18 / 21
第18話 拒絶
しおりを挟む
さすが侯爵令嬢。ひと目で上質とわかるドレスや煌びやかなティアラ、時間もお金もかけているのが分かる。
話しかけられたものの名指しをされていない為に誰も返事をしない。
身分の低い者から高い者への声掛けは基本無礼であるからだ。
(あまりにも騒がしかったからよね)
ラズリーはシュンとする。
話しかけないようにという約束ではあったが、このうるささでは一言注意もしたくなるだろう。そこは素直に反省する。
「コランダム子爵令嬢、場を弁えて頂戴」
「申し訳ございません」
大勢いる中でラズリーを矢面に立たせるところは悪意しかないが、ラズリーは自分達が悪いのだと素直に謝罪をする。
「このような人の多い場で学園にいる時のような振る舞いをするなんて、本当に育ちが悪いのね」
その悪意のある言葉に、一部は反感を、一部は驚愕を覚える。
「お言葉ですがレディ、それは少し言い過ぎではないかと」
グルミアが溜まらず口を出す。
「あなたはどなた? 許可もなく話しかけて来るなんて、何て無礼者かしら」
「これは失礼。私はグルミアと申します。差し出がましいとは思いましたが、あまりにもコランダム子爵令嬢に対して失礼な言い方でしたので」
グルミアは悪いとは思っていない表情で真面目な口調で述べる。
「平民が口を挟まないで頂戴。わたくしはコランダム子爵令嬢と話をしているの」
家名を名乗らない事で平民とされ言葉を遮断されてしまった。
いまだファルクの膝から下ろしてもらえていないラズリーは、そのままの姿勢で目を合わせるようになる。
「恥も外聞もないの? このような所でそのような事をしていて」
「これはファルクが離してくれなくてですね」
「まぁ人のせいにするなんて」
明らかにファルクが抱えているのだけれど、何故そうなるのか。
そして声も大きい。
他の人に知らしめようとしているのがありありとわかる声量だ。
「白々しい事を言わずに立ち去ってください。あなたは俺達に許可なく近づかないように約束してますよね」
ファルクがラズリーを庇うように抱き直す。
「わたくしは侯爵令嬢として注意を促しているのです。人前でそのような事をする者に注意をする事はおかしいですか?」
「おかしいですよ、お帰り下さい」
再度グルミアが不機嫌そうに口を出す。
「言うなればお節介ですし、わざわざ大声で言う程の事ですか? 悪意しか感じられませんねぇ」
グルミアは嫌そうな顔で、今度は引かずに寧ろ前になり出る。
「体裁を取り繕う為に引こうと思いましたが、もう我慢なりませんね。接触禁止を言われて近づいてきたのですから、お覚悟を。人にマナーを説く前にまずは約束を守られては? オリビア=フィード侯爵令嬢」
「さっきから偉そうな態度、あなたは一体何なのです」
「俺の友人だよ」
ピリピリした空気の中、リアムが口を挟んできた。
皆の視線が一斉に集まる。
「揉めていると連絡があったから来たんだけど、グルミアも俺の到着を待ってくれればよかったのに」
「すまない、あまりにも胸糞悪くてな」
グルミアがおおよそ王族に掛けるべきでない口調で言い訳をする。
しかしリアムの後ろにいるストレイドは何も言わない。
(二人には接点があったのね)
そんな事を知らなかったラズリーがキョトンとしていると、不意にリアムと目が合う。
「また巻き込まれてしまったね、君はそういう星の元に生まれてしまったのかな」
苦笑しつつそう言われ、何と答えていいかわからない。
「君が悪いと言いたいわけじゃない。そういう人を惹きつけてしまう性質なのかもしれないって事さ」
持って生まれた性というものだろうか。努力で何とかなるといいのだけど。
「さてオリビア嬢は何を一人騒ぎ立てていたのかな? 楽しく歓談する皆の元に突撃してまで、訴えたい事とは一体何なのだろうね」
リアムが話を始めた辺りでファルクがラズリーを隣へと座らせ直した。
主君の前ではきちんとしようという事だろう。
またグルミアが何かを呟いているのが、ラズリーの耳に微かに聞こえてくる。
(あれ? もしかして魔法?)
はっきりとは聞こえなかったが、何某かの魔法を唱えていたようだ。
王宮内には魔法が使用できないように結界が張られているが、それは攻撃に転ずるような魔法を防ぐもの。全てがその限りではない。
一体何の魔法を使用したのか。
「コランダム子爵令嬢が人目も憚らず、トワレ伯爵令息に触れていたから咎めただけですわ」
「それが何か悪いのかい?」
リアムはしれっとして聞き返す。
「婚約者の段階でそのような触れ合いなどあり得ません。このような大勢の人の前でなんて」
「程度はあると思うけれど、肩や腰に手を回すくらいは夫婦であればある事だよ」
夫婦であれば多少の接触はあり得る。
「まだ婚約者でしょう。それに彼女はデビュタントです」
デビュタントは未婚の令嬢がなるので、それに参加しているラズリーはまだ新成人になり立て。
婚姻が認められるのは今日の社交界デビューを終えてからだ。
「そうデビュタントだ。でもすべての過程を終えた今、彼女はもう成人だよ。つまりもう婚姻も出来る」
そう言われ恥ずかしそうにラズリーは俯いた。
「先程書類上の受理は済ませた。君らはもう正式な夫婦だ、末永くお幸せに」
リアムが祝福の拍手を二人に送る。
話しかけられたものの名指しをされていない為に誰も返事をしない。
身分の低い者から高い者への声掛けは基本無礼であるからだ。
(あまりにも騒がしかったからよね)
ラズリーはシュンとする。
話しかけないようにという約束ではあったが、このうるささでは一言注意もしたくなるだろう。そこは素直に反省する。
「コランダム子爵令嬢、場を弁えて頂戴」
「申し訳ございません」
大勢いる中でラズリーを矢面に立たせるところは悪意しかないが、ラズリーは自分達が悪いのだと素直に謝罪をする。
「このような人の多い場で学園にいる時のような振る舞いをするなんて、本当に育ちが悪いのね」
その悪意のある言葉に、一部は反感を、一部は驚愕を覚える。
「お言葉ですがレディ、それは少し言い過ぎではないかと」
グルミアが溜まらず口を出す。
「あなたはどなた? 許可もなく話しかけて来るなんて、何て無礼者かしら」
「これは失礼。私はグルミアと申します。差し出がましいとは思いましたが、あまりにもコランダム子爵令嬢に対して失礼な言い方でしたので」
グルミアは悪いとは思っていない表情で真面目な口調で述べる。
「平民が口を挟まないで頂戴。わたくしはコランダム子爵令嬢と話をしているの」
家名を名乗らない事で平民とされ言葉を遮断されてしまった。
いまだファルクの膝から下ろしてもらえていないラズリーは、そのままの姿勢で目を合わせるようになる。
「恥も外聞もないの? このような所でそのような事をしていて」
「これはファルクが離してくれなくてですね」
「まぁ人のせいにするなんて」
明らかにファルクが抱えているのだけれど、何故そうなるのか。
そして声も大きい。
他の人に知らしめようとしているのがありありとわかる声量だ。
「白々しい事を言わずに立ち去ってください。あなたは俺達に許可なく近づかないように約束してますよね」
ファルクがラズリーを庇うように抱き直す。
「わたくしは侯爵令嬢として注意を促しているのです。人前でそのような事をする者に注意をする事はおかしいですか?」
「おかしいですよ、お帰り下さい」
再度グルミアが不機嫌そうに口を出す。
「言うなればお節介ですし、わざわざ大声で言う程の事ですか? 悪意しか感じられませんねぇ」
グルミアは嫌そうな顔で、今度は引かずに寧ろ前になり出る。
「体裁を取り繕う為に引こうと思いましたが、もう我慢なりませんね。接触禁止を言われて近づいてきたのですから、お覚悟を。人にマナーを説く前にまずは約束を守られては? オリビア=フィード侯爵令嬢」
「さっきから偉そうな態度、あなたは一体何なのです」
「俺の友人だよ」
ピリピリした空気の中、リアムが口を挟んできた。
皆の視線が一斉に集まる。
「揉めていると連絡があったから来たんだけど、グルミアも俺の到着を待ってくれればよかったのに」
「すまない、あまりにも胸糞悪くてな」
グルミアがおおよそ王族に掛けるべきでない口調で言い訳をする。
しかしリアムの後ろにいるストレイドは何も言わない。
(二人には接点があったのね)
そんな事を知らなかったラズリーがキョトンとしていると、不意にリアムと目が合う。
「また巻き込まれてしまったね、君はそういう星の元に生まれてしまったのかな」
苦笑しつつそう言われ、何と答えていいかわからない。
「君が悪いと言いたいわけじゃない。そういう人を惹きつけてしまう性質なのかもしれないって事さ」
持って生まれた性というものだろうか。努力で何とかなるといいのだけど。
「さてオリビア嬢は何を一人騒ぎ立てていたのかな? 楽しく歓談する皆の元に突撃してまで、訴えたい事とは一体何なのだろうね」
リアムが話を始めた辺りでファルクがラズリーを隣へと座らせ直した。
主君の前ではきちんとしようという事だろう。
またグルミアが何かを呟いているのが、ラズリーの耳に微かに聞こえてくる。
(あれ? もしかして魔法?)
はっきりとは聞こえなかったが、何某かの魔法を唱えていたようだ。
王宮内には魔法が使用できないように結界が張られているが、それは攻撃に転ずるような魔法を防ぐもの。全てがその限りではない。
一体何の魔法を使用したのか。
「コランダム子爵令嬢が人目も憚らず、トワレ伯爵令息に触れていたから咎めただけですわ」
「それが何か悪いのかい?」
リアムはしれっとして聞き返す。
「婚約者の段階でそのような触れ合いなどあり得ません。このような大勢の人の前でなんて」
「程度はあると思うけれど、肩や腰に手を回すくらいは夫婦であればある事だよ」
夫婦であれば多少の接触はあり得る。
「まだ婚約者でしょう。それに彼女はデビュタントです」
デビュタントは未婚の令嬢がなるので、それに参加しているラズリーはまだ新成人になり立て。
婚姻が認められるのは今日の社交界デビューを終えてからだ。
「そうデビュタントだ。でもすべての過程を終えた今、彼女はもう成人だよ。つまりもう婚姻も出来る」
そう言われ恥ずかしそうにラズリーは俯いた。
「先程書類上の受理は済ませた。君らはもう正式な夫婦だ、末永くお幸せに」
リアムが祝福の拍手を二人に送る。
157
あなたにおすすめの小説
(完結)伯爵家嫡男様、あなたの相手はお姉様ではなく私です
青空一夏
恋愛
私はティベリア・ウォーク。ウォーク公爵家の次女で、私にはすごい美貌のお姉様がいる。妖艶な体つきに色っぽくて綺麗な顔立ち。髪は淡いピンクで瞳は鮮やかなグリーン。
目の覚めるようなお姉様の容姿に比べて私の身体は小柄で華奢だ。髪も瞳もありふれたブラウンだし、鼻の頭にはそばかすがたくさん。それでも絵を描くことだけは大好きで、家族は私の絵の才能をとても高く評価してくれていた。
私とお姉様は少しも似ていないけれど仲良しだし、私はお姉様が大好きなの。
ある日、お姉様よりも早く私に婚約者ができた。相手はエルズバー伯爵家を継ぐ予定の嫡男ワイアット様。初めての顔あわせの時のこと。初めは好印象だったワイアット様だけれど、お姉様が途中で同席したらお姉様の顔ばかりをチラチラ見てお姉様にばかり話しかける。まるで私が見えなくなってしまったみたい。
あなたの婚約相手は私なんですけど? 不安になるのを堪えて我慢していたわ。でも、お姉様も曖昧な態度をとり続けて少しもワイアット様を注意してくださらない。
(お姉様は味方だと思っていたのに。もしかしたら敵なの? なぜワイアット様を注意してくれないの? お母様もお父様もどうして笑っているの?)
途中、タグの変更や追加の可能性があります。ファンタジーラブコメディー。
※異世界の物語です。ゆるふわ設定。ご都合主義です。この小説独自の解釈でのファンタジー世界の生き物が出てくる場合があります。他の小説とは異なった性質をもっている場合がありますのでご了承くださいませ。
愛を語れない関係【完結】
迷い人
恋愛
婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。
そして、時が戻った。
だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。
捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。
彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。
さて、どうなりますでしょうか……
別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。
突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか?
自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。
私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。
それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。
7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。
ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。
しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。
彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。
「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」
「分かりました。二度と貴方には関わりません」
何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。
そんな中、彼女を見つめる者が居て――
◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。
※他サイトでも連載しています
【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる