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第14話 話し合い(トレイシー視点)
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久しぶりの再会に喜んだのも束の間で、どことなくギクシャクしてしまう。
無理もないわ、私は彼を追い出した側の人だもの。
でもここで諦めるつもりはない。レンに戻ってきて欲しいという思いは、まだ冷めてはいないから。
私は感謝と謝罪の気持ちを言葉にし、何とか邸に戻ってきて欲しい事をレンに伝える。
しかし彼は首を縦に振ってはくれなかった。
「ゴーシュ様の事を気にしてるの?」
そう聞いて躊躇いつつも頷いた様子を見て、私の心はあっさりと傾く。
(やはりあの男との婚約は解消しないといけないわね)
そう心の中で決意し、彼と別れるから戻ってきてはくれないかと交渉するが、断られてしまう。
しかしレンの様子が何やら慌てふためいているように見えた。
私が婚約を無くそうとしている事に驚いたのだろうか。
それとも貴族へ対して侮辱的な事をしたとでも思ったのかもしれない。
(本当に真面目ね)
ここでの会話は二人しか聞いていないのだから、気にしなくていいのに。
この真面目さゆえに彼がもう戻ってこないのが何とももどかしい。
「俺はもう戻りたくありません」
最後の別れの言葉を述べられ、彼に促され部屋の外へと出る。
私は傷心でふらふらになった。
(帰ろう……)
説得に失敗し、レンが帰って来る見込みがない事に落ち込みながら、外へ出ようと出入り口へ向かおうとした時。
「お待ちください、お嬢さん」
帰ろうとした私に声を掛けてきたのは、知らない女性だ。
モカベージュの髪をした妙齢の女性が、人の良さそうな笑みをして私を手招きしている。
きちんとした服装から冒険者などではなさそうだ。
「失礼、私はここの商業ギルドのサブマスターです。皆からは副長と呼ばれていまして、先程あなたが話をしていた彼からもそう呼ばれています」
「レンからも?」
それを聞いて驚いた。
レンはこの商業ギルドによく来るのだろうか?
今は隣の街に居ると聞いたのに、ここまでわざわざ来ているのだろうか。
「色々な事情があるのです。もしよろしければ彼について詳しく話をしたいのですが」
物腰の柔らかそうなその女性は私を誘ってくるが、私は悩んでしまう。
もう既に夜も遅い、この女性が信用に足るかもわからない。
けれどレンの話ならば聞きたい。
(どんな話が出るのかわからないけれど、このまま帰ってしまったらもうレンに会えないかもしれない)
その思いで頷くと、彼女は嬉しそうな顔をした。
「良かった、断られたらどうしようかと思いましたよ。もちろん危害は加えませんから安心してください」
そうして応接室へと案内されるが、室内には可愛らしい女の子がいた。
「副長、無事に呼べたんですね。あっ、どうぞ座ってください」
座る様に促され私は素直に従う。向かいには副長が腰掛けた。
「彼女はリジーと言います。ここの商業ギルドの受付です」
「シア……いえ、レンさんにはとてもお世話になってます」
(彼女もレンの知り合い?)
少しもやっとした気持ちになるが、何故だろう。その正体はよくわからないが、今はそれについて考える時ではないだろう。
リジーは手際よくお茶を淹れてくれ、私の前に置いてくれる。
良い香りが広がるが、それどころではない。
「話とはどういうものでしょうか?」
その後彼女も副長の隣に座り、話し合いが始まった。
「話の前にお聞きしたいことがあります。あなたにとってレンさんはどのような人ですか?」
「レンは私の屋敷で働いていた庭師です。私を助けるために婚約者と揉め事を起こして、その責任を取る為にと仕事を辞めてもらう事になったのです……その為彼に会って謝罪をしようとずっと探していました」
申し訳なさで声が小さくなるが、副長はそうではないとばかりに首を横に振る。
「そういう事ではなく、レンに対してあなたが本当に思っている気持ちです」
「本当の、気持ち? 何の事でしょう、私がレンを探している理由は今言った通りですが」
「いいえ、そんな建前の理由ではなく、もっと深い方の気持ちです」
「?」
副長が私に何を言わせたいのかわからない。
そのやり取りを見ていたリジーが盛大なため息をついた。
「副長、そんな遠回りな聞き方では伝わらないですよ。ねぇお嬢様、あなたレンさんが好きですよね? 男として」
「はぁっ?!」
突拍子もないリジーの言葉に今まで出した事もないような奇怪な声が漏れてしまった。
無理もないわ、私は彼を追い出した側の人だもの。
でもここで諦めるつもりはない。レンに戻ってきて欲しいという思いは、まだ冷めてはいないから。
私は感謝と謝罪の気持ちを言葉にし、何とか邸に戻ってきて欲しい事をレンに伝える。
しかし彼は首を縦に振ってはくれなかった。
「ゴーシュ様の事を気にしてるの?」
そう聞いて躊躇いつつも頷いた様子を見て、私の心はあっさりと傾く。
(やはりあの男との婚約は解消しないといけないわね)
そう心の中で決意し、彼と別れるから戻ってきてはくれないかと交渉するが、断られてしまう。
しかしレンの様子が何やら慌てふためいているように見えた。
私が婚約を無くそうとしている事に驚いたのだろうか。
それとも貴族へ対して侮辱的な事をしたとでも思ったのかもしれない。
(本当に真面目ね)
ここでの会話は二人しか聞いていないのだから、気にしなくていいのに。
この真面目さゆえに彼がもう戻ってこないのが何とももどかしい。
「俺はもう戻りたくありません」
最後の別れの言葉を述べられ、彼に促され部屋の外へと出る。
私は傷心でふらふらになった。
(帰ろう……)
説得に失敗し、レンが帰って来る見込みがない事に落ち込みながら、外へ出ようと出入り口へ向かおうとした時。
「お待ちください、お嬢さん」
帰ろうとした私に声を掛けてきたのは、知らない女性だ。
モカベージュの髪をした妙齢の女性が、人の良さそうな笑みをして私を手招きしている。
きちんとした服装から冒険者などではなさそうだ。
「失礼、私はここの商業ギルドのサブマスターです。皆からは副長と呼ばれていまして、先程あなたが話をしていた彼からもそう呼ばれています」
「レンからも?」
それを聞いて驚いた。
レンはこの商業ギルドによく来るのだろうか?
今は隣の街に居ると聞いたのに、ここまでわざわざ来ているのだろうか。
「色々な事情があるのです。もしよろしければ彼について詳しく話をしたいのですが」
物腰の柔らかそうなその女性は私を誘ってくるが、私は悩んでしまう。
もう既に夜も遅い、この女性が信用に足るかもわからない。
けれどレンの話ならば聞きたい。
(どんな話が出るのかわからないけれど、このまま帰ってしまったらもうレンに会えないかもしれない)
その思いで頷くと、彼女は嬉しそうな顔をした。
「良かった、断られたらどうしようかと思いましたよ。もちろん危害は加えませんから安心してください」
そうして応接室へと案内されるが、室内には可愛らしい女の子がいた。
「副長、無事に呼べたんですね。あっ、どうぞ座ってください」
座る様に促され私は素直に従う。向かいには副長が腰掛けた。
「彼女はリジーと言います。ここの商業ギルドの受付です」
「シア……いえ、レンさんにはとてもお世話になってます」
(彼女もレンの知り合い?)
少しもやっとした気持ちになるが、何故だろう。その正体はよくわからないが、今はそれについて考える時ではないだろう。
リジーは手際よくお茶を淹れてくれ、私の前に置いてくれる。
良い香りが広がるが、それどころではない。
「話とはどういうものでしょうか?」
その後彼女も副長の隣に座り、話し合いが始まった。
「話の前にお聞きしたいことがあります。あなたにとってレンさんはどのような人ですか?」
「レンは私の屋敷で働いていた庭師です。私を助けるために婚約者と揉め事を起こして、その責任を取る為にと仕事を辞めてもらう事になったのです……その為彼に会って謝罪をしようとずっと探していました」
申し訳なさで声が小さくなるが、副長はそうではないとばかりに首を横に振る。
「そういう事ではなく、レンに対してあなたが本当に思っている気持ちです」
「本当の、気持ち? 何の事でしょう、私がレンを探している理由は今言った通りですが」
「いいえ、そんな建前の理由ではなく、もっと深い方の気持ちです」
「?」
副長が私に何を言わせたいのかわからない。
そのやり取りを見ていたリジーが盛大なため息をついた。
「副長、そんな遠回りな聞き方では伝わらないですよ。ねぇお嬢様、あなたレンさんが好きですよね? 男として」
「はぁっ?!」
突拍子もないリジーの言葉に今まで出した事もないような奇怪な声が漏れてしまった。
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