ダンジョン管理者~氷の魔族と少女と使い魔にゃんこ〜

しろねこ。

文字の大きさ
3 / 7

第3話 気遣い

 水を汲んで戻ると、イーリィアがキトンの体を撫でているところであった。

「あ、お帰りなさい」
 二人は笑顔でベルフィリオを迎える。

「ただいま。随分と二人は仲良くなったんだな」

「イーリィアが撫でたいというから、特別に許したのにゃ。そしたらもう、気持ちよくて」
 尻尾を太くして喜ぶキトンに、イーリィアも嬉しそうに笑う。

「実家にも猫ちゃんがいて、よく撫でていたんです。まさかダンジョンに来てからも、猫ちゃんに触れるなんて思わなかったわ」

「はうぅ、そこもなかなか……」
 耳の根元をこしょこしょされ、キトンのグルグル音は更に大きくなる。

「キトンちゃん、とっても可愛いね」
 すっかり普通の猫のようになったキトンを見て、呆れるやら喜ばしいやら。

(二人が仲良くなれて何よりだな)
 ベルフィリオは、持っていた水筒をイーリィアの側に置く。

「落ち着いたらどうぞ。俺は飲んできたから」

「ありがとうございます」
 ベルフィリオには特に飲食の必要はない。

 それでもそう伝えたのは、自分が飲んでいないとイーリィアが遠慮するかもと、思ったからだ。

「おいしい」
 ホッと息をつくイーリィアの表情はとてもあどけない。

 こんなダンジョンなど似合わないような雰囲気だ。

「イーリィアの故郷は、とても自然豊かなんだよな。そんなところから、なぜこんな危険な場所に? ダンジョンなんて死と隣り合わせなのに、もっと稼げるような事があったんじゃないか?」

「私の故郷は田舎なので、お金を稼ぎたくともそ仕事がないんです。弟も妹もまだ小さくて働けないし、母も体が弱くて……皆がお腹いっぱいに食べられらるようにと街に来たのですが……」
 イーリィアはぐっと唇を噛みしめる。

「一念発起して街に来て、ギルドで会った人達のパーティーに入れてもらったんですけど、足手まといになっちゃって……これでも故郷では動物を狩って、生計を立てていたんですよ。罠を張ったり、弓も練習して。けどそれじゃあ全然役に立てませんでした」

「そうか……いろいろな事情があるのだな」
 イーリィアの話に同情しつつ、見捨てた者への怒りがわく。

 事情を知っていたはずなのに、イーリィアを見殺しにしようとしたのだ。許せるわけがない。

 その時イーリィアのお腹がくぅっと鳴いた。

「食料は、持っていないよな?」

「は、はい」
 荷物を何も持っていないイーリィアが、食べ物を持っているはずはない。
 ベルフィリオも食べる必要がないので何も持ってはいなかった。

(これは困ったな)
 どうしたものかと考えていると、キトンがガサゴソと自分のリュックから何かを取り出す。

「ぼくのあげますにゃ、はいどうぞ」

「ありがとう」
 出てきたのは、キトンの大好物の魚の煮干しだ。

 イーリィアは美味しそうに食べるけれど、それだけでは足りないだろう。

(早めに何とかしないとな)
 ベルフィリオはいいが、人間のイーリィアがどれだけ空腹に耐えられるのかわからない。

 後で何とかするとして、ベルフィリオは今後についての話を切り出した。

「明日なんだが、イーリィアを街に送り届けようと思う。その後俺達はまた探索に来よう」

「それが良いと思いますにゃ。食べ物も荷物もないままでは、イーリィアも大変なのにゃ」
 ベルフィリオの意見にキトンは頷くが、とうのイーリィアは申し訳なさそうに首を横に振る。

「私のせいでダンジョン探索を途中でやめてしまうなんて、申し訳ないです。絶対に迷惑をかけませんから、このまま先に進みましょう」

「迷惑とは思っていない。それよりもこのまま進む方が危険だ」
 イーリィアは尚も食い下がる。

「私、罠に詳しいので絶対に役に立ちます。ベルフィリオさん達のお手伝いも出来ます、お願いですから、連れて行ってください」

「そう言われてもな……」
 罠にかかっていたイーリィアを思い出すに、危ない気がするのだが。

「それに私、お金持ってなくて……このまま帰っても故郷に帰ることも出来ないんです。図々しいとは思うのですが、手伝わせてください」

「……なるほど」
 ダンジョン探索にていくらか稼がないと、路銀もないという事らしい。 

「主様、一緒に行ってもいいのではないですかにゃ。もう半分は過ぎましたし、恐らく急げば明日には最奥部につきますし。イーリィアのお腹がぺこぺこになる前に戻れば、何とかなりますにゃ」
 キトンが援護射撃を出す。

「それにイーリィアのマッサージは気持ちいいのにゃ」
 すっかりほだされたようで、キトンはイーリィアに身を寄せている。

(仕事の事を忘れているんじゃないだろうか?)
 ベルフィリオはキトンの能天気な様子に心配になる。

「仕方ない、ただし無理はしないように」

「はい、ありがとうございます!」
 二人の懇願に負けてしまうあたり、ベルフィリオも甘いところがある。

 その後ベルフィリオは、用意していた寝袋をイーリィアに譲り、見張りを申し出る。

「こんなの、申し訳なさすぎて眠れません」

「良いのにゃ、主様は体力あるから徹夜しても大丈夫にゃ。それよりも今度はブラシ描けてほしいのにゃ。主様のは強すぎて痛いのにゃ」
 遠慮していたイーリィアではあるが、キトンにも促され、部屋に戻っていく。

「キトン、イーリィアを頼んだぞ」
 キトンに命じ、ベルフィリオはイーリィアの食べものを探しにと駆け出した。

(さて、どこで調達するか)
 ダンジョン内で食べ物を見つけるのは、至難な事だ。
 他の人間から奪うか、それか魔物肉を調理するかしかない。

「魔物肉は……あまり、現実的ではないな」
 このダンジョンはアンデッド系が多い為、獣肉は手に入りづらい。
 となれば人から奪うか、交渉して譲ってもらうことになる。

「狙いは、イーリィアを見捨てた者達だな」
 あれならば殺して奪っても胸は痛まないと、ベルフィリオは笑う。
 先程進んでいた道の更に奥を目指してかけていった。

「鬱陶しい」
 放たれる矢も、迫りくる壁も、ベルフィリオは魔法で全てを凍らせてから進んでいく。

 足を止めることなく一本道を突き進み、先を行くイーリィアの元仲間たちを追いかけた。

「構造上、そろそろ追い付くはずだ」
 恐らく、次のセーフティスペースで休んでいるはずだと狙いをつける。

 あの時間であれ以上進もうとするのは、無謀だからだ。

「イーリィアよりはダンジョンに手馴れているようだったからな、そんな常識など知っているはずだろう」
 そうして進んでいく内に、何やら血の匂いが漂ってきた。

「まさか、な」
 角を曲がって見たその光景に、ベルフィリオはただ目を細めるばかりだ。

 ゾンビたちが複数の死体に群がり、死肉を貪り食っていた。

 恐らく罠にかかったのだろう、壁には赤い血の跡が広がっており、その近くにちぎれた肉片が落ちている。

 落ちている装備品や食べ残された遺髪から、イーリィアと共にいた者たちだと分かった。

「まぁ因果応報という事だろう……イーリィアを見捨てたのだからな」
 特にかわいそうとは思わない。

 ベルフィリオは剣を抜いてゾンビたちを切り捨てていく。

 可哀想だと思った為ではない、このままではゾンビが邪魔で、荷物が探せないからだ。

 下級の魔物など相手にもならない為に、特に苦な作業ではない。

「さてと、荷物はどこだ」
 静かになった現場を見回せば、遠くに収納バックらしきものが落ちているのを見つけた。

 そちらに足を進めると、床に穴が開いているのに気づく。

 デジャヴュを感じつつ中をのぞくと、そこには串刺しになった人間が見えた。
 イーリィアを罵倒していた女だ。

「報いはもう受けていたか」

「た、助けて」
 死んでいると思ったのだが、どうやら急所が外れていたようだ。
 ベルフィリオの声に気づいた女は、血にまみれた手を伸ばす。

「お願い、助けて……まだ、死にたくないの」

「どの口がそんな事を」
 ベルフィリオはせせら笑う。

「イーリィアを見捨てたくせに、よく言えたものだな。その姿も因果応報だろう」

「イーリィア? もしかして、生きているの?」

「あぁ。彼女は俺が助けた。けれどお前は駄目だ」

「ま、待って」
 冷たく言い放ち、その場を離れようとするベルフィリオに、縋るように女は声を張り上げる。

「悪かったわ、イーリィアに謝る。だから、助けて」

「謝る? 今更何を?」
 鼻で笑い、もがく女を見下ろした。

「彼女がどんなに怖かったか、お前にわかるのか。見知らぬ土地、慣れないダンジョンで、信じる仲間に見捨てられて…さぞ、彼女は絶望しただろう。それなのに、自分は助けられると思っているのか? つくづくおめでたい生き物だ」

「お願い、なんでもするから」
 必死に声を上げているが、聞く気はない。

「知らん。そのままのたれ死ね」
 ベルフィリオは落ちている荷物を拾い上げて中身を確認し、その場から立ち去る。

(明日は別のルートを通ろう。イーリィアがこの光景を見たら、ショックを受けるかもしれないからな)
 かつてのとはいえ、仲間の死を見せるのはどうかと、ベルフィリオは考える。

 後ろからのうめき声は、いつの間にか途絶えていた。

感想 0

あなたにおすすめの小説

拾ってないのに、最上位が毎日“帰る”んですがーー飼い主じゃありません!ただの受付係です!

星乃和花
恋愛
王都ギルド受付係リナは、今日も平和に働く予定だった。 ……のに。 「お腹すいた」 そう言って現れたのは、最上位の英雄レオン。 強いのに生活力ゼロ、距離感ゼロ、甘え方だけは一流。 手当てすれば「危ない」と囲い込み、 看病すれば抱きしめて離さず、 ついには―― 「君が、俺の帰る場所」 拾ってない。飼ってない。 ただ世話を焼いただけなのに、英雄が毎日“帰ってくる”ようになりました。 無自覚世話焼き受付嬢 × 甘えた天然英雄の 距離感バグ甘々ラブコメ、開幕! ⭐︎火木土21:20更新ー本編8話+後日談9話⭐︎

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい

歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、 裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会 ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った 全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。 辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。

次期女王になる美姫はダメンズと言われる公爵令息を寵愛中

しろねこ。
恋愛
愚図で鈍感で気が利かない……そんな評判を持つ彼が、妙に気になる。 そして当たらずとも遠からずなその評判は、確かに一部は当てはまっていた。 しかし大半は悪意ある人達による歪んだ噂であった。 自分の事より他人の心と気持ちを慮る、愚かしい男。 (もっと自分の事に目を向けたらいいのに……) 完璧と言われた女性、エレオノーラはそんな彼に心惹かれていく。 一方でレナードは下がりきった自己評価のせいで、どうしてもその恋に踏み出せない。 (僕が王女の婚約者? いや、どうせいつか捨てられる。でもそれまでは、せめて、彼女を大事にしなくては) 両片想いな恋愛模様をお楽しみください。 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!