塔の姫は隣国の王子と恋をする

しろねこ。

文字の大きさ
20 / 38

幸せな日々

しおりを挟む
「うぅー疲れました」
「お疲れ様でした、少しハードでしたね」

ダンスの練習をしていたミューズとレナンは休憩となり、へたり込んだ。

来年の結婚式や社交界デビューに向けて練習しているのだが、ミューズはともかくブランクの長いレナンには荷が重い。

もともと身体を動かすのが得意じゃないのもあり、ついてくだけで精一杯だ。

「レナン様はもう少し体力をつけていきましょう、朝晩に軽めの運動やストレッチするだけでも違いますわ」
先生は優しく労ってくれている。

レナンが真面目に取り組んでいるからこそ、厳しさはいらないと思ってるのだ。

「うぅ、ありがとうございます。私、先生にこの御恩を返せるよう一生懸命頑張ります」
「私ではなく、エリック様へどうぞ伝えて下さい。先程からお目見えになってますよ」



レッスン室の端っこにいつの間にか二人は立っていた。

じーっと二人は自分の婚約者のダンス姿を見つめていたのだ。

「やべぇかわいい。俺たちの妻サイコー」
「早く式をあげて一緒になりたいですね」
「国王になるのだから俺が先だよな」
「婚約したのは俺が先です、なので式も俺です」
「普通兄が先だろ?」
「だめです。譲りません」

外交用のキリッとした顔で、男兄弟らしい会話を交わしていた。

「合同は駄目だろうか?」
「なるほど」
一回で終わるし、ケンカにはならなそうだ。
前例はないが、提案してみるのもいいかもしれない。

リオンの社交界デビューもあるし、来年までには全て終わらせておくつもりなのだ。

復興で忙しい時に何度も招待するのは大変だろう。

「父上に相談してみる。一回で済ませる分しっかりとしたタイムスケジュールと演出を考えよう。招待客はほぼ似たようなものだから引き出物を豪華にして…」
などと、早速案をいくつか出していく。

こういう回転の速さと柔軟さが羨ましい。

時折三人の会話についていけず、凹んでいるのだが、後からミューズが丁寧に教えてくれるのだ。

もっと真面目に座学に取り組めばよかったなと反省している。




そんな話を昨夜ミューズにすると、
「ティタン様はそのままでいいのですよ。私ティタン様の逞しい身体も大好きですから」

今までの努力の賜物であろうと優しく触れられる。
ミューズの細い指で撫でられると変な気分になる。
女性にそうやって触られたこともないので、気恥ずかしさもあるのだ。





壁際に立つ二人の元へレナン達が寄ってくる。
「来てたなら言ってくださいよ、恥ずかしいです」
失敗ばかりのステップを見られただろうかと頬を染め、うつむいてしまった。
レナンは特にダンスに自信がないのだ。

「いや、キレイだったよ。早く君の手を取り一緒にダンスを踊りたい」
自然な動作でレナンの手を取る。

「何なら今からでも」
「も、もう少し、待ってください。すぐに上達してみせますので」
あわあわと震えだすレナンは、手を握られ動くことも出来なそうだ。

頭から蒸気が出そうなほど赤くなっている。

「ミューズもとてもきれいだった。妖精のように軽やかで優雅で。しばらくぶりとは思えなかったよ」
「お母様に徹底して教えられたの。先生に教わっている内に段々と思い出してきたわ。ティタンはダンスは?」

騎士となったティタンはダンスを踊る機会が減ったのではと思い、聞いてみる。

「最後に踊ったのはいつだったか、正直覚えていないなぁ」
そもそも女性と踊ったことがあっただろうか?
デビュタントの時は従姉弟に頼んだが身長差もあり、やりづらかった。

ミューズはティタンの手を引き、ダンスに誘う。

「良かったら私と一緒に踊って」
身長差がネックになりそうなので、試しにどのようになるのかを確認したかったのだ。

ティタンはもちろん二つ返事で了承する。

「君の誘いならもちろん」
そのやり取りに羨ましそうにしているエリックは、ちらりとレナンを見る。

「いやいや無理です。足ふんじゃいます」
「それぐらい全然いい。踊ってくれればそれでいい」
強引にレナンを立たせると、二組の恋人が演奏に合わせてくるくると踊りだす。

背が高く手足も長いレナンとのダンスは見栄えがいい。
まだまだぎこちないが、エリックのリードのおかげでサマになっていた。

緊張と恥ずかしさで顔を赤くするレナンを、愛しげに見ながら上手に合わせている。
「とても上手だよ」
「エリック様のおかげです」




ミューズとティタンは身長差があるため、エリック達とまた違うダンスに見える。

クルクルとまるで浮いてるかのように軽やかだ。

ドレスの裾がふわりと靡き、華やかだ。

「こんなダンスは初めてだな。ミューズのステップは凄い」
「ティタン様が支えてくれてるからですよ、とても楽しいです」

恋人達のダンスはとてもキレイで楽しそうだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

記憶喪失の婚約者は私を侍女だと思ってる

きまま
恋愛
王家に仕える名門ラングフォード家の令嬢セレナは王太子サフィルと婚約を結んだばかりだった。 穏やかで優しい彼との未来を疑いもしなかった。 ——あの日までは。 突如として王都を揺るがした 「王太子サフィル、重傷」の報せ。 駆けつけた医務室でセレナを待っていたのは、彼女を“知らない”婚約者の姿だった。

沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―

柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。 最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。 しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。 カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。 離婚届の上に、涙が落ちる。 それでもシャルロッテは信じたい。 あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。 すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...