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第15話 分かり合えない
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「いいえ。それよりもどうしたのです? 何やら剣呑な雰囲気で……一体何を話されていたのでしょう」
オニキスと義父上を交互に見ると、オニキスは不愉快そうな表情を隠しもしない。
「アラカルト侯爵、この者は何者だ。聞き間違いかもしれないが、義父上などと呼ぶとは――」
「聞き間違いではありません。僕はアラカルト侯爵殿を義父上と呼ぶ関係となった。そういう事です」
にっこりと微笑んで言えば、不快そうな顔から怒りの表情となる。
煩い怒声など聞いてはいられないから、先に口を開かせてもらう。
「まさか休日にまであなたに会うとは思っていませんでしたよ、オニキス様」
そう言うと彼はピタリと止まった。
僕の事が分からないからか、訝しげな顔をしている。
(王族なのに誰かもわからない者に対して感情を出し過ぎだな、それに情報収集が不足してるんじゃないかな)
まぁそれも仕方ないか。
僕の存在は隠して欲しいとこの国にも頼んでいたし、極力痕跡は消していたから、それも功を奏したのだろう。
こうして現れる愚か者の存在に煩わされて、貴重な時間を奪われるのは嫌だったからね。
ヴィオラに相応しい者になるには少しの時間も貴重なんだ。
「貴様は一体誰だ。何故俺の事を」
考えたけれどわからなかったようで、でも偉そうな態度は変わらない。
格下認定されたようだね。
「覚えていない? あんなにも顔を合わせたのに」
まぁ会ったのはアルとしてだけど、オニキスには全く思い当たらないようだ。
付き従う側近共も僕の顔はわからないらしい。
いや、ヴィオラも髪と目の色が違う為に戸惑っていたのだから、そのヴィオラよりも無能な彼らがわからないのは、当然な事だね。
「オニキス様。こちらの方は隣国レグリスの王子であるアーネスト様です」
さすがに僕の名を聞けばわかったのだろう。明らかなる動揺が走る。
義父上が僕の名を紹介してくれたが、それから先は言っていいのかとちらりとこちらに目配せをしてくる。
僕は頷き、義父上の手を煩わせないように、否、僕自らが話したくて仕方ないので宣言させて貰う事にした。
義父上の隣まで歩み寄り、改めてオニキスと対峙する。
「オニキス様、改めての自己紹介を失礼します。レグリス国より来ましたアーネストと申します。先程も尋ねましたが、侯爵、いや義父上と何の話をしていたのでしょうか?」
自分と同格の身分の者とヴィオラの婚約がもう済んだ事に気づいて更に動揺しているようだ。
僕の立場を考えれば難癖をつけたり、力づくで奪う事も出来ないから、どう考えてもオニキスは詰んでいる。
(だからとっとと国に帰って欲しいなぁ。ヴィオラを迎える準備をしたいのに)
成長したヴィオラをいち早く見たいのに、こんな邪魔をされて……全く僕はついてない。
そんな僕の考えとは裏腹にオニキスは食い下がる。
「馬鹿な。婚約はまだ先と聞いていた、そんな出鱈目な話があるものか」
「一国の王子がそのような嘘をつくと?」
どうにも頭が悪いな。
僕に対してそのような態度と口調でいていいわけがないだろう。後でカミディオンに正式に抗議するか。
隠れて様子を伺っている僕のお付き達からも殺気が漏れている。
(まだ言い足りないから落ち着いていてくれよ)
後ろ手で制し、僕はオニキスを見据える。
「そろそろ約束のない方はお帰り下さい。本日僕はヴィオラと婚約しましたので、これから大事な話をしなくてなりません」
取り繕う事はないだろうと、堂々と言わせてもらった。
真っ向から帰れと言われると思ってなかったのか、オニキスの側近達が驚愕している。構うものか。
「これ以上アラカルト家にちょっかいをかけないでください。あまりにもこの家やヴィオラに纏わりつくとなれば、レグリス国も花の女神様も黙っていませんよ」
そう言ってから僕は手を前に出した。
『仕方ないわね』
話を合わせてくれた花の女神様が、僕に力を貸してくれる。
前に突き出した手を起点にし、魔力で呼び寄せられた花や蔓が、オニキス達を囲うようにその周囲を覆っていく。
「ひっ!」
ざわざわと音を立てて伸びる植物たちは何か異質な生物のようで不気味だ。
見慣れているはずの深緑の色も、今は不安を煽る翳りを帯びた色にしか見えない。
今にも襲い掛からんとするように伸びた植物達は、かすかい揺れながらオニキス達を見下ろしている。
いつでも締め上げられるようにと空中で待機する植物達を制し、僕は再度促した。
「理解してもらえたかな。もう僕はヴィオラの配偶者として、花の女神様に認められた。だからこうして世界中の植物達の力を行使する事が出来るんだ」
さすがにこれだけの草花があると圧巻だね。
(それにしても、溺愛が過ぎるなぁ)
以前のライフォンの時と違い、多すぎる。ヴィオラの為にと張り切ってくれたのだろう。
「もうヴィオラに手を出そうとしなければ今日の訪問は不問とします。目的もまぁ聞かなかった事にしますよ」
これ以上ここで波風を立てる事はしなくていいだろう。
そんな事よりも成長したヴィオラに早く会いたい。
(処分については侯爵や兄上に任せよう)
その後は義母上やパメラ嬢と皆で話し合い、ヴィオラへの贈り物を何にするか決めよう。
これからはドレスも装飾品も気兼ねなく贈れるから品物が被らないよう、密に話し合いしなくては。
(表立ってのデートも出来るし、彼女と沢山話も出来る……)
空いた時間を埋めるため、今後ヴィオラとどう過ごすか、それを考えると口元がついにやけそうになってしまい、慌てて隠す。
そんな事をして油断してしまった為か、すっかりと気づくのが遅れてしまった。
「アーネスト様!」
(ヴィオラ?)
背中に掛けられた声は、少し低音だが間違いなく彼女のものだ。
思ったよりも時間をかけてしまい、迎えに行きそびれてしまった。
(ライフォンに足止めを頼んだけど、強行突破されたかな)
気の強い彼女がライフォンの制止で止まるはずはない。
「ヴィオラ」
声に惹かれ、振り返る。
そうしてこちらを見つめるヴィオラを見て、僕は言葉を失ってしまった。
オニキスと義父上を交互に見ると、オニキスは不愉快そうな表情を隠しもしない。
「アラカルト侯爵、この者は何者だ。聞き間違いかもしれないが、義父上などと呼ぶとは――」
「聞き間違いではありません。僕はアラカルト侯爵殿を義父上と呼ぶ関係となった。そういう事です」
にっこりと微笑んで言えば、不快そうな顔から怒りの表情となる。
煩い怒声など聞いてはいられないから、先に口を開かせてもらう。
「まさか休日にまであなたに会うとは思っていませんでしたよ、オニキス様」
そう言うと彼はピタリと止まった。
僕の事が分からないからか、訝しげな顔をしている。
(王族なのに誰かもわからない者に対して感情を出し過ぎだな、それに情報収集が不足してるんじゃないかな)
まぁそれも仕方ないか。
僕の存在は隠して欲しいとこの国にも頼んでいたし、極力痕跡は消していたから、それも功を奏したのだろう。
こうして現れる愚か者の存在に煩わされて、貴重な時間を奪われるのは嫌だったからね。
ヴィオラに相応しい者になるには少しの時間も貴重なんだ。
「貴様は一体誰だ。何故俺の事を」
考えたけれどわからなかったようで、でも偉そうな態度は変わらない。
格下認定されたようだね。
「覚えていない? あんなにも顔を合わせたのに」
まぁ会ったのはアルとしてだけど、オニキスには全く思い当たらないようだ。
付き従う側近共も僕の顔はわからないらしい。
いや、ヴィオラも髪と目の色が違う為に戸惑っていたのだから、そのヴィオラよりも無能な彼らがわからないのは、当然な事だね。
「オニキス様。こちらの方は隣国レグリスの王子であるアーネスト様です」
さすがに僕の名を聞けばわかったのだろう。明らかなる動揺が走る。
義父上が僕の名を紹介してくれたが、それから先は言っていいのかとちらりとこちらに目配せをしてくる。
僕は頷き、義父上の手を煩わせないように、否、僕自らが話したくて仕方ないので宣言させて貰う事にした。
義父上の隣まで歩み寄り、改めてオニキスと対峙する。
「オニキス様、改めての自己紹介を失礼します。レグリス国より来ましたアーネストと申します。先程も尋ねましたが、侯爵、いや義父上と何の話をしていたのでしょうか?」
自分と同格の身分の者とヴィオラの婚約がもう済んだ事に気づいて更に動揺しているようだ。
僕の立場を考えれば難癖をつけたり、力づくで奪う事も出来ないから、どう考えてもオニキスは詰んでいる。
(だからとっとと国に帰って欲しいなぁ。ヴィオラを迎える準備をしたいのに)
成長したヴィオラをいち早く見たいのに、こんな邪魔をされて……全く僕はついてない。
そんな僕の考えとは裏腹にオニキスは食い下がる。
「馬鹿な。婚約はまだ先と聞いていた、そんな出鱈目な話があるものか」
「一国の王子がそのような嘘をつくと?」
どうにも頭が悪いな。
僕に対してそのような態度と口調でいていいわけがないだろう。後でカミディオンに正式に抗議するか。
隠れて様子を伺っている僕のお付き達からも殺気が漏れている。
(まだ言い足りないから落ち着いていてくれよ)
後ろ手で制し、僕はオニキスを見据える。
「そろそろ約束のない方はお帰り下さい。本日僕はヴィオラと婚約しましたので、これから大事な話をしなくてなりません」
取り繕う事はないだろうと、堂々と言わせてもらった。
真っ向から帰れと言われると思ってなかったのか、オニキスの側近達が驚愕している。構うものか。
「これ以上アラカルト家にちょっかいをかけないでください。あまりにもこの家やヴィオラに纏わりつくとなれば、レグリス国も花の女神様も黙っていませんよ」
そう言ってから僕は手を前に出した。
『仕方ないわね』
話を合わせてくれた花の女神様が、僕に力を貸してくれる。
前に突き出した手を起点にし、魔力で呼び寄せられた花や蔓が、オニキス達を囲うようにその周囲を覆っていく。
「ひっ!」
ざわざわと音を立てて伸びる植物たちは何か異質な生物のようで不気味だ。
見慣れているはずの深緑の色も、今は不安を煽る翳りを帯びた色にしか見えない。
今にも襲い掛からんとするように伸びた植物達は、かすかい揺れながらオニキス達を見下ろしている。
いつでも締め上げられるようにと空中で待機する植物達を制し、僕は再度促した。
「理解してもらえたかな。もう僕はヴィオラの配偶者として、花の女神様に認められた。だからこうして世界中の植物達の力を行使する事が出来るんだ」
さすがにこれだけの草花があると圧巻だね。
(それにしても、溺愛が過ぎるなぁ)
以前のライフォンの時と違い、多すぎる。ヴィオラの為にと張り切ってくれたのだろう。
「もうヴィオラに手を出そうとしなければ今日の訪問は不問とします。目的もまぁ聞かなかった事にしますよ」
これ以上ここで波風を立てる事はしなくていいだろう。
そんな事よりも成長したヴィオラに早く会いたい。
(処分については侯爵や兄上に任せよう)
その後は義母上やパメラ嬢と皆で話し合い、ヴィオラへの贈り物を何にするか決めよう。
これからはドレスも装飾品も気兼ねなく贈れるから品物が被らないよう、密に話し合いしなくては。
(表立ってのデートも出来るし、彼女と沢山話も出来る……)
空いた時間を埋めるため、今後ヴィオラとどう過ごすか、それを考えると口元がついにやけそうになってしまい、慌てて隠す。
そんな事をして油断してしまった為か、すっかりと気づくのが遅れてしまった。
「アーネスト様!」
(ヴィオラ?)
背中に掛けられた声は、少し低音だが間違いなく彼女のものだ。
思ったよりも時間をかけてしまい、迎えに行きそびれてしまった。
(ライフォンに足止めを頼んだけど、強行突破されたかな)
気の強い彼女がライフォンの制止で止まるはずはない。
「ヴィオラ」
声に惹かれ、振り返る。
そうしてこちらを見つめるヴィオラを見て、僕は言葉を失ってしまった。
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