塔の姫は隣国の王子と恋をする

しろねこ。

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兄弟姉弟

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「君が弟の婚約者候補だね」
にこやかなエリックはミューズを頭の先から足の先までジロジロと見る。
ティタンがその視線から庇うようにミューズの前に立つ。

「俺の妻になる人です。ジロジロと見ないでください」
「あの、まだ了承してませんが…」
ミューズの否定の声を黙殺し、その横でリオンが声を殺して笑っている。
「まだ婚約すら交わしてないだろ。落ち着け」

弟の変わり様に苦笑しながら考える。
噂が当てにならないくらい、とても聡明そうである。そして美しい。

「失礼、様々な噂を聞いていたもので。無礼を働いてしまったな、非礼を詫びる」
深々と頭を下げるとミューズは慌ててしまう。
「お気になさらないでください、私がきちんと噂の否定をしなかったのが悪いのです」
その時間もなかったのであろうと容易に想像は出来る。

国政を支えるのは並大抵のことではない。
数々の側近に支えられているこの国でも大変なのだ。国王という要が倒れてからこの少女がしてきた苦労は慮られる。

「忙しかったのだから、仕方ないさ。
それより君の身内だという無関係者がまぎれ込んでいた。先程丁重にお帰り頂いたが、きっとあの噂は彼女の事であろう」
リンドールの馬車に乗ってきたので通してしまったようだが、本来彼女は招待客ではない。
あくまでリンドール王家の正統な血筋であるリオンとミューズへ向けての招待状だったのだ。

「マナーの伴わない下品な女だった。あれを茶会に招く貴族が果たしているのだろうか」
王太子の発言は静かに浸透する。
これでリンドール国の上位貴族は彼女を誘う事はしないだろう、ただの王家の居候なのだから。

やがてはこの発言が広がり、下位貴族も誘わなくなるだろうと推測される。
残るのは彼女たちと似たような思想の持ち主だけになるはずだ。
「既に書類は出来ている。あとはスフォリア家の署名と押印だけだ」
「僕が国王代理で書きます、すぐ用意してください」
「ねぇ待って?展開が早すぎる」

エリックの言葉もリオンの言葉も、おかしい。

仕組まれていたのではないかとミューズは、おろおろとする。
ここまで困惑させられる事がここ最近あっただろうか。ティタンに会ってから散々な気がしてならない。

ちらりとティタンを見るとキラキラした目でこちらを見ている。
期待に満ちた目だ、自分も惚れてしまったため突っぱねる事が出来ない。
(これが惚れた弱み…)
恋愛小説で読んでいた展開だがいざ自分がその場に立つとなんと困惑するものだろうか。

「すぐに応接室を用意しよう、我が弟を頼むぞミューズ嬢」
止めるもののない婚約劇はまだまだ続くようだ。
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