る話はミューズにもしている。

時間はあまりかけられない。

国王ディエスについても心配なため、数日のうちに出立する事は決まっている。

「ミューズに聞きたいことがあってな」
リオンの様子と状態を事細かに話した。

「薬に詳しい君なら何か良い方法を知ってるかと思って」

「そうですね……」
少しミューズは考える。

「リオン様、そんなに状態悪いですか?」
マオも心配そうだ。

その心配する気持ちの一欠片でも、たまにはティタンに向けてくれてもいいのに、とティタンの専属従者であるはずのマオに軽く苛立ちがわいた。

「疲労感は強いな。継続して魔法を使ったからか、あぁでも魔力はまだあると言ったな」
魔力切れではなさそうだ。

「広範囲に向けての探査で、思った以上に疲労が出たのでしょう。私で良ければ回復魔法を唱えられますが」

「そうなのか?」
今までその話は聞いていない。

そんな力があれば、自分の体も治せたのでは?と思ってしまった。

「毒で疲弊してなかなか魔力が回復しませんでしたが、今なら大丈夫です。歩けるようにもなりましたし、よろしければ今からでもリオン様のもとへ行きますが」

「ミューズの体に負担がなければお願いしたいが、出来るか?」
回復魔法についてティタンはあまり詳しくない。

使えるのは身体強化と簡単な防御障壁だ。

武人として最低限それだけは学んだ。

「大丈夫です。少しでも恩返ししたいですから」
屈託なく笑っていたリオン。

今もティタンの為、ひいてはミューズの為になることを、力を尽くして頑張ってくれていた。

「ならばマオ、カミュのもとへ様子を見に行ってくれ。許可が得られたらすぐ向かうからな」

「わかったのです」
マオも気になっているのだろう、猫のように素早くしなやかな動きで、部屋を出ていく。

「ティタン様も大丈夫ですか?」
ティタンも休みなく動いているのは知っている。

ミューズが婚約を承諾した事で、あらゆる事が超スピードで進んだ。

ミューズの叔父であるロキや祖父のシグルドとも連携を取る手筈は取られた。

従兄弟のキールの役割が心配だが、彼も強いと聞いた。

きっと大丈夫だろうと信じる。

「俺は大丈夫だ。君の為に何でもすると約束したのだから、これくらいで泣き言は言わん」
ティタンはとても落ち着いていた。

婚約を承諾された事で、あやふやだったものが明確になったのだ。

何としてもリンドールを、ミューズの居場所を取り戻すのだと。

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