蕾令嬢は運命の相手に早く会いたくて待ち遠しくて、やや不貞腐れていました

しろねこ。

文字の大きさ
9 / 21

第9話 証拠と冤罪

しおりを挟む
 最初に異を唱えてくれたのは彼だ。

 私もおかしいとは思いつつも、確証がないままではライフォンを庇いきれないと躊躇うばかりで、何も出来なかった。

 そんな中友人の為にとアルは声を上げ、糾弾してくれたこそ、私も決断できたのだ。

 アルの行動はとても勇気がいり、そして後押しをしてくれた事に感謝している。

(後はこの決断が実を結んでくれれば……)

 何かが見つかる事を祈るばかりだ。

 そうして待つこと十数分、どうやら何かがあったようで、ざわついている。

「怪しいと思われるものはあったのですが……」

 見た事もない金属の筒、ペンより少し太いくらいかしら?

 片方の端にはガラスのような物がついている。

「何でしょう?」

 何かの魔道具かしら? でもこんなものどうやって使うのかしら。

「怪しいとは思ったのですが、使い方が分からず、確証がないのです。聞いてもただの飾り物と言われるばかりで」

 このままでは証拠にならないという事か。

 魔道具に詳しい先生を呼んでいるそうだが、魔道具は高価で、市井にはそこまで普及していない。

 いくら詳しくても、見てわかるものだろうか。

「貸してください」

 アルはその魔道具を見て何か閃いたのか、手を差し出す。

 教員は少し戸惑った後私の顔を見る。

 私は自分が責任を負うつもりで頷いた。

 教員から謎の魔道具を受け取ったアルは、筒の部分を捻る。

 するとガラスのようになっていた方から白い光が伸びる。

 まるで小さな太陽を詰め込んだかのような眩しさを放っていた。

「暗い場所を照らす魔道具ですね。これでライフォン様の目を狙ったのでしょう」

 白く眩しいその光を直接目に当てられたら、到底物など見えなくなるだろう。

 ライフォンが動きを止めたのは、これのせいか。

 その証拠を知らされて、オニキス様は一瞬硬直し、そしてため息をつく。

「残念だ。私の側近でこんな事をするものが居るとは」

 それを聞いた側近は青ざめた顔になった。

「私は殿下の為を思って……」

「私は頼んでいない。全てはお前が勝手にした事だろう?」

「そんな!」

「言い訳は無用だ。今潔く認めれば家族までは問い詰めない」

 なんて卑怯な男だ。

 家族の事を思ってか、側近はそれ以上何も言えなくなっていた。

 しかしその顔には深い絶望と失望が感じられる。

 そのまま促されるままに教員に連れられこの場を後にする。

 こうなると側近の独断という事で処罰されるのだろうか。

 オニキス様が指示をしたのかどうかは分からなくなり、真相も有耶無耶になってしまう可能性がある。

 私は怒りを覚えたが、彼が何も言わなければ、これ以上オニキス様を追及する事は出来ないだろう。

(絶対に許せない!)

 卑怯な手で勝とうとし、それを棚に上げてライフォンと花の女神様を罵った男となんて、親しくなれるわけはない。

 当然だがオニキス様への信用はまるっきり地に落ちた。


 ◇◇◇


 結局オニキス様が罰せられることはなかったし、側近はあれから姿を消した。

 どうなったのかは知らないが、良い結末など訪れないだろう。

 あれ以来オニキス様とは距離が開き、話しかけてくることもなくなった。

「もうこれであの人と話すことはないわよね」

「あんな事があったし、皆も距離を置いているわ。少なくともこの国の人ならね」

 あんな事をしておいて仲良くしようとは、この国の人ならば思わないはずだ。

 友人と共にそんな話をしていると、アルが走ってきた。

 何やら大事な話があるという事なのだが、何なのだろう?

 ライフォンも伴わずに来たのだから、余程急いでいるみたいだけど。

「ヴィオラ様、大変です! あなたとカミディオンの殿下との縁談話が出ているそうです!」

「えっ?!」

 寝耳に水なんだけど。

「勿論女神さまの許可もなくその様な事は行なえませんが、どうにも外堀を埋めて、あなたの逃げ場を失くして囲い込もうとしているらしく……」

 それを聞いて寒気がする。

 好きでもない男との結婚なんて嫌。

「でももうすぐ私は婚約するのよ? そんな事現実になるわけないわ」

「その婚約も潰そうとしているらしいです。どうやらこの間の件をあなたとライフォン様、そして僕のせいだと押し付けようとしているらしいのです。その見返りとして花の乙女を寄こせと」

 荒唐無稽過ぎてくらくらする。

 でも国同士の諍いともなれば、馬鹿らしいの一言では済まない。

 いくら花の女神様でも人間の政治には口を出せない、このままでは被害は大きくなってしまうだろう。

「どうしよう……どうすれば」

 何とか事態を鎮静化する事は出来ないだろうか。

「あの王子様を黙らせる事が出来ればいいのですが」

 何やら物騒な話だ。

 でもそれが一番早い気はする。

「もういっそ花の女神様の前に連れて行って、ぶっ飛ばしてもらおうかしら」

 恐らくあんな男を女神様は認めない。

 ならば像の前に連れて行って現実を見せれば……。

「それは駄目です!」
 さすが花の女神様の信者、そんな事をしたら罰当たりだと思うわよね。

「第一そんな事を公でやっては、逆恨みされますよ。あなたやライフォン様はともかく、ご友人や女神様の加護の行き渡らない方を人質に取られるような事をされたら、どうするのですか」

 確かにアルの言う通りかも。

 側近を簡単に切り捨てる人だもの、人質に取る事くらいしそうだ。

「あなたがまだ子どもの姿だから諦めないのもあるでしょう。婚約が成立し、成長したあなたを見れば諦めざるを得ない。だからこうして婚約前に妨害しているのだと思います、まだチャンスがあると」

 この姿だから、まだ付け入る隙があると思われているの?

 それならばとても不快な事だ。

 女神様、やはり花の乙女も普通の成長速度にした方が良さそうですよ。

 こうして変なのに目がつけられてしまいますからね。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

俺の妻になれと言われたので秒でお断りしてみた

ましろ
恋愛
「俺の妻になれ」 「嫌ですけど」 何かしら、今の台詞は。 思わず脊髄反射的にお断りしてしまいました。 ちなみに『俺』とは皇太子殿下で私は伯爵令嬢。立派に不敬罪なのかもしれません。 ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻R-15は保険です。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

処理中です...