根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。

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はばたく日

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今日はいよいよミューズの社交界デビューの日だ。

とても緊張する。



自分をさらけ出す初めての場として今日を選んだのは、大人としてデビューをする記念の日だからだ。

あれからだいぶ噂を払拭出来たのは、容姿に拘らない人が案外多くいた事、そしてミューズ自身も自分を好きになれたことが大きい。

暗く沈む者よりは明るく笑顔を見せる者のほうが、当たり前だが好かれやすいものだ。

ティタンが隣にいる事も自信に繋がっていた。
家族以外で、愛してくれる者がいるというのはとても強い力となる。



レナンという頼れる者が離れたこともミューズの自立に拍車をかけた。
甘え頼ることに慣れてしまったのも今では良くなかったと自覚出来る。



あの日から色々目が醒めることばかりだった。

自分で動く事を心掛けるだけで、視界が、世界が広がった気がする。



「大丈夫か?」
心配そうなティタンの声。

色々な事に思いを馳せていたら、つい浸ってしまったようだ。

ティタンはすっかり声変わりをし、出逢った時よりも格段に体格が良くなっていた。

第二王子として外交にも意欲的に参加し知る者が増えたこと、他の人より一際大きく物理的にも自然と皆の目に入るティタンは注目の的だった。

本日は父親であるディエスの代わりに婚約者としてミューズのエスコートを願い出た。

「大丈夫よ、ありがとう」
ニコリと満面の笑みで応じる。



周囲から聞こえるは中傷ではなく戸惑いの声。

ティタンの隣にいる令嬢が誰なのか考え倦ねているようだ。

第二王子と誰が婚約したかはわかっている。

けれども絵姿や噂話の令嬢とは一致しないから皆戸惑っているのだ。



「ミューズ様、とてもおキレイですぅ」
おっとりとした一人の令嬢が声を掛けに来た。
豊かなハニーブロンドの髪にリボンを編み込んでいる。口元の黒子や垂れ目、甘えるような声が特徴的だ。
メィリィ=ヘプバーン伯爵令嬢である。

「皆の注目を集めてるわ。うふふ、面白いわね」
楽しそうに言う声音は割とハスキーだ。
高い背丈と相まってミューズ達より年上に見える。
黒髪紫眼の吊り目が特徴的なフローラ=ローズマリー侯爵令嬢。

二人共新たに出来た友人で、本日のデビュタントだ。



「婚約者にエスコートされるなんて、本当に憧れますわぁ、どうやったら出来るかしら?」
「ねっ。わたくし達も素敵な婚約者を探したいわ」
と、隣のティタンにも気軽に挨拶をしていく。

どちらもタイプは違うが図太いタイプである。

二人は数少ない事情を知る者だ。




「ミューズ様ずっと言おうと思ってたのですがぁ、今度私にドレスを選ばせて欲しいですぅ」
メィリィと会って初めて言われたのはそんな言葉だった。

「ミューズ様は私と同じ小柄な体型ですが、お胸がありますの。ハイウェストでもぅ、ふんわりとバルーンにするのではなくもう少しウェストの細さを強調されるといいですわぁ」

まじまじと見られ、ペタペタと触られる。

「常々勿体ないと思ってましたわぁ。こうして話しかけて貰えて嬉しいですぅ、背筋を伸ばし、目元を大きくするメイクをしたいですぅ」

メィリィはオシャレが大好きで、将来はデザイナーになりたいそうだ。

「お顔に自信がない?そんなのメイクでどうとでもなりますわぁ。皮一枚の問題じゃないですかぁ」

キャハっと笑うメィリィはミューズの悩みを一蹴した。

その後事情を話して素顔を見てもらうと「あらぁ、ドレス選びの幅が広がりますぅ」
と動じていなかった。




「ミューズ様。お聞きしたいのですが、どうしたら騎士の方と仲良くなれますか?」

フローラとはそんな馴れ初めだった。

ティタンは第二王子ながら、訓練を共にする騎士達と仲が良い。
そんなミューズもティタンに紹介され、幾人かの騎士と顔見知りになっていた。

騎士達は事情は知らぬものの、ティタンの婚約者に表立って何かを言うことはなかった。
差し入れをしたり挨拶を交わすに連れ、親しみを持ってもらえるようになった。

婚約者探しの為かとフローラに聞いたところ、
「それもあるけど、実は私は騎士になりたくて」
フローラは女性騎士を目指しているそうだ。
この国での女性騎士は少なく、フローラは親からの許しはあるものの具体的に学ぶ場所がないらしい。
「騎士の訓練法がわかれば自宅などで行えるかもしれないし、いずれは一緒に訓練をしてみたい」
そのために騎士の知り合いが欲しいと言ったみたいだ。

ティタンに相談したところ、ミューズと会う際に来る護衛騎士のルドやライカに鍛錬をお願いすることが出来た。

実際に会う時間はとても少ないが、現場の声が聞けるのはとても楽しいようだ。

「とても熱心でいいですね」
ルドには悪い印象はないようだ。
「いい腕だ。身長もあるから、力も強いし女性らしい柔軟さもある」
ライカも珍しく褒めていた。


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