塔の姫は隣国の王子と恋をする

しろねこ。

文字の大きさ
19 / 38

思惑(リンドール国)

しおりを挟む
リンドールでは不平不満が募っていた。

いくら陳情書を出しても何もしない。
何も返ってこない。

今までであればレナンとミューズが手分けして行い、時には内緒でミューズが視察をしていたので的確に問題を解決できていた。




そのミューズが隣国へ嫁いでから目に見えて情勢は悪くなっていった。

悪役王女であるミューズを追い出せば、暮らしは良くなるはずだった。

しかし、現実は逆だ。

あれだけカレンが行なっていた見せかけだけの孤児院訪問もとんと見かけなくなり、さらに税の徴収も上乗せされる。

橋や公共の施設が壊れてもなかなか修理されず視察も来ない。

一体どうしたことかと王宮に話に行くも門前払い。

宰相も倒れてしまったとなり、いよいよ民の不安も最高潮に達していく。





「何故こうも上手くいかん!」
愚鈍な女ごときが行なっていた執務が、何故これだけ頭数がいても出来ないのだ。
執務は目に見えて増えていき、外交すら滞っている。

陳情書など目を触れることなく端から破棄されていた。

そもそも執務は全てレナンに回されていたので、官僚たちはまず一から調べ直さねばどういう問題なのか、どういった解決法がいいのかさっぱりわからなかった。

歴史については皆学んでいる。
しかし現在進行形で変わっていく情報に、とうに追いつけていないのだ。

問題は単体ではなく、複数の事が積み重なって起きることが多い。

水害が起きれば、過去そこで水害が起きたことはあるのか。
何故起きたのか。
その土地にはもともと何があったのかなど、歴史を掘り起こさなければならない。

国が山を切り崩したか、はたまた知らない間に土地のものが治水の改変を行ってしまったのか、などの調査が必要だ。

入念な準備と調査でわかるものを、付け焼き刃で報告書だけ見たものに理解できるわけがない。

上辺だけで解決したはずの問題がまた舞い戻ってきて、さらに執務が増える。
いたちごっこだ。




一方カレン達母娘も外出を禁じられ、イライラしていた。
支度金は送られてこず、アドガルムからの連絡もない。

孤児院に行かなくて済むのは清々してるが、街中がピリピリとしていて、新しいドレスを買いに行けないのがストレスだ。

せっかくもらった装飾品をつけて出かける茶会にも呼ばれず、母娘で不貞腐れていた。





「ああ、エリック様。私を早く迎えに来て」
宝石箱を大事そうに抱え、悲劇のヒロインとして呟く。

(きっとあの性悪な義姉のせいでなかなか動けないのね。金に意地汚い女ですもの。支度金を送りたくないとワガママいってるんだわ)

自分がこの城に来た時、恥ずかしながらドレスなどを持っていなかった。

ほんの数着買おうとしたら、
「買い過ぎではないかしら。このお金は領民達が一生懸命働いてくれたおかげなの、大切に使って頂きたいわ」

自分は数十着もドレスを持っているのに、カレンが買おうとすると反対してくるなんて。

自分の使えるお金を減らしたくないからって反対するとは、間違ってる。

反論すると訳のわからない理屈を並べてやり込めようとしてくる。

うるさいので大臣に泣きつき、ミューズを奥の塔に押し込めた。

その塔は昔、国の繁栄を願って王族が神に願いを捧げる場所であったそうだ。

天に近いよう高い塔として建てられた為、住むには不便だ。

今はミューズも居なくなり、祈る者もいなくなったが知ったことではない。





祈るなんて馬鹿らしい。

ちなみにミューズがドレスについて苦言を呈したのは、カレンが高いパーティ用のドレスを闇雲に買おうとしたからだ。

夜会用、式典用、茶会用や訪問用や普段着用など、用途に合わせて様々な物がある。

ひと通り揃えるのならともかく、目的もなくパーティドレスを買うととても高くなる。

呼ばれたパーティに合わせてデザインや色を選ぶ必要があるため、見極めが必要なのであった。

それを何回言ってもカレンは理解しなかったのだ。

しまいには大臣に呼び出され、
「半端者のあなたが口を出されるものではない。世間からのご自身の評判をご存知ないのでしょうか?」

オッドアイであるミューズを蔑み、自分達で流した悪評を本当であるかのように振る舞う。

余計なイザコザを起こしたくないと思い、言われるがままにミューズは塔へ引き込もったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

記憶喪失の婚約者は私を侍女だと思ってる

きまま
恋愛
王家に仕える名門ラングフォード家の令嬢セレナは王太子サフィルと婚約を結んだばかりだった。 穏やかで優しい彼との未来を疑いもしなかった。 ——あの日までは。 突如として王都を揺るがした 「王太子サフィル、重傷」の報せ。 駆けつけた医務室でセレナを待っていたのは、彼女を“知らない”婚約者の姿だった。

沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―

柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。 最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。 しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。 カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。 離婚届の上に、涙が落ちる。 それでもシャルロッテは信じたい。 あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。 すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...