根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。

文字の大きさ
3 / 19

第一王子

しおりを挟む
茶会が始まり、レナンはソワソワしていた。妹と離れたからだ。

友人に連れて行かれた後にすぐ事情を話して元のところまで戻ったのだが、妹はいなかった。

会場の外に出たり一人で帰ることはないだろうが、心配だ。

「どこに行ったのかしら?」
心配でキョロキョロしてしまう。

何故かミューズを不細工と呼ぶ者がいるため、妹が傷つかないか心配なのだ。



姉のレナンから見たミューズはすっごく可愛いし、すっごい美少女。

お人形さんみたいで本当に可愛い。

それなのにやっかみなのか、元家庭教師と元メイドに悪意ある言葉を聞かされ心に酷い傷を負ったのだ。

本当に許せない事だった。

今日はどうしても出なければならない茶会だった為に必ず付き添うと約束したのに、と泣きそうだ。

ずっと茶会に出ることを拒んでいた妹なのにと離れてしまった事を後悔している。



「もしそこの麗しい方。何かお困りでも?」

後ろからかかる男性の声に体がびくりと跳ね上がる。
心臓も跳ね上がった気がする。

「殿下…」
この場で男性はそうは居ない。
慌てて振り向き、礼と挨拶をする。

「エリック殿下、申し訳ございません。折角お声掛け頂いたのですが大丈夫です。これはわたくしの問題でして、何でもないですわ」
さすがに声を掛けてもらえたのだから、その場からすぐ立ち去るわけにもいかず、にこやかな笑顔で応対する。
「エリックで結構ですよ。何でもないとは思えませんでしたが、良かったら私が話を聞きましょうか?」
「いえ、あの…」

「まずはお名前を、と思いましたが、レナン=スフォリア嬢ですよね?ディエス宰相のご息女である」
名乗りもしてないのに、名を当てられ驚いた。

「失礼。事前の釣書にてこちらのレディ達の顔と名前はわかるのですが、あなたの美しい銀髪と澄んだ湖のような青い瞳はとても印象深いものでしたから…」
エリックの方が余程美しいと思うのだが。

金髪翠眼の整った顔立ちの王子様。
白い肌と王族らしい感情制御がなされているほぼ変わらない表情のために、氷の王子と呼ばれている。

人間離れしたその容貌はビスクドールのようで、憧れる女性が多い。

「私で良ければ困りごとの力になりますよ」
エリックの言葉に首を横に振った。

「わたくしの事までありがとうございます。ですが大丈夫です」
頑なに拒むレナンに、すっと目を細める。
「そう言えば妹君はどちらに?お二人でいらっしゃってますよね」
レナンの顔色が変わった。

周囲からのひそひそ声が僅かに聞こえて来た。

妹とは醜悪で根暗な令嬢の事だと。

レナンがぐっと手に力を入れたのを見て、エリックがレナンの手を取った。

「あちらにサロンがあります、少し二人で話しましょう」

周囲からどよめきがわいた。
「わ、わたくしは、その、遠慮しますわ」

このような皆が見てる場面で二人で中座するなんて、後が怖い。

手を離すことなくエリックがレナンの耳元で囁く。

「妹君を探しているのでしょう?私が命じればすぐ見つかりますよ」

レナンは顔をばっと上げた。

「では行きましょう」
レナンは手を引かれ、ゆっくりとエリックについて行く。

「ぜひ、私共もご一緒したいです!」
厚かましくも手を挙げるのは先程ミューズの事を話していた令嬢グループだ。

「今はレナン嬢との会話を楽しみたいので、申し訳ないけど君達とはまた別な機会にお願いするよ」

「差し出がましいですが、そちらのレナン様の妹君は少々容姿が劣りますし性格も難ありでして。その姉であるレナン様も相当だと聞きます…エリック様に相応しいとは思えませんわ」

なるほど。
妹を貶す傍ら、姉であるレナンの評判も落とそうと言うわけか。
エリックは周囲を見る。

クスクスと周囲から聞こえる悪意、ニヤついた顔の令嬢、顔色を悪くするレナン。



「なるほど、ご忠告感謝する。しかし…」
声音を敢えて低くした。

「人を陥れようとする者よりレナン嬢が下だとは思えない。ましてや人の容姿を蔑む者など以ての外だ。そちらの方が余程醜く、汚らわしい」

周囲への牽制も込めて、やや大きめの声を出す。

「ニコラ。先程レナン嬢を馬鹿にした令嬢と、笑ったものをリストアップしてくれ。口さがない言葉に振り回される愚かな令嬢だ、今後の付き合いを検討しよう」

「仰せのままに」

ニコラと呼ばれた従者は既にメモを取っていたようだ。



「レナン嬢、あちらで温かいお茶でも飲みましょう。体が冷えている」
中傷の言葉に指先まで冷えていることに気づいたエリックは安心させるように繋いでいる手に力をこめ、この場から急いで離れた。



「お気遣いありがとうございます」
温かい紅茶を飲み、ようやく落ち着いた。

「妹君は今探させています。見つかったらここに連れてきて貰うから安心してゆっくりとお過ごし下さい」

丁寧に、そして優しく声を掛けられ感謝する。
「何から何まで、本当にありがとうございます。このような事をして頂き、なんとお礼をしたらいいか…」
「あまりお気になさらず。後程頼み事をしたいのですが今は妹君、ミューズ嬢の安全を確認してからに致しましょう」

エリックも紅茶を一口飲む。
優雅な仕草に思わず見惚れてしまった。
「私に何かついていますか?」
「いえ、そのような事はないです」
慌ててしまうレナンが面白くてついからかってしまう。
「では何故見ていたのです?」
「それは、殿下がおキレイでしたので…」
顔を赤くし、そう呟くレナンは初心そのもので。
エリックの加虐心が煽られる。

「貴女のほうが美しいではないですか。長い睫毛もサラサラの銀髪も、その可愛らしい薄桃色の唇も、ぜひ触れてみたい」
コホン、と後ろに控えるニコラが咳払いをする。
やりすぎだと制された。
レナンを見ればガチガチに固まっている。

公爵令嬢にも関わらず表情がくるくると変わるのが新鮮で楽しい。
妹の事で心を砕き、取り繕う余裕がないのだろう。



調書を見た時から気になっていた。

美しい姉と醜い妹との一文。

書いたのは王家の影だが、絵姿が本当に似ていなかった。

逆に興味を引き、更に調べさせたのだが、家族は蔑むどころかミューズを溺愛している。
可哀想だからではなく、本当に可愛くて。

そしてレナンは世間の評判に怒り、心を痛めていた。

コンコンとノックされメイドが入ってくる。
そっと耳打ちされるとエリックは笑ってしまった。
「何かあったのですか?」
「あぁ、いや。君の妹君は俺の弟と一緒らしいよ」
兄弟でもって、同じ家の娘に惹かれるのかと思わず笑ってしまったのだ。
「楽しく談笑してるらしい、暫くそのままにしてあげたいのですが、よろしいでしょうか?」
「楽しくですか?それならば安心です。妹は内気でこのような茶会に不慣れでしたから心配しましたが、見つかって良かったです」
安堵の様子にようやく、レナンの笑顔が見られた。

「茶会が終わる前にこちらに二人をお呼びしましょう。それにしても大事な妹さんなのですね」
「とっても大事ですわ、何より可愛くて素直で、優しいのです。この前も疲れに効くハーブティを淹れてくれて、本当に可愛いのです」
レナンはしきりに可愛いと言っている。
嘘をついてるとは思えないし、身内の贔屓目にしてはここまで白熱して言えるものかと思ってしまった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!

恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。 誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、 三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。 「キャ...ス...といっしょ?」 キャス……? その名を知るはずのない我が子が、どうして? 胸騒ぎはやがて確信へと変わる。 夫が隠し続けていた“女の影”が、 じわりと家族の中に染み出していた。 だがそれは、いま目の前の裏切りではない。 学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。 その一夜の結果は、静かに、確実に、 フローレンスの家族を壊しはじめていた。 愛しているのに疑ってしまう。 信じたいのに、信じられない。 夫は嘘をつき続け、女は影のように フローレンスの生活に忍び寄る。 ──私は、この結婚を守れるの? ──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの? 秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。 真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

恋を再び

Rj
恋愛
政略結婚した妻のヘザーから恋人と一緒になりたいからと離婚を切りだされたリオ。妻に政略結婚の相手以外の感情はもっていないが離婚するのは面倒くさい。幼馴染みに妻へのあてつけにと押しつけられた偽の恋人役のカレンと出会い、リオは二度と人を好きにならないと捨てた心をとりもどしていく。 本編十二話+番外編三話。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

【完結】旦那様、離縁後は侍女として雇って下さい!

ひかり芽衣
恋愛
男爵令嬢のマリーは、バツイチで気難しいと有名のタングール伯爵と結婚させられた。 数年後、マリーは結婚生活に不満を募らせていた。 子供達と離れたくないために我慢して結婚生活を続けていたマリーは、更に、男児が誕生せずに義母に嫌味を言われる日々。 そんなある日、ある出来事がきっかけでマリーは離縁することとなる。 離婚を迫られるマリーは、子供達と離れたくないと侍女として雇って貰うことを伯爵に頼むのだった…… 侍女として働く中で見えてくる伯爵の本来の姿。そしてマリーの心は変化していく…… そんな矢先、伯爵の新たな婚約者が屋敷へやって来た。 そして、伯爵はマリーへ意外な提案をして……!? ※毎日投稿&完結を目指します ※毎朝6時投稿 ※2023.6.22完結

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

処理中です...