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婚約届

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彼女と初めてあったのは自分が十二、彼女が十の頃だ。

その頃まだティタンの身体は今ほど仕上がっておらず、ミューズもティタンを覚えていなかった。
ミューズの母も生きており、初めて参加した大規模なパーティでワクワクしたのを覚えている。

きれいな王宮、美味しい食べ物。似たような令嬢達。
しかしあっという間に飽きてしまい、こっそりと庭に出てしまった。

同じく庭に出ていたミューズと出会い、意気投合する。
ミューズは護衛に来ている騎士達を見たいがため庭に来ていたそうだ。

ティタンも魔法が使えずしかし国のために力はをつけたいと騎士に憧れていると話した。
ミューズに様々な魔法を見せてもらっているうちにミューズは目の色でからかわれてしまうのだと悩みを打ち明けしょんぼりしていたが「君の瞳はとてもキレイだよ。キラキラとして宝石みたい」

お世辞でも何でもなく、そう伝えるとミューズはとても嬉しいようだった。

ティタンとしては何故不気味なのか理解が出来なかった、こんなにキレイなのに。

高価な衣装をどろどろにして帰ってしまい、さすがに父と母に怒られたが、後悔はしていない。

この出来事はキレイな思い出として胸いっぱいにしまっていた。
将来兄を支えるため、騎士を目指して目下修行に励んでいたティタンのもとにもやがて悲しい知らせが届く。

隣国の王妃の訃報、国王の不在、ミューズの良からぬ噂。

彼女の支えになりたいと度々リンドールお忍びで訪れた。

そこで見るのは昔と違ってやや荒れた街並み。国王不在に加え、散財する寄生虫が王家に入り込んでしまったために起きたのだろう。

陰ながら支えることが出来ればと勝手に巡視していた。

たまたま起きた暴れ馬事件にて、ミユと出会う。どことなくミューズの面影を見て、勧誘してしまったが、同一人物でホッとした。
初恋の人と気にかけた人が一緒で高鳴る気持ちが抑えらず、ついパーティの最中にプロポーズをしてしまった。
もともと兄が国王になれば臣下となるため、ティタンの結婚相手はそこまで拘られてはいない。

必要な礼節さえ持っていればそれでいいと兄から言われただけだった。

兄を信頼し、そして結婚は自分だけのことではないと自覚していたため、しっかりと想いについては報告していた。他の令嬢からの誘いは全て断るために。

想い人はもはや決まっているし、エリックも乗り気だった。
そのため婚約の誓約書も、なんなら結婚の誓約書も早々と準備されて大事に金庫に仕舞われていたのである。

あとはミューズの署名と押印だけだ。

「あのティタン様、なぜ私を結婚相手に?」
なぜと言われると…
「まず優しい。そして清廉潔白、清純可憐。相手の気持ちをくみ取るのも上手でかと言ってけして自分の思いを抑えすぎない線引の上手さ。自分にはない知的さがある。そしてあの子ども達をみる慈愛に満ちた目はまるで聖女のようで」
「子どもたち?王宮に子どもはいないはずでは?」
「街を視察していたところお忍びで来ているミューズ殿をたまたま孤児院にてお見かけした。民よりもさらに酷い服装であったが、その気高さは隠す事は出来ず孤児院の院長もどこかの貴族だったのではないかとおっしゃっていた」

手放しで褒められたこと、リオンに知られたら怒られる秘密を暴露されたこと、ミューズの顔は赤くなったり青くなったりと大忙しだ。

「その時に名乗られたのがミユという名前だったので、先程はつい失礼した」
「…いえ」
なんの捻りもない偽名で恥ずかしい。
「だが、ミユ殿とミューズ殿が同じ人物で良かった。弟は初恋と新たな恋に悩んでいた、兄としては万々歳だ」
「兄上!」

自分の懸想をバラされてしまい、ティタンが真っ赤になっている。
「それはどういうことです?」
興味津々のリオンは詰め寄るようにエリックに話の続きを促す。

もはやミューズはここから消えたいと思ったほどだ。

「初恋?」
エリックの言葉に引っかかりを感じ、ティタンを見つめる。
大きな身体を縮こませ、いつもの自信たっぷりの態度とは違う小さな声で、

「そうだ、俺の初恋は君だ…兄上のデビュタントで会ったあのときに。しかし街でミユ殿を誘ったのも本心だ。あなたと離れ難かった」

姿の違うどちらのミューズにも好意を抱いていたのだ。ティタンはそれと知らず、全く違う自分を本能で見つけてくれたのだ。
ミューズの気持ちは有頂天になる。
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