塔の姫は隣国の王子と恋をする

しろねこ。

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帰郷

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「母上、レナン殿は?」
昼食に誘われて来たものの、いるはずのレナンがいない。

「大丈夫よ。喧嘩してたエリックと仲直りしたから二人にしてあげただけだから」
ミューズに視線を移すと、優雅な礼をする。





レナンに言ったようにアナと呼ぶようにと強要して、食事が始まった。

「レナン様良かったです、これで元気になりますよね」
「どうかしら、疲れが取れないかもしれないわ」
うふふ、と笑うアナの様子にキョトンとする。

「仕事をいっぱい頑張るからですか?」
「まぁそうね。大事な仕事だものね」
とても楽しみ、とアナが話すところからティタンがピンときた。

「兄上、まさか」
ずるい、と心の中でぼやくが純粋なミューズはその意味に気づいていない。







それからレナンに会えたのは1週間後、疲れたような表情はしているものの元気そうだ。

些か雰囲気が変わったようにも感じるが、
都度エリックからのスキンシップが見てとれるので、仲直りしたからかもしれない。

「さて、そろそろリンドールへ行く準備が整った」
久々に四人が揃ったので、エリックは計画書を広げる。

「今リンドールには魔物が入り込んでいる。外壁が崩され、民も危険な状況だ。
リンドールからも正式に救援依頼を出された為、我が国の第一騎士団・第二騎士団を率いてあちらに向かう。その騎士団に混じって、ミューズとレナンにも来てほしい」

リオンとも向こうで合流する予定だ。






「正直レナンは連れて行きたくないのだが、リンドールに返さないという意思表示をしてくるのでな。退職届を叩きつけてくる」
特に大臣に会わせたくないので、エリックは非常に嫌がっている。

「ミューズ嬢は向こうの王女だから同行してもらわなければならない。ティタン、必ずお護りするのだぞ」

「命に代えても」
ぎゅっとミューズの手を握る。

「あちらについたらまずは大臣への制裁と不正を暴く。横領や脱税、賄賂など色々出てきたのでな。そしてカレン母娘。国王との血の繋がりはないと証拠が見つかった。王族を騙った罪で、よくて投獄だろうな」

王族への成り済ましの罪は重い。

「国王が起きてくれれば事は進みやすい。いいタイミングで目覚めてほしいものだ」

ミューズもレナンも心配している、元気なのであろうか。
リンドールの国王を最後に目にしたのは数ヶ月前、とても心配である。




「証拠集めなど大変でしたよね」
「ただの噂じゃなく、しっかりとした証拠が必要だったからな。色々なツテを使ったり手助けしてもらったり、骨が折れる作業だったよ」
レナンもミューズも深々と二人に頭を下げる。

「私達の国のために尽力して頂き、本当にありがとうございます」
「この御恩に報いるため、誠心誠意アドガルム国の発展に尽くしていく所存です」

二人の真剣な表情に穏やかな笑顔を返す。

「ミューズ嬢もレナンも真面目すぎる。俺たちは愛する女性のために動いているだけだ」
珍しくエリックが微笑む。

「使った費用は支度金だ。ミュート嬢のために用意した資金で行ったことだから、そのままあちらに渡すより有益に使えただろ?」

ティタンもエリックもお互いの想い人を抱きしめる。

「早く故郷を取り戻しに行こう」
「「はい!」」






久しぶりに踏みしめた故郷はだいぶ酷かった。

あちこちに魔物の姿もあるが、流れ者も見かける。

全体的に治安が悪くなっており、怒りがこみ上げてきた。




お金がある貴族などは傭兵を雇っているが、金のない一般市民などはどうすることもできない。

頼りの国の兵士たちも街の中心を守るのが殆どで、手が回ってない。

「第一騎士団は数名は俺たちと共に王宮へ。残りは散開し、困っている市民がいたら家まで送れ。安全な場所がなければこちらで作る。ミューズ嬢、広い場所はあるか?結界を張る場所を作りたい」

騎士だけなら外壁近くでいいが、一般市民はイヤだろう。

広い場所があれば炊き出しもできるし、人数がきても受け入れられる。

「ここから少し行けば噴水のある広場があります、水があればいいのですが」

水場の近くであればありがたいが、ここまで荒れていると、どうなっているかわからない。

ミューズとレナンは顔を隠すため、魔術師達と同じマントとフードを被っている。

髪も見えないようにまとめ上げ、常にパートナーのそばにいる。

「ではそこを拠点にする。第二騎士団は外壁の確認だ。壁が壊されている場所を地図に印して結界石を設置してきてくれ、後程ゆっくり修理の手筈を整えよう。キール、後の指揮は任せた」

ミューズとレナンを中心にして、一行はまず広場に向かう。

結界石を置き、野営の準備を始めた。

「リオンとはどこで待ち合わせを?」
「王宮の塔と話されていました。あそこは神の加護があり、安全だと」






野営の準備が整い、ミューズ達は塔を目指す。

どんなところかティタンもエリックも見たことがないのだ。

「その、塔というのはどういうところだ?ミューズが住んでたとは聞いたが」
相当古いとだけは聞いている。

「本来は住むところではなく、祈りを捧げるところでした。昔この地に住む時に神様への祈りを捧げる為、高い建物をと建てられたのです」
時には神託などもあり、ひと月に一回は祈りの日があった。

その日になると、王家の女性が祈りを捧げてきたのだ。

昔は一日中塔の中だったそうで、キッチンやお風呂も備わっている。

なのでミューズも生活出来たのだ。

「お母様が亡くなってからあそこに住むようになって、毎朝祈りを捧げさせてもらっていたのですが」
神託を聞くことは出来なかった。

(一度だけ、そのような事を聞いたのだけど)
母を助けて欲しくて通った時だ。

ごめんね助けられなくて、と子どものような声がした。

あの時は縋るものが欲しかったのでミューズの心が生んだ幻聴だったかのかもしれないと考えていた。

それにあまりにもか細過ぎて、自信が持てなかったのだ。







城門は固く閉ざされていて兵士が立っている。

アドガルムの紋章を見て、ビシッと姿勢を正した。

「リオン殿下より話は頂いております。エリック殿下、ティタン殿下がお着きになりましたら通せと」
速やかに門が開き、一行が通ると直様閉じられる。

魔物がここまで入り込まないよう、戦々恐々なのだろう。






「お待ちしていました、姉様」
「リオン!」
ミューズはフードをとり、リオンに駆け寄る。

リオンと離れたのはたった数ヶ月なのに、見違える程成長していた。
優しい顔立ちだが、表情には自信が溢れている。

「エリック様、ティタン様もお久しぶりです。この度はありがとうございます」
「いや、こちらこそご助力が遅くなり、申し訳ない。まさかここまでとは」

エリックは街の荒廃の早さに驚いていた。

もう少しリンドールの騎士達も頑張っているかと思っていたのだが、予想以上に防衛が崩れるのが早かったようだ。

「ルドもライカもご苦労だった」

ティタンはリオンの後ろに控えていた護衛騎士に労いの言葉を述べる。
二人はティタンに跪き、頭を垂れる。

(この二人、あの時の)
暴れ馬を制した際にいた二人だ。

「あの、暴れ馬の時はありがとうございました」

覚えていないのか、キョトンとしている。

「孤児院のところにいたミユという女性だ。お忍びで来ていたし、服装も違うからわからないだろう」
「!! 大変失礼いたしました」

服装どころか色々違うが、思い出してくれてよかった。

「弟のことも守ってくださりありがとうございます。ここまで魔物も多かったのに無事に辿り着いて感謝しています」
丁寧に挨拶され、畏まってしまう。

「そういえばマオは? リオンのそばに居ないようだけれど」
リオンの代わりにエリックが答える。

「マオはニコラと共に先に王宮内に入って貰ってるよ。制裁の準備のためにね」

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