上 下
16 / 16

第16話 目的は

しおりを挟む
 再び相まみえたお嬢様は雰囲気が違い過ぎて別人のように思えた。

 夜ではなく昼間に来たのもあってか、フードも被らずに堂々としている。

 ドアの隙間からちらりと見えたが護衛もつけてきたようだ。

(立場も変わったのだな。まぁ色々な事に成功していると聞くし、それに伴い雰囲気も変わってる)

 以前のように嫋やかで美しいのだけれど、同時に力強さも感じるというか逞しくなったというか。

(けれどやはり赤い糸の先はないんだな)

 握らせでもらった手には以前と変わらず繋がる糸は見えない。

 恐らく様々な人と出会っているはずなのに、何故だ。お嬢様程の人ならば良き出会いもありそうなのに

「どうされましたか?」

 その言葉にハッとし、どうしたらよいかと頭を捻る。

 たとえ見えなくてもお嬢様に相応しそうな人物をお薦めすればいいのかもしれないけれど、その適当な人物すらも思いつかない。

 今やティナビア家は大きな事業も興し、他家からも一目置かれている存在だ。

 生半可な者では、鼻にすらかけられない。

「そう、ですね。ちなみにお嬢様が気になっている方はいらっしゃらないのですか?」

「私が気になっている人ですか?」

 反対に質問をしたらお嬢様は驚いた顔をしている。

「えぇ。実は俺には縁を繋ぐ力があるのです。ですのであなたが望む人と近づくことが出来ます」

 該当する人物がいないのであれば、お嬢様が望む人との恋を成就させればいいのだ。

 お金がなくとも見目が悪くとも、お嬢様が好きだという気持ちがあれば上手くいくはずだ。

(お嬢様なら前の婚約者よりも良い人を選ぶだろうから)

 お互いを想い、支える存在であれば、些細な事は乗り越えられる。

「その縁とは、どうやって繋ぐのです。まさか、魅了魔法などの違法なものでは?」

「そのようなものではありません。俺が出来るのはきっかけを作る事、もともとあったものをより強固にするだけのもので、根本は二人の絆がないと出来ませんから」

 多少話を盛るが、卑怯な事をしたくないとお嬢様に断られてしまう事も考え、けして悪い事ではないと伝える。

 少し迷った後でお嬢様は口を開く。

「では、お願いしたい人がいるのですけど。伝えた後でやはり無理とは言いませんか?」

「既婚者や既に婚約者がいる人でなければ、出来る限りご希望に沿いたいと思います」

 お嬢様が非人道的な恋愛を願うとは思わないけれど、お付き合いをしているのを知らなかったとはありそうだ。

 念の為の思いで話しをしたのだけれど、当然とばかりに頷かれる。

「そうであれば勿論諦めます。けれど彼が少しでも私の事を思ってくれているのであればぜひお願いしたいですね」

「後押しをするという形で良いのであれば」

 相手の気持ちが僅かでも向いているならばという内容に、お嬢様も納得してくれたようだ。

「それでお相手はどのような人なのでしょうか。名前や容姿など詳しく教えて欲しいのですが」

 もしも俺が知っている者ならば、会いに行ってお嬢様の魅力を伝えてその気にさせよう。

 知らない者であれば副長やリジーの手も借りて探し出す。

 そうしてお嬢様に幸せになってもらうんだ。

「そうですね……彼は昔からの知り合いでして、とても真面目で優しい人です。でもなかなか本心を打ち明けてくれませんでした」

 少し気恥ずかしそうに話し始めてくれる。

「奥手な男性なのでしょうか」

「奥手だと思っていました。彼は親しい人を作ろうとせずいましたから。私はそう思っていたのですけど、新しい場所では仲の良い仕事仲間もいるようなのです。どうも私の所にいた時とは違うみたいで。彼は私に対して好感を持っていなかったかもしれません」

 もの悲しい表情を見て、俺は俄然やる気が出てきた。

 お嬢様が気になっている男性とくっ付けることが幸せに繋がるんだと。

 こうして直接手助けできるのは嬉しい。色々と諦めがついた後ならば尚更だ。

(副長とリジーが言っていたのはやはり勘違いだったんだ)

 お嬢様が俺を好きだというのはなさそうだ。

 その事で少し気持ちが落ち込むが、こんなものは些細な痛みだ。

「もう少し、詳しく話を聞かせて頂けますか? 情報が多ければ多い程縁も繋ぎやすいですから」

 その男がお嬢様を幸せに出来る男ならばいいが。もしまた駄目で最低な男であればすぐに解消しに行く。

 そんなつもりでいたのだけれど、お嬢様の口から出た名前は意外なものであった。

「実はその人は、この前占い師さんにお願いした元庭師のレンなんです」

 ……これは一体どうしたらいいのだろう。

 さすがに想定外の事にしばし意識がどこかに行ってしまった。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...