塔の姫は隣国の王子と恋をする

しろねこ。

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幸福(宰相視点)

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「レナン様、朝食の準備が整いました」
「へっ?」

柔らかな女性の声と暖かな日差しで、昔の夢から現実に引き戻される。
柔らかなベッドから身を起こすと優しい表情をしたメイドがこちらを見つめている。

「よくお眠りのようだったので、起こすのは気が引けたのですが申し訳ありません」
深々と頭を下げられ、レナンの方が慌ててしまう。

「いえ、ここ2日程昼過ぎまで寝させてもらっていたのだからむしろすみません。そろそろ人間らしい生活をしないと」
あたふたと毛布の誘惑を振り切り、椅子に移動する。

メイドに身だしなみを整えてもらいながら、ここ数日を振り返る。

共に戦ってきたミューズが幸せを掴んだ一週間後、いや五日後。気力及ばずで本当に過労で倒れた。

何もかも覚えておらず、気づいた時にはここアドガルム領地に運ばれていた。

どこであるのかはまだ聞けておらず、簡単な説明があったあとは夢の食っちゃ寝生活を送っていた。

もちろん祖国は気になるものの誰も教えてくれない。
レナンの体調と性格を考慮してせめて健康を取り戻すまではとの事だ。

昨日はレナンを安心させるためだろう、ミューズが来てくれて久しぶりの女神との再会に涙を流して抱きついてしまった。
付き添いのティタンの視線が肌に突き刺さったが許してほしい。

幸せそうなミューズの姿に神と王妃に感謝の祈りをささげた。
私もあんなに想ってくれる伴侶欲しい。

身支度が整い、部屋を移動する。
今日のご飯は何だろう、効率優先の粗食から解放されてがりがりだった頬もふっくらしてきた。

目の下の隈も薄らいできてよかった。
何故か今日は長い髪もしっかり結い上げられ、いつもよりきちんとした装いな気がする。

薄化粧までされた。

今までが疲れ過ぎた自分の為に手を抜いてくれてたのかもしれない。
これが普通の生活なのかと考えを改め直した扉を開けてもらう。

「おはよう、レナン殿。よく眠れたかな?」

食卓に付きひらひらと手を振って挨拶するのはアドガルム国の王太子、エリックだった。

「何故殿下がここに?!」

今回助けてくれた彼が来ても不思議ではないが、普通助けられたほうが行くものでは?わざわざ多忙の中こんな辺鄙な人間に会いに来てくれたのか?

慌てて駆け寄り、ガバっとひれ伏す。

「挨拶が遅れてしまい、申し訳ございませんでした。本来ならば私の方から足を運ぶところわざわざ殿下がいらっしゃるとはとんだ御無礼を」

床に頭をこすりつけ謝罪をするが、エリックの手がレナンの肩に触れたのを感じ恐る恐る顔をあげる。

「公式の場でもないし、来たくて来ただけだ。そんなに畏まらないでくれ。食事が冷めてしまう、食べながら話そう」

レナンの服の汚れを払い、席に座るよう促す。
めちゃ優しい、さすが天上人。

王族と一緒の食事なんて、多分味しない。

カチンコチンになりながら食事の席に着く。とても良い香りなのに食欲がそそられない。

「食べよう」
「はい…」

エリックが食べ始めたのを見て、食欲がわかないまま口に運ぶ。

やはり緊張で味がしない。

「今までリンドールを支えてくれてありがとう。ミューズから話は聞いた。君のおかげで領民達の生活は守られていたのだ。隣国の者だがその功績感謝している」

その言葉にじわりと目に涙が浮かぶ。

ミューズ以外、自国の者にすらそんな事言われてないのにこんな言葉を賜われるとは、やっぱり王族は神。

「ミューズがいなくなり君一人では到底抱えきれないとは思っていたが、シュナイ医師から連絡来たときは心臓が止まるかと思った。相当無茶をさせてしまってすまなかった。もっと早く迎えをよこせば良かったのに」
「殿下が気に病むことではありません、自国のため、ミューズ様のためと張り切り過ぎてしまいました。それに今はこのような生活を送らせて頂いて感謝しています」

ミューズの婚約の話は唐突で驚いたが、リオンの目配せで真意を推測しうまく乗り切った。

その後使者から内密の手紙を頂き、計画を知ったのだ。

ミューズの無事と解放を知り、久々にお酒を飲んだのが悪かったかも。計画を変えさせてしまってごめんなさい。

「今までの頑張りを考慮すると、もっと君は君自身を甘やかしたほうがいい。結婚することなく仕事に邁進していたのであろう?」

労る優しい声、エリックの声は安心する。
あの頃と同じ優しい表情。

「本当はもっと早く会いたかったのだが、ゆっくり休ませてあげて欲しいとメイド達に言われた。女性は弱った姿を他人に見せたくないのだと」
「お気遣いありがとうございます、殿下」

深々と頭を下げ、ぎゅっと服を握りしめる。長いまつ毛は僅かに震えていた。



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