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お引っ越し
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大臣と宰相への誓約書の話は遣わせられた使者とリオンにお願いし、急いで皆への説明と持ってくものの準備に取り掛かる。
急な話でびっくりしていたが、皆の意見を聞いて執事のクルガンがまとめていく。
「噂通りすごいところですね~」
猫のような目を細め、リオンの従者ーマオがビックリしていた。
もともとはエリックから遣わされたそうでリオンが学園に入ったあとに仕えだした。
ミューズも詳しい人となりを知らない。
短い黒髪と黒い目をしている。このあたりでは珍しい容貌をしている。
使用人達と話をしつつ一緒に荷づくりを手伝ってくれていた。
「よくこんな所で五年もがんばったものです。ミューズ様すごいです」
手早く本などを仕舞いながら、てきぱきと引き連れてきた馬車に移動していく。
装飾品やドレスなどの貴重品や思い出の品は邪魔が入らない内に先に馬車に乗せ出発させた。
アドガルム王家の紋章が入った馬車を止められる者は少ないだろう。
輿入れの邪魔はさせない。
「これは一体どういう事です?!」
手早い作業で荷物を運び出していたところ、金切り声があがった。
義妹のカレンだ。
「こちらにあるものはお義姉さまの私物ではなく、全て王家の物です!勝手に運び出すことは私が許しません!」
キンキンと高い声で叫ぶカレンの声にマオは顔をしかめる。
「オマエの物でもないし、王家の血筋でもない者に言われたくないな」
ぼそっと聞こえないくらいの小さな声で呟く。
悪意ある声にミューズの方が震える。
ガラリと表情を変え、マオはまぁまぁとカレンを部屋から連れ出した。
「お騒がせして申し訳ない。私はアドガルム国第一王子エリック様の従者マオと申します。以後お見知りおきを」
「エリック様の従者?」
丁寧に頭を下げ、事情説明をしていく。
「この度我が国の第二王子であるティタン様とあなたの義姉様(本当か疑わしいが)であるミューズ様の婚約が成立されました。つきましては我が国へのお引っ越しを早急に行いたいと準備していたところです」
「なんですって?!」
忌み嫌っていた義姉がまさかの第二王子との婚約?しかも自分をパーティから追い出したあの国に嫁ぐだと?
義姉だけ幸せになんてさせるものですか。あの女は日陰を歩くのがお似合いなのに。
カレンが罵声を浴びせるより早くぺらぺらとマオが喋りだす。
「この間のパーティでは我が主がカレン様にとんだご無礼を。私が変わって謝罪申し上げます。しかしあの場では我が主も事情があっての事でして…本意ではないという事だけでもぜひご理解して頂きたい」
「どういう事よ」
「我が主はいまだあの年齢で結婚もされておらず極度の恥ずかしがりなもので、婚約者もおりません。そのような中あなたみたいな華やかでお美しい方に話しかけられて極度の照れ屋が発動したみたいなのです」
大仰に芝居がかったセリフを大きな声で捲し立てられた。
美しいと面と向かって言われ当然とばかりにふんぞり返る。
「しかし残念ながら、あなたはまだ王族に連なる資格をお持ちでない。国王様がまだ目覚めてないからとお聞きしております。
国王様の血統である青い目をお持ちなのに…貴方様が早く認められるためには正妻であった前王妃の子どもが邪魔であるとこの度急遽婚約を急いだのです」
一気にトーンを下げ、ひそひそと囁く。
「エリック様は次期国王候補、さすがに爵位もない方と婚姻をするのは周囲が許しません。ですが、あなたは孤児院などへ足を運び身寄りのない者たちへの支援を頑張っていると話に聞きます。足を引っ張るミューズ様が居なくなればあなたの活躍はまたたく間に広がり民達からの信頼も厚くなることでしょう。今のままなら王族と認められる事もそう遠くはないでしょう」
「パーティの際、あの時あの場であなたにお帰り頂いたのはその美しさを他の者に見られたくない、取られたくないというエリック様のヤキモチだったからです」
嘘ですがと心の中で付け加え、すっと懐から宝石箱を取り出してカレンに渡す。
「お詫びの品としてエリック様よりあなたへとこちらをお預かりしました。こんな古ぼけた塔に住まうミューズ様のお古などあなたに相応しくありません。前王妃の遺恨となるミューズ様と共に私共に引き取らせて頂きたい」
宝石箱にはきらきらとしてアクセサリーかこれでもかと詰まっていた。
どれも人目を惹く見栄えのするデザインだ。
「こんな宝石を私に…」
目を輝かせて宝石箱を受け取る。ズシリとした重みにカレンは興奮した。
「まずはこの国のお荷物であるミューズ様を我が国で1番無粋で女性にもてない、王になど到底なる事も出来ないティタン様へ嫁がせたいと思います。一応は王子ですのでリンドール王家の信用は多少回復するでしょう」
そして、と言葉を続けていく。
「本来であれば嫁ぐ側が用意する支度金をこちらで用意させて頂きたいと思います。詳しい話は現在王宮にて話が進められているでしょう」
アドカルムの使者とリンドールの大臣、宰相、カレンの母が同席していると話は聞いている。そのために自分は王宮を追い出され、暇つぶしでここに来たのだ。
「エリック様が愛する女性がいる国です、けしてこの国に不利益になるような事はいたしません。そしてその方を無事に王妃にお迎え出来るよう万全を期して心を砕いているのです。どうかおわかりになってください」
カレンを真っ直ぐに見つめ、マオは丁寧に礼をした。
急な話でびっくりしていたが、皆の意見を聞いて執事のクルガンがまとめていく。
「噂通りすごいところですね~」
猫のような目を細め、リオンの従者ーマオがビックリしていた。
もともとはエリックから遣わされたそうでリオンが学園に入ったあとに仕えだした。
ミューズも詳しい人となりを知らない。
短い黒髪と黒い目をしている。このあたりでは珍しい容貌をしている。
使用人達と話をしつつ一緒に荷づくりを手伝ってくれていた。
「よくこんな所で五年もがんばったものです。ミューズ様すごいです」
手早く本などを仕舞いながら、てきぱきと引き連れてきた馬車に移動していく。
装飾品やドレスなどの貴重品や思い出の品は邪魔が入らない内に先に馬車に乗せ出発させた。
アドガルム王家の紋章が入った馬車を止められる者は少ないだろう。
輿入れの邪魔はさせない。
「これは一体どういう事です?!」
手早い作業で荷物を運び出していたところ、金切り声があがった。
義妹のカレンだ。
「こちらにあるものはお義姉さまの私物ではなく、全て王家の物です!勝手に運び出すことは私が許しません!」
キンキンと高い声で叫ぶカレンの声にマオは顔をしかめる。
「オマエの物でもないし、王家の血筋でもない者に言われたくないな」
ぼそっと聞こえないくらいの小さな声で呟く。
悪意ある声にミューズの方が震える。
ガラリと表情を変え、マオはまぁまぁとカレンを部屋から連れ出した。
「お騒がせして申し訳ない。私はアドガルム国第一王子エリック様の従者マオと申します。以後お見知りおきを」
「エリック様の従者?」
丁寧に頭を下げ、事情説明をしていく。
「この度我が国の第二王子であるティタン様とあなたの義姉様(本当か疑わしいが)であるミューズ様の婚約が成立されました。つきましては我が国へのお引っ越しを早急に行いたいと準備していたところです」
「なんですって?!」
忌み嫌っていた義姉がまさかの第二王子との婚約?しかも自分をパーティから追い出したあの国に嫁ぐだと?
義姉だけ幸せになんてさせるものですか。あの女は日陰を歩くのがお似合いなのに。
カレンが罵声を浴びせるより早くぺらぺらとマオが喋りだす。
「この間のパーティでは我が主がカレン様にとんだご無礼を。私が変わって謝罪申し上げます。しかしあの場では我が主も事情があっての事でして…本意ではないという事だけでもぜひご理解して頂きたい」
「どういう事よ」
「我が主はいまだあの年齢で結婚もされておらず極度の恥ずかしがりなもので、婚約者もおりません。そのような中あなたみたいな華やかでお美しい方に話しかけられて極度の照れ屋が発動したみたいなのです」
大仰に芝居がかったセリフを大きな声で捲し立てられた。
美しいと面と向かって言われ当然とばかりにふんぞり返る。
「しかし残念ながら、あなたはまだ王族に連なる資格をお持ちでない。国王様がまだ目覚めてないからとお聞きしております。
国王様の血統である青い目をお持ちなのに…貴方様が早く認められるためには正妻であった前王妃の子どもが邪魔であるとこの度急遽婚約を急いだのです」
一気にトーンを下げ、ひそひそと囁く。
「エリック様は次期国王候補、さすがに爵位もない方と婚姻をするのは周囲が許しません。ですが、あなたは孤児院などへ足を運び身寄りのない者たちへの支援を頑張っていると話に聞きます。足を引っ張るミューズ様が居なくなればあなたの活躍はまたたく間に広がり民達からの信頼も厚くなることでしょう。今のままなら王族と認められる事もそう遠くはないでしょう」
「パーティの際、あの時あの場であなたにお帰り頂いたのはその美しさを他の者に見られたくない、取られたくないというエリック様のヤキモチだったからです」
嘘ですがと心の中で付け加え、すっと懐から宝石箱を取り出してカレンに渡す。
「お詫びの品としてエリック様よりあなたへとこちらをお預かりしました。こんな古ぼけた塔に住まうミューズ様のお古などあなたに相応しくありません。前王妃の遺恨となるミューズ様と共に私共に引き取らせて頂きたい」
宝石箱にはきらきらとしてアクセサリーかこれでもかと詰まっていた。
どれも人目を惹く見栄えのするデザインだ。
「こんな宝石を私に…」
目を輝かせて宝石箱を受け取る。ズシリとした重みにカレンは興奮した。
「まずはこの国のお荷物であるミューズ様を我が国で1番無粋で女性にもてない、王になど到底なる事も出来ないティタン様へ嫁がせたいと思います。一応は王子ですのでリンドール王家の信用は多少回復するでしょう」
そして、と言葉を続けていく。
「本来であれば嫁ぐ側が用意する支度金をこちらで用意させて頂きたいと思います。詳しい話は現在王宮にて話が進められているでしょう」
アドカルムの使者とリンドールの大臣、宰相、カレンの母が同席していると話は聞いている。そのために自分は王宮を追い出され、暇つぶしでここに来たのだ。
「エリック様が愛する女性がいる国です、けしてこの国に不利益になるような事はいたしません。そしてその方を無事に王妃にお迎え出来るよう万全を期して心を砕いているのです。どうかおわかりになってください」
カレンを真っ直ぐに見つめ、マオは丁寧に礼をした。
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