16 / 19
第16話 約束
しおりを挟む
「大丈夫だ、俺が守る」
ゼイン様の声が聞こえるとともに、ガラスが割れる音も響いた。見ると窓が割れており、煙が外へと流れていく。
「誰かはこうしてくるとは思っていたが、こんな変装をしてくるとはな」
開け放ったドアのところにはゼイン様の他にも王宮の兵士が立っている。
「馬鹿な。ここにいた兵たちは眠らせたはずなのに」
「王宮の兵士たちが、お前たちのような二流に負けるわけがないだろう。人を集め一網打尽にするために泳がせただけだ。大人しく捕縛されろ」
ゼイン様の声で王宮の兵士が室内になだれ込んでくる。
割れた窓から逃げ出そうとしたものを、ゼイン様が振るった剣が襲い掛かる。
鞭のようにしなやかで、そして細く長い刃が人を貫くのが見えた。
「フィリオーネ様、下がりましょう」
ネイトが私の視界を防ぐように前に出てくれるが、血の匂いは防げない。
仕方ない事だけど、ぎゅっと目を瞑り、ネイトの服を握りしめてやり過ごす。
少しして全ての人が捕らえられるも、部屋の中は様変わりし、壊れたものが散乱するというひどい有様であった。
「怪我はしていないかフィリオーネ、具合が悪いなどないか」
「私は、大丈夫です……それよりもゼイン様も大丈夫ですか?」
ゼイン様が戦うところなんて初めて見たけど、怪我をしていないかが心配だ。
「俺は大丈夫だ。それよりも怖い思いをさせてしまってすまない。ずっと側にいられれば良かったのだが、ここから追い出されたものだからな」
ゼイン様はレイドとネイトを睨みつけるが二人は目を反らし素知らぬ顔をしている。
「それよりもフィリオーネ様、そろそろお時間です。急いで向かわないと」
「ではゼイン様も一緒に」
あんなことがあった後なので一人で行くのは心細い。
「いや俺は、少し用を済ませてから向かう。だから先に行っていてはくれないか?」
「え?」
今までこのような事で断られたことはないのに。
「大丈夫すぐに追いかけるから。フィリオーネの歌には必ず間に合わせる、だから安心して」
そう言って背を向けるゼイン様の腕に血が付いているのを見つける。
(まさか、怪我をして……!)
それを隠すためになのだろうか。
心配でたまらない。
「フィリオーネ様、行きましょう。もう始まってしまいますから」
ルミネに手を引かれ、私は舞台へと向かう。けれど頭の中はゼイン様の事でいっぱいだ。
(私のせいであんな怪我を負わせてしまった)
私がもっとしっかりしていたら、もっと強ければ、あんな事にはならなかっただろう。
悔いても悔やみきれない。
ふらふらと舞台袖に行くと、ククルが既に到着していた。
「あらフィリオーネ。よく顔を出せたわね、逃げ出すかと思ったのに」
そんな嫌みなど少しも気にはならない。
「あたしがカナリアになれば、あなたは終わりよ。シャルペ家からも追い出され、貴族からも見向きもされない。みじめな人生を歩むようになるわよ。逃げるなら今のうちよ」
「そう」
ククルの言う事なんて今はどうでもいい。ゼイン様の事が心配で、返事をするのも億劫だ。
「何よその態度……! 決めた、あたしがカナリアになったらお触れを出すわ。あなたを国外に追放するって」
そんな権限が与えられるなんて聞いたこともないけれど、そんな事で心は動かない。
「なんとか言いなさいよ、鶸のくせに!」
キィキィとわめくククルだけれど、何かを話す気にはなれない。
(ゼイン様……どうかご無事でありますように)
そう願うしかなかった。
◇◇◇
「急いで別な服を、フィリオーネの歌に間に合うように」
ゼインは急いで体を拭いて、レイドに新しい衣装を命じる。
「あんな狭い所でやり合うんじゃなかった。くそ、折角フィリオーネの衣装と合わせたのに!」
返り血を浴びてしまったことは完璧に誤算であった。
フィリオーネに危害を加えられるかもしれないとは想定していたが、やはり目の当たりにすると血が上ってしまうものだ。
(血が付いたなどと言えば繊細なフィリオーネの事だ、倒れてしまうかもしれない)
そんな心配を駆けたくなくてそそくさと離れてしまったが、本当はあのまま一緒に舞台へと向かって間近で応援したかったのに。
一体誰だ、刺客を放ったのは。
「絶対に許さない」
ゼイン様の声が聞こえるとともに、ガラスが割れる音も響いた。見ると窓が割れており、煙が外へと流れていく。
「誰かはこうしてくるとは思っていたが、こんな変装をしてくるとはな」
開け放ったドアのところにはゼイン様の他にも王宮の兵士が立っている。
「馬鹿な。ここにいた兵たちは眠らせたはずなのに」
「王宮の兵士たちが、お前たちのような二流に負けるわけがないだろう。人を集め一網打尽にするために泳がせただけだ。大人しく捕縛されろ」
ゼイン様の声で王宮の兵士が室内になだれ込んでくる。
割れた窓から逃げ出そうとしたものを、ゼイン様が振るった剣が襲い掛かる。
鞭のようにしなやかで、そして細く長い刃が人を貫くのが見えた。
「フィリオーネ様、下がりましょう」
ネイトが私の視界を防ぐように前に出てくれるが、血の匂いは防げない。
仕方ない事だけど、ぎゅっと目を瞑り、ネイトの服を握りしめてやり過ごす。
少しして全ての人が捕らえられるも、部屋の中は様変わりし、壊れたものが散乱するというひどい有様であった。
「怪我はしていないかフィリオーネ、具合が悪いなどないか」
「私は、大丈夫です……それよりもゼイン様も大丈夫ですか?」
ゼイン様が戦うところなんて初めて見たけど、怪我をしていないかが心配だ。
「俺は大丈夫だ。それよりも怖い思いをさせてしまってすまない。ずっと側にいられれば良かったのだが、ここから追い出されたものだからな」
ゼイン様はレイドとネイトを睨みつけるが二人は目を反らし素知らぬ顔をしている。
「それよりもフィリオーネ様、そろそろお時間です。急いで向かわないと」
「ではゼイン様も一緒に」
あんなことがあった後なので一人で行くのは心細い。
「いや俺は、少し用を済ませてから向かう。だから先に行っていてはくれないか?」
「え?」
今までこのような事で断られたことはないのに。
「大丈夫すぐに追いかけるから。フィリオーネの歌には必ず間に合わせる、だから安心して」
そう言って背を向けるゼイン様の腕に血が付いているのを見つける。
(まさか、怪我をして……!)
それを隠すためになのだろうか。
心配でたまらない。
「フィリオーネ様、行きましょう。もう始まってしまいますから」
ルミネに手を引かれ、私は舞台へと向かう。けれど頭の中はゼイン様の事でいっぱいだ。
(私のせいであんな怪我を負わせてしまった)
私がもっとしっかりしていたら、もっと強ければ、あんな事にはならなかっただろう。
悔いても悔やみきれない。
ふらふらと舞台袖に行くと、ククルが既に到着していた。
「あらフィリオーネ。よく顔を出せたわね、逃げ出すかと思ったのに」
そんな嫌みなど少しも気にはならない。
「あたしがカナリアになれば、あなたは終わりよ。シャルペ家からも追い出され、貴族からも見向きもされない。みじめな人生を歩むようになるわよ。逃げるなら今のうちよ」
「そう」
ククルの言う事なんて今はどうでもいい。ゼイン様の事が心配で、返事をするのも億劫だ。
「何よその態度……! 決めた、あたしがカナリアになったらお触れを出すわ。あなたを国外に追放するって」
そんな権限が与えられるなんて聞いたこともないけれど、そんな事で心は動かない。
「なんとか言いなさいよ、鶸のくせに!」
キィキィとわめくククルだけれど、何かを話す気にはなれない。
(ゼイン様……どうかご無事でありますように)
そう願うしかなかった。
◇◇◇
「急いで別な服を、フィリオーネの歌に間に合うように」
ゼインは急いで体を拭いて、レイドに新しい衣装を命じる。
「あんな狭い所でやり合うんじゃなかった。くそ、折角フィリオーネの衣装と合わせたのに!」
返り血を浴びてしまったことは完璧に誤算であった。
フィリオーネに危害を加えられるかもしれないとは想定していたが、やはり目の当たりにすると血が上ってしまうものだ。
(血が付いたなどと言えば繊細なフィリオーネの事だ、倒れてしまうかもしれない)
そんな心配を駆けたくなくてそそくさと離れてしまったが、本当はあのまま一緒に舞台へと向かって間近で応援したかったのに。
一体誰だ、刺客を放ったのは。
「絶対に許さない」
56
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます
りんりん
恋愛
特産物のないポプリ国で、唯一有名なのは魔法だ。
初代女王は、歴史に名を残すほどの魔法使い。
それから数千年、高い魔力を引き継いだ女王の子孫達がこの国をおさめてきた。
時はアンバー女王の時代。
アンバー女王の夫シュリ王婿は、他国の第八王子であった。
どこか影の薄い王婿は、三女ローズウッドを不義の子ではと疑っている。
なぜなら、ローズウッドだけが
自分と同じ金髪碧眼でなかったからだ。
ローズウッドの薄いピンク色の髪と瞳は宰相ククスにそっくりなのも、気にいらない。
アンバー女王の子供は四人で、すべて女の子だった。
なかでもローズウッドは、女王の悩みの種だ。
ローズウッドは、現在14才。
誰に似たのか、呑気で魔力も乏しい。
ある日ストーン国のレオ王から、ローズウッド王女を妻にしたいとうい申し出が届いた。
ポプリ国は、ストーン国から魔法石の原料になる石を輸入している。
その石はストーン国からしか採れない。
そんな関係にある国の申し出を、断ることはできなかった。
しかし、レオ王に愛人がいるという噂を気にしたアンバー女王は悩む。
しかし、ローズウッド王女は嫁ぐことにする。
そして。
異国で使い魔のブーニャンや、チューちゃんと暮らしているうちに、ローズウッドはレオ王にひかれていってしまう。
ある日、偶然ローズウッドは、レオ王に呪いがかけられていることを知る。
ローズウッドは、王にかけられた呪いをとこうと行動をおこすのだった。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。
雨宮羽那
恋愛
聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。
というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。
そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。
残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?
レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。
相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。
しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?
これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。
◇◇◇◇
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます!
モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪
※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。
※完結まで執筆済み
※表紙はAIイラストです
※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
《完結》《異世界アイオグリーンライト・ストーリー》でブスですって!女の子は変われますか?変われました!!
皇子(みこ)
恋愛
辺境の地でのんびり?過ごして居たのに、王都の舞踏会に参加なんて!あんな奴等のいる所なんて、ぜーたいに行きません!でブスなんて言われた幼少時の記憶は忘れないー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる