塔の姫は隣国の王子と恋をする

嬉しい知らせ

「エリック様とレナン様が婚約！」

レナンからの手紙を読み、嬉しさにミューズの声が高鳴る。

とてもお似合いだ。知的な二人は話も合いそうだ。



「良かったな」
レナンがミューズに抱きついていたのを思い出して嫉妬心が再燃する。
相手は女性であるがやはり悔しい。

ソファで横に座っていたティタンはぎゅっとミューズを抱きしめた。

あれからティタンとの過ごす時間も増え、触れ合うことも多くなった。

とはいえ結婚まではけして手を出さないと固く誓い、壊れもののように優しく触れるだけだ。

元からいた使用人とミューズについてきてくれた使用人達の仲も良い。




祖国に残った使用人たちには暫くの生活費を渡し、いつかリオンが戻ってきたときの力になってほしいと別れを告げた。

強制ではないので新たな道を見つけても構わないと話してある。




初めてティタンにあったリンドールのメイド達はその体の大きさに驚いてしまった。

ミューズをすっぽりと隠せるぐらい大きく、リンドールではこれほど体格の良い騎士は存在しない。

だがミューズと話す際の彼は子犬のように付き従い、愛情に満ち溢れている顔をしている。

大きな体躯に似合わず、壊れ物を扱うかのようにミューズに接しているティタンは、ミューズの夫として最高である。



使用人たちにも優しく、けして差別をすることはなかった。

何よりミューズが認めた相手だ、喜ばしい以外言葉がない。




アドガルムのメイド達も儚げなミューズと初対面した際はとても驚いた。

恋などしそうにない無骨で不器用な主が、こんなにも可愛らしい婚約者を連れてきたのだ。

しかも一緒に暮らすと。

今まで女っ気のなかった屋敷が一気に華やいだ。

建具屋を呼び、ミューズのためにと品のあるドレッサーや、可愛らしいベッドなどを準備し、仕立て屋を呼んで予算を考えずに何十着もドレスを購入したり、庭師を呼んで花壇を作ったり、花のアーチを作るなど。

ティタンの屋敷が生まれ変わるのにはそう時間がかからなかった。




ティタンの手に自分の手を重ねる。

「ありがとうティタン、私をあそこから連れ出してくれて」
今とても幸せよ、とミューズが呟く。

「あまり可愛いことを言わないでくれ」
「きゃっ？！」
ミューズの身体を抱き上げ、ティタンは自分の膝に乗せてしまう。

本当はもっとくっつきたいが、これでも我慢しているのだ。
後ろから抱きつきミューズの香りを胸いっぱいに吸い込んで、なんとか我慢しようとする。

密着され恥ずかしさに顔が赤くなっていく。

小説で読むのと実際に体験するのはギャップがあり過ぎるし、淑女教育を受けてきたミューズには刺激が強い。

異性との触れ合いなど皆無だったのだから。

実際に存在する人間なのだから当たり前だが、ティタンの体温や鼓動、吐息を感じるだけでドキドキしてしまう。

ほんの数ヶ月前までは他人だったのに、婚約者でこれでは結婚したらドキドキで心臓が破裂するんじゃないかと思った。