塔の姫は隣国の王子と恋をする

しろねこ。

文字の大きさ
22 / 38

甘い夜

しおりを挟む
「ミューズは兄上の方が良かったか?」
そう聞かれ、はてと首を傾げる。

「なぜそのような事を?」

「兄上と話すと楽しそうだから」
ムスッと口を尖らせているティタンは、妬いているのだろう。




政治の話や国の話だとティタンは口を出せないようだから。

「私はティタンが良いのだけれど」
安心させるように彼の腕にキュッと抱きつく。

「そうやって妬いてくれるほど私を想ってくれて嬉しいわ」

ミューズがティタンの腕に頬ずりをする。

ふくよかな胸の感触が薄い夜着を通して感じられ固まってしまう。

ミューズは気づいていないようだ。

「優しくて一途なティタンを愛しているの。不器用だけれど真っすぐで、少し照れくさい時もあるけれど愛されてるって実感出来てうれしい」

抱きしめられた時など恥ずかしいが、愛情を感じられて本当はとても嬉しい。

特に母が亡くなってからそういうスキンシップもなくなったので温もりに安心する。



「ひどい環境から助け出してくれた恩人であるあなたに感謝もしている、そんな私の人生を変えてくれて、悪評を物ともしない強く頼りになるあなた以外に、好きになる人なんていないわ。いつだって私を支えてくれて、愛してくれて、ありがとう」

それと、この逞しい体。
ミューズの理想の筋肉。

「そして私、鍛え抜かれたあなたの体も好き。本当はもっと触れていたい」

ティタンの大きな手に自分の手を絡ませる。

体目当てのようで恥ずかしいが、愛情を疑われてるよりはいいだろう。




触れた時に、「うっ…」と小さな声がしたので戸惑ってるかもしれない。

まじまじと触れたのは初めてかも。

大きくて筋張った手は幾度も剣を握っていて、硬くなった手のひらは鍛錬の証だろう。

筋肉にて膨張した二の腕など、ミューズがぶら下がっても大丈夫そうな程太い。

大腿もすごい。
強靭な体を支える為にこんなに太いとは、
自分のぷよぷよなものとは違ってこんなに勇ましい。




「それ以上はダメだ」

顔を真っ赤にし、ティタンはミューズの手を止めた。

色々と考えていたら彼の体のあちこちに触れていたようだ。



恥ずかしさなのか、ティタンはミューズと距離を取り、やや前屈みになって顔を隠した。

「こんな風に女性に褒められたり触られたりするのは初めてだ。嬉しいが刺激するのはやめてくれ」
「だってティタンが私を疑うような事を言うから、精一杯伝えようと」
ミューズがムッとする。

いつもティタンだって人前で恥ずかしい事をいっぱい言うのだから、二人っきりの今ちょっと仕返ししてやろうと思った。

わざと距離をつめ彼の体にしなだれかかる。



「優しい笑顔だってひとり占めしたいと思ってるのよ。普段はとても精悍なのに可愛らしくなるんだもの」
うふふと意地悪っぽく笑う。

「政治の話は仕事の話。あなたとはそんな話じゃなくて楽しい話をしていきたいの。
毎日の事や趣味の話とか食べ物の話、好きなものや嫌いなものの話とかもしてみたいな。それと結婚したらどんな家庭を作っていきたいか」

「結婚したら…」
早く式を望むティタンはその言葉を復唱する。

「そう、結婚したらまずは何しようとか。婚約中である今ももう一緒に住んでるからあまり変わりないかもしれないけど。茶会やパーティの準備、あとは…」
「…子どもが欲しい」
「そうね、子どもも欲しいわね」
孤児院などにも視察に行っていたが、ミューズは子どもが好きだ。
弟もいるし、ぜひ欲しいと思っている。




「男の子、女の子、どちらでも可愛いだろうなぁ」
今からうきうきしちゃうが、何故かティタンの表情は硬い。
苦しそうだ。

「大丈夫?」
覗き込むようにティタンを見ると弾かれたように突然抱きつかれた。

驚きはしたものの悲鳴を抑え、ミューズはティタンを見る。

「どう、したの?」
「早く結婚したい。ミューズを手に入れたい。子どもを、作りたい」
ティタンの息が荒く、体が熱い。

優しく身体を擦ってあげるが、覆いかぶされてるので腕以外身動きが取れない。
重いわけではないが、こんなに密着したことは初めてだ。

心臓がどくどくと脈打っている。
今の状況を考えるとそういう事なのだろう。

怖くはないが困惑が強い。

「ティタン待って、まだ早いわ」
ミューズは大腿に触れられ体をビクリと震わす。
反射的に動いてしまったが、拒絶と取られたかそれ以上は触れてこない。

呼吸を落ち着かせようと深呼吸しているのがわかる。
ティタンも落ち着こうと必死で我慢しているのだ。



(刺激しすぎたかも)
抵抗すればティタンはすぐに離れて止めてくれるだろう。

しかしそれが原因で、この先二人の関係に溝が出来てしまうかもしれない。

何よりミューズは恋愛小説などは読んでいたが、自分の置かれている状況がよくわかっていない。

子どもを作るとはどうしたらいいか、わかっていないのだ。




本能的に今とても危ないとはわかっている、しかしティタンのために受け入れた方がいいのか。

「ティタン…私あなたを愛しているわ」
抱きしめられているので耳元で囁くようになってしまう。
ティタンはその声にぞくぞくと体を震わせた。

「でも、今は待って…きちんと準備してからがいいの」
ゆっくり、優しく、囁きかける。

「体を起こして…?」
ミューズがお願いすると、ティタンはゆっくりと離れた。
泣きそうな顔をしている。

「お願い、もう少しだけ待ってね」
ティタンの頬を両手で挟み、ゆっくりと唇を重ねる。

恥ずかしさで死にそうだが、ティタンと約束をする。

「式をあげたら、いっぱい、続きしようね?」

あまりにも可愛らしい婚約者にティタンは額に手を当て、天を仰いだ。

もちろんその夜は眠れず、一人鍛錬室にて体を動かし、煩悩を発散して過ごすティタンだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

記憶喪失の婚約者は私を侍女だと思ってる

きまま
恋愛
王家に仕える名門ラングフォード家の令嬢セレナは王太子サフィルと婚約を結んだばかりだった。 穏やかで優しい彼との未来を疑いもしなかった。 ——あの日までは。 突如として王都を揺るがした 「王太子サフィル、重傷」の報せ。 駆けつけた医務室でセレナを待っていたのは、彼女を“知らない”婚約者の姿だった。

沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―

柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。 最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。 しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。 カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。 離婚届の上に、涙が落ちる。 それでもシャルロッテは信じたい。 あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。 すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...