塔の姫は隣国の王子と恋をする

しろねこ。

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和解(エリック・レナン視点)

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ニコラに呼ばれ、王妃の茶室に来たエリックは泣いているレナンを表情も変えずに見つめる。

泣かすつもりはないのに、大事にしたいだけなのに。






王たるもの取り乱さない、表情にださないとの強い教えを守ってきた。

冷静に話さなくてはと口を開く。

「つらい思いをさせて悪かった。女性であることが悪いとは思っていない、むしろ優秀な女性はいっぱいいる。君もその一人だ。あの時は君を何が何でも引き止めたかった。ここに残ると、俺のそばにいてくれると言ってほしかった……」

自分の我儘を素直に認める。
レナンは今何を考えているだろう。

「婚約破棄はしない。何があってもこのまま式は挙げるつもりだ。それまでは俺のそばにいてくれ」

ただ居るだけで構わないのだ。

「リンドールの立て直しはもうすぐ始まる。リオン殿を国王に推挙し、落ち着いたら国に戻ってもらってもいい」

平穏を取り戻せた後なら、レナンを蔑んだ大臣や官僚たちを追い出せたら、望むようにしてあげたいと考えている。

「君が望めば離縁だって受け入れる、これ以上の手出しもしないし跡継ぎだって望まない。国に戻るならば、一生生活に困らないほどの慰謝料も渡すと保証しよう」

こんなに胸が痛くなるのに、自分は涙も出ないのだなとエリックは冷静だった。





やっと手に入れた人なのに、やっと想いを伝えられた相手なのに。






「だから今は貴女を行かせるわけにはいかないとわかってくれ。もう間もなくリンドールを救う手筈が整うはずだ、その時に俺の婚約者として同行してほしい」

行くならば、せめて手の届くところで。








「愛しているんだ、君を失いたくない」








この人は何を言っているのだろう。

無理矢理押さえつけ、あれだけ行くなと言ったのに、事が終われば国に返っていいという。

あれだけ好きだと言ったのに、手放す方向で話をしている。

そして、愛してる?






とてもとても回りくどい。
私にどうして欲しいのか。

泣く振りをして両手で顔を覆い、肩を震わせる。

ちょっと話を整理しよう。





王妃様の話では婚約者候補が出ても年上の女性(多分私)、を想い婚約者には選ばなかったと。

いつ口説くつもりだったかはわからないが、口説く前に私が過労で倒れてこの国に来てのプロポーズ、そして婚約。

栄養満点ご飯と大好きな本や仕事に囲まれ、ウハウハしている内に母国が大変になってた。

私が帰る帰るとうるさいから実力行使でエリック様が止めに入る。

ギスギスした為、帰ってほしくないけどリンドールが平和になったら帰っていいとの許可を泣く泣く出したと。







ちらりとエリックを見る。
表情は変わらない、スンッとした外交用の顔だ。

でも目は虚ろになっている。

この人、私がいなくなったら生ける屍になりそう。
国王の義務だけを果たして。

ゆっくりと手を下ろし、顔を上げる。






目が腫れぼったい。
スンッと鼻をすする。

エリックはただこちらを見つめているだけだ。

こんな時でも整った顔をしているものだ。

そりゃあ婚約者候補も集うよなぁ、美男だもの。

誰からも見放された私を見つけてくれた人、仕事でぼろぼろになった私を救ってくれた人。





こんなに愛してくれる人にちょっとは報いないと罰があたりそう、神様に怒られそうだ。







「エリック様、私怖かったです」

ゆっくりとエリックに近づき、そう話す。

王妃が今日こんな話をしたのはある程度話が伝わってるからだから、いいかなぁと思って、思わず言ってしまう。

「力で押さえ込まれた時は本当に怖かったです」
バキッと王妃の方から音がした。

持ってた扇を破壊してしまったようだ。

(あっ、これ知らなかったやつだ)

全部が全部知ってるわけではなさそうだが、ひとまず見ないふりをする。






「ですが、私も先程アナ様から婚約者候補の方が沢山いたと聞きました。中には私と同じ執務の手伝いをされたと言う方も」
エリックの前まで辿り着く。

並ぶと少し見上げる形になり、視線が絡み合う。

「私、凄くイヤな気持ちになりました。私だけではなかったのだなぁと、こう胸の中がモヤモヤして胃がムカムカしました。でもエリック様が求めたわけではなかったのですよね?」
「当然だ。俺はレナンだけしか求めてない」
「ありがとうございます。そこで私考えました。エリック様がされたことを他の殿方にされたらどうか。それをされたらエリック様はどう思うか。例えばニコラ様とか」

ぶわっとエリックから殺気が放たれる。

ニコラが恐怖に怯え、思わず扉まで後ずさった。

「物の例えですが、そういう風になりますよね。それが愛なんですよね」

愛情はわかった。
あと引っかかった事。

「私って役立たずですか? 母国に出来る事はないのですか?」

ぐっと唇を噛み締め、精一杯睨みつける。

迫力はないだろうが、自分の気持ちを表明する。

「後先考えずに帰国しようとした事は謝ります、でもその言葉は撤回してください」
ぷるぷると体が震える。

この人の口から何も出来ないと言われ、悔しかったし悲しかった。

この人には認められたい。

「すまなかった。あの言葉は本心じゃないんだ、レナンを引き止めるためのひどい言葉だったと思う。許してほしい」

さすがに苦々しい表情になり、反省が見える。
それを聞き、レナンは満足した。

「では少し屈んで下さい、私と目線が合うくらいに」

言われるがまま少し屈むと、エリックの両頬をパチンと挟むようにして両手で叩く。

「!!」

さすがに予想してなかったのか皆驚いた。

普段おとなしい性格のレナンがこんな事をするとは誰も思ってなかったのだ。

「これからはもっと素直に、愛してるから行かないで、ってはっきりと言ってください。エリック様の言葉はわかりづらいんです」

発言に責任をと言われてきて、滅多に本心を出さないようにと教育されてきたエリックの言葉は、回りくどい。

怒らせたり悲しませたりして支配するのではなく、普通に言ってくれればこちらだって意固地にならずに済んだのに。

頬に置いていた手を首に回し、エリックの頬にキスをする。

本当は唇にしたかったが王妃の前だから自重した。





「愛しております。国に帰れだなんて言わないでください。あなたのそばにいたいの……」
レナンも素直に今の気持ちを伝えた。

母国は心配だが、この不器用な王太子も心配だ。






「あらあら、良かったわ。仲直りして」
アナはオホホと笑い、上機嫌だ。

「ニコラから聞いた時ははらはらしたけど、無事におさまって安心したわ。これからも仲良くしてちょうだい」

やはりニコラが伝えていたか。
なんとなくそんな気はしていた。

エリックの首に回していた手を解いた。

だが、エリックは体を起こさず、むしろより屈んでそのままレナンを横抱きに抱えてしまった。

「なにを…」
するのか、と尋ねる前に唇を塞がれる。
話している時だったので軽く舌が触れ、パニック状態になった。

アナもニコラもいる状況でまさかの事態だ。

「素直になれ、と言ったのは君だぞ」
発言には責任を持つようにと、頬にまでキスをされる。

「母上、お騒がせしました。これからは二人でしっかりと話し合い、誤解がないように致します」
「いいのですよ、早く世継ぎが見たいですしね」





黒い笑みを浮かべたエリックはレナンを逃さないようにしっかりと抱え、部屋をあとにした。
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