13 / 38
苦難(宰相視点)
しおりを挟む
「今日も、生き延びた…」
倒れ込むようにベッドに横になる。もう何年家に帰ってないのだろうか。
王宮に自室はあるが自宅ではない。
自分の本来の邸宅に帰りたいと、何度思ったことか。
実家からくる手紙も極端に減った。
手紙の返事も出来ず、今の王政を思慮してかぽつりぽつりと体の心配をする手紙が来るだけになった。
結婚適齢期にはお見合いについての手紙も来ていたが、25才をまわった頃にぷつりと途絶えた。もはや周囲からも見限られたのだろう。
実家は優秀な兄がおり家を継いでいる。甥も姪もいるため、家の存続については何ら心配していない。
思えば好き勝手させてもらい、こうして官職につけた時は幸せで胸がいっぱいだった。
大変ではあるがやりがいのある仕事、素敵な国王夫妻や美しい王女や王子に囲まれ、正直ウハウハな気持ちで仕事に臨めた。
しかし、王妃が亡くなり風向きがガラリと変わったのだ。
国王は心を病み、ついに寝たきりとなる。
変な女が王宮に入り込み、自慢の王女が辺鄙な離れに押し込められてしまった。
王子まで毒牙にかかってはいけないとツテを使い王妃の親類に託すことが出来た。
バタバタと周りの者がやめ、あるいは野心ある大臣に取り込まれ、いなくなっていった。
あとに残ったのは膨大な仕事だけ。
皆が夕食を終え寛ぐ頃にこっそりと王女が手伝いに現れる。
まさに女神、優しさの化身。
「いつも国のためにありがとう」
その言葉だけが心の救いだ。
時には一緒に涙を流し、時には本の話をし、時には恋バナなどをし…
「レナン様はどういう方が好きなのかしら」
恋愛小説が好きなミューズはキラキラと耀いた目でこちらを見る。
眩しい、眩しすぎる。
恋に恋する乙女の視線は婚期を逃した大人には辛い。
「残念ながら私は恋愛に縁遠く、ここまで一人で来てしまいました」
聞いてはいけない事だったのかと、ミューズは困った顔をする。本当に優しい子だ。
「ですが、ここに来てミューズ様やリオン様と出会いとても楽しいです。王妃様がおられた頃は仕事のやりがいもあり、とても楽しかった」
仕事をやり遂げたあとの達成感は何とも言えなかった。お酒もすすむ。
「私はここに来てこの仕事につけてしあわせです。皆様に会えて充実しております」
レナンの様子にミューズはなるほどと納得した。
「レナンは仕事に恋をしているのね」
「へっ?」
そう言われるとは思わず、間の抜けた声が出た。
「お話をしている時のキラキラした瞳、まさしく恋をしている主人公そのものだったわ。そういう事なのね」
満足したのかミューズは仕事に取り掛かり始めた。
仕事に恋をしていると言われたのは初めてだ。仕事人間であるのは認める。
ミューズのやる気が出たのは何よりだ。
確かに恋愛について話すことは左程ないし、丁度良かったのかもしれない。
(でも…)
恋について問われると頭を掠めるのはあの時の事。
デビュタントの時に緊張しすぎて階段から落ちた際に助けてくれた人だ。
周りからクスクスと笑われ、痛みと恥ずかしさで涙がこみ上げてきた時に手を差し伸べてくれた。
太陽のように神々しく美しい人だった。
ミューズ様がたおやかな月の化身であれば、彼の人は自信に満ち溢れた太陽の化身だ。
晴れやかに笑い、堂々たる姿は威厳に満ち溢れている。
政治や治世の話で盛り上がってしまい、せっかくのダンスを踊ることなく過ごしてしまったため、後で家族にがっつり怒られた。
あれから姿を見かけることはあったのだが、臆病な自分は逃げ回ってしまった。
こんな自分が近づいたらまた笑われてしまう。
自分だけならいいが彼の人にご迷惑をかけてしまう。
10年以上経つのだから向こうもついぞ忘れているだろう、時折思い出すのだけは勘弁してほしい。
数少ない大切な思い出なのだから。
倒れ込むようにベッドに横になる。もう何年家に帰ってないのだろうか。
王宮に自室はあるが自宅ではない。
自分の本来の邸宅に帰りたいと、何度思ったことか。
実家からくる手紙も極端に減った。
手紙の返事も出来ず、今の王政を思慮してかぽつりぽつりと体の心配をする手紙が来るだけになった。
結婚適齢期にはお見合いについての手紙も来ていたが、25才をまわった頃にぷつりと途絶えた。もはや周囲からも見限られたのだろう。
実家は優秀な兄がおり家を継いでいる。甥も姪もいるため、家の存続については何ら心配していない。
思えば好き勝手させてもらい、こうして官職につけた時は幸せで胸がいっぱいだった。
大変ではあるがやりがいのある仕事、素敵な国王夫妻や美しい王女や王子に囲まれ、正直ウハウハな気持ちで仕事に臨めた。
しかし、王妃が亡くなり風向きがガラリと変わったのだ。
国王は心を病み、ついに寝たきりとなる。
変な女が王宮に入り込み、自慢の王女が辺鄙な離れに押し込められてしまった。
王子まで毒牙にかかってはいけないとツテを使い王妃の親類に託すことが出来た。
バタバタと周りの者がやめ、あるいは野心ある大臣に取り込まれ、いなくなっていった。
あとに残ったのは膨大な仕事だけ。
皆が夕食を終え寛ぐ頃にこっそりと王女が手伝いに現れる。
まさに女神、優しさの化身。
「いつも国のためにありがとう」
その言葉だけが心の救いだ。
時には一緒に涙を流し、時には本の話をし、時には恋バナなどをし…
「レナン様はどういう方が好きなのかしら」
恋愛小説が好きなミューズはキラキラと耀いた目でこちらを見る。
眩しい、眩しすぎる。
恋に恋する乙女の視線は婚期を逃した大人には辛い。
「残念ながら私は恋愛に縁遠く、ここまで一人で来てしまいました」
聞いてはいけない事だったのかと、ミューズは困った顔をする。本当に優しい子だ。
「ですが、ここに来てミューズ様やリオン様と出会いとても楽しいです。王妃様がおられた頃は仕事のやりがいもあり、とても楽しかった」
仕事をやり遂げたあとの達成感は何とも言えなかった。お酒もすすむ。
「私はここに来てこの仕事につけてしあわせです。皆様に会えて充実しております」
レナンの様子にミューズはなるほどと納得した。
「レナンは仕事に恋をしているのね」
「へっ?」
そう言われるとは思わず、間の抜けた声が出た。
「お話をしている時のキラキラした瞳、まさしく恋をしている主人公そのものだったわ。そういう事なのね」
満足したのかミューズは仕事に取り掛かり始めた。
仕事に恋をしていると言われたのは初めてだ。仕事人間であるのは認める。
ミューズのやる気が出たのは何よりだ。
確かに恋愛について話すことは左程ないし、丁度良かったのかもしれない。
(でも…)
恋について問われると頭を掠めるのはあの時の事。
デビュタントの時に緊張しすぎて階段から落ちた際に助けてくれた人だ。
周りからクスクスと笑われ、痛みと恥ずかしさで涙がこみ上げてきた時に手を差し伸べてくれた。
太陽のように神々しく美しい人だった。
ミューズ様がたおやかな月の化身であれば、彼の人は自信に満ち溢れた太陽の化身だ。
晴れやかに笑い、堂々たる姿は威厳に満ち溢れている。
政治や治世の話で盛り上がってしまい、せっかくのダンスを踊ることなく過ごしてしまったため、後で家族にがっつり怒られた。
あれから姿を見かけることはあったのだが、臆病な自分は逃げ回ってしまった。
こんな自分が近づいたらまた笑われてしまう。
自分だけならいいが彼の人にご迷惑をかけてしまう。
10年以上経つのだから向こうもついぞ忘れているだろう、時折思い出すのだけは勘弁してほしい。
数少ない大切な思い出なのだから。
0
あなたにおすすめの小説
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
記憶喪失の婚約者は私を侍女だと思ってる
きまま
恋愛
王家に仕える名門ラングフォード家の令嬢セレナは王太子サフィルと婚約を結んだばかりだった。
穏やかで優しい彼との未来を疑いもしなかった。
——あの日までは。
突如として王都を揺るがした
「王太子サフィル、重傷」の報せ。
駆けつけた医務室でセレナを待っていたのは、彼女を“知らない”婚約者の姿だった。
沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―
柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。
最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。
しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。
カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。
離婚届の上に、涙が落ちる。
それでもシャルロッテは信じたい。
あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。
すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる