14 / 19
みにくいのはだぁれ?
しおりを挟む
入場が終わり、ミューズはティタンとファーストダンスを踊る。
すっかり体が大きくなったティタンのリードにミューズの足は浮いてしまう。
クルクルと動くとドレスの裾がふわりとたなびいた。
妖精のような身軽さだ。
「すまない、もう少し二人で練習すれば良かったな」
「これはこれで楽しいわ」
飛ぶようなステップは軽やかで楽しそうだ。
「ミューズに皆釘付けだ。少し妬いてしまう」
「物珍しさではない?根暗令嬢がこんなに笑うんだって」
うふふと笑うその笑みはとても優雅だ。
人脈作りのため出た茶会はだいぶ厳選していた。
エリックのリストを見て更に裏取りをし、王家やスフォリア家に仇なす事がなさそうな家柄を探した。
茶会に出席しても、魔法の事を話せない者もいたが、人柄は知ってもらえたはずだ。
噂だけ知っていて、本日初めてミューズを直に見る者も多いだろう。
「それでも見られるのは嫌だ」
ダンスが終わり、そわそわとこちらを窺う視線。
ダンスに誘いたい令息や話を聞きたいと言わんばかりの令嬢がいる。
中にはミューズを過去に蔑んだ者達も。
「ティタン殿下、ミューズ様。素敵なダンスでしたね」
そのうちの一人カレンが話しかけに来た。
ピンクの髪をくるくると巻いており、水色の瞳からは面白くないといった様子が窺える。
隣には金髪碧眼の婚約者、ユミルがいる。
同じくエスコートだったのだろう。
「ありがたい言葉だが、君は誰だ?」
ティタンは知ってはいたが、敢えて名を問う。
自分を知らないと言われ、カレンは不機嫌な顔を隠しもせずティタンと向き合った。
「カレン=サラエドです。嫌ですわ殿下、何回もお会いしたでしょう。婚約者選びの茶会でも」
「すまない、覚えていない」
きっぱりはっきりと切り捨てる。
本当は覚えている、兄に猫撫で声で近づいていた女だ。
そして大臣の娘。
「そちらは?」
ティタンは今度はユミルに視線を移す。
こちらの男もティタンは知っているが、一応聞いておいた。
「イースティ公爵家の次男ユミルと申します。カレン様の婚約者です」
恭しく礼をする。
「ミューズ様もデビュタントだったのですね。一緒とは知りませんでしたわ」
ユミルの次の言葉も遮り、カレンが馴れ馴れしく話してくる。
「えぇ、私も。カレン様が一緒とは存じ上げておりませんでした。奇遇ですね」
ニコニコとしたやり取り。
父が重臣同士であるがカレンは常にライバル視して接してくる為、ミューズも強かに行くと決めていた。
同じくカレンから嫌がらせを受けていたレナンからもだいぶアドバイスが来ていた。
「ユミル様もはじめまして。お噂は聞いておりますわ、お二人とても仲がよろしいそうですわね」
ミューズは上目遣いでわざとそう言う。
可愛く見えるよう角度を考え、甘えた声を出した。
メイリィとフローラと練習した男性に効く技だ。
ユミルは頬を赤く染め、少し照れ臭そうにする。
カレンがムッとしているのが見えた。
「ありがとう。ミューズ様は噂と違い、とても綺麗だね」
うっかりと言った言葉にユミルは思わず口を押さえる。
「噂、か。ユミル殿はどのような噂を聞いたのだ?」
ティタンはそう問いながら、優しくミューズの体を抱き寄せる。
少しヤキモチを妬いていた。
「ミューズ様がお金と引き換えに美貌を手に入れたって話ですわ。ティタン様は騙されておいでなのです」
カレンが横から口を出す。
その口調は自分が正しいと自信を持ったものだ。
「私がお金と引き換えに?どうやって?」
心外だと大袈裟に驚いて見せる。
「どうせうまく取り入ったレナン様が、王家からお金を出させて、ミューズ様の顔を魔法で変えたんでしょ?じゃなきゃ根暗令嬢がこんなに変わるわけないもの」
動揺している様が図星をついていると確信したのか、カレンは断罪を続ける。
あくまでミューズの顔は作り物だと信じている。
「あら、そのような魔法があるの?知らなかったわ。それにしても根暗令嬢なんて酷い言葉、傷つきますわ」
ミューズは体を震わせティタンに抱きつく。
か弱く怯え、男に縋る姿。
わざとらしいミューズにカレンは苛立った。
「白々しい、本当は身も心も醜い癖に。王家に取り入るなんて図々しいのよ、ましてやエリック様を誑かすなんて、姉妹揃って狡賢いのよ!」
沸点が低い人ね、とミューズは泣き真似を続け、ティタンにしがみついている。
「醜いなんてカレン様ヒドイわ!私、誑かすなんて事してないのに!」
大きな声で盛大に悲しむ。
我ながらあざとい演技だ。
「カレン様…私が綺麗って言われたから、羨ましいのですか?」
ミューズは今度は小声でカレンを焚きつける。
「私があなたを羨ましいですって?!
誰があなたみたいな不細工を…!」
「カレン、もう止めよう」
ユミルがカレンの腕を引く。
「何よユミル、あなたまでこの女の味方をするの?!」
「そうじゃない、周りの視線を見てよ!」
カレンは周りの視線にハッとした。
非難するような視線はミューズではなく、カレンに注がれている。
「このような場で俺の婚約者を貶すとは、貴様立場をわかっているのか?」
ティタンのこめかみには青筋が立っていた。
すっかり体が大きくなったティタンのリードにミューズの足は浮いてしまう。
クルクルと動くとドレスの裾がふわりとたなびいた。
妖精のような身軽さだ。
「すまない、もう少し二人で練習すれば良かったな」
「これはこれで楽しいわ」
飛ぶようなステップは軽やかで楽しそうだ。
「ミューズに皆釘付けだ。少し妬いてしまう」
「物珍しさではない?根暗令嬢がこんなに笑うんだって」
うふふと笑うその笑みはとても優雅だ。
人脈作りのため出た茶会はだいぶ厳選していた。
エリックのリストを見て更に裏取りをし、王家やスフォリア家に仇なす事がなさそうな家柄を探した。
茶会に出席しても、魔法の事を話せない者もいたが、人柄は知ってもらえたはずだ。
噂だけ知っていて、本日初めてミューズを直に見る者も多いだろう。
「それでも見られるのは嫌だ」
ダンスが終わり、そわそわとこちらを窺う視線。
ダンスに誘いたい令息や話を聞きたいと言わんばかりの令嬢がいる。
中にはミューズを過去に蔑んだ者達も。
「ティタン殿下、ミューズ様。素敵なダンスでしたね」
そのうちの一人カレンが話しかけに来た。
ピンクの髪をくるくると巻いており、水色の瞳からは面白くないといった様子が窺える。
隣には金髪碧眼の婚約者、ユミルがいる。
同じくエスコートだったのだろう。
「ありがたい言葉だが、君は誰だ?」
ティタンは知ってはいたが、敢えて名を問う。
自分を知らないと言われ、カレンは不機嫌な顔を隠しもせずティタンと向き合った。
「カレン=サラエドです。嫌ですわ殿下、何回もお会いしたでしょう。婚約者選びの茶会でも」
「すまない、覚えていない」
きっぱりはっきりと切り捨てる。
本当は覚えている、兄に猫撫で声で近づいていた女だ。
そして大臣の娘。
「そちらは?」
ティタンは今度はユミルに視線を移す。
こちらの男もティタンは知っているが、一応聞いておいた。
「イースティ公爵家の次男ユミルと申します。カレン様の婚約者です」
恭しく礼をする。
「ミューズ様もデビュタントだったのですね。一緒とは知りませんでしたわ」
ユミルの次の言葉も遮り、カレンが馴れ馴れしく話してくる。
「えぇ、私も。カレン様が一緒とは存じ上げておりませんでした。奇遇ですね」
ニコニコとしたやり取り。
父が重臣同士であるがカレンは常にライバル視して接してくる為、ミューズも強かに行くと決めていた。
同じくカレンから嫌がらせを受けていたレナンからもだいぶアドバイスが来ていた。
「ユミル様もはじめまして。お噂は聞いておりますわ、お二人とても仲がよろしいそうですわね」
ミューズは上目遣いでわざとそう言う。
可愛く見えるよう角度を考え、甘えた声を出した。
メイリィとフローラと練習した男性に効く技だ。
ユミルは頬を赤く染め、少し照れ臭そうにする。
カレンがムッとしているのが見えた。
「ありがとう。ミューズ様は噂と違い、とても綺麗だね」
うっかりと言った言葉にユミルは思わず口を押さえる。
「噂、か。ユミル殿はどのような噂を聞いたのだ?」
ティタンはそう問いながら、優しくミューズの体を抱き寄せる。
少しヤキモチを妬いていた。
「ミューズ様がお金と引き換えに美貌を手に入れたって話ですわ。ティタン様は騙されておいでなのです」
カレンが横から口を出す。
その口調は自分が正しいと自信を持ったものだ。
「私がお金と引き換えに?どうやって?」
心外だと大袈裟に驚いて見せる。
「どうせうまく取り入ったレナン様が、王家からお金を出させて、ミューズ様の顔を魔法で変えたんでしょ?じゃなきゃ根暗令嬢がこんなに変わるわけないもの」
動揺している様が図星をついていると確信したのか、カレンは断罪を続ける。
あくまでミューズの顔は作り物だと信じている。
「あら、そのような魔法があるの?知らなかったわ。それにしても根暗令嬢なんて酷い言葉、傷つきますわ」
ミューズは体を震わせティタンに抱きつく。
か弱く怯え、男に縋る姿。
わざとらしいミューズにカレンは苛立った。
「白々しい、本当は身も心も醜い癖に。王家に取り入るなんて図々しいのよ、ましてやエリック様を誑かすなんて、姉妹揃って狡賢いのよ!」
沸点が低い人ね、とミューズは泣き真似を続け、ティタンにしがみついている。
「醜いなんてカレン様ヒドイわ!私、誑かすなんて事してないのに!」
大きな声で盛大に悲しむ。
我ながらあざとい演技だ。
「カレン様…私が綺麗って言われたから、羨ましいのですか?」
ミューズは今度は小声でカレンを焚きつける。
「私があなたを羨ましいですって?!
誰があなたみたいな不細工を…!」
「カレン、もう止めよう」
ユミルがカレンの腕を引く。
「何よユミル、あなたまでこの女の味方をするの?!」
「そうじゃない、周りの視線を見てよ!」
カレンは周りの視線にハッとした。
非難するような視線はミューズではなく、カレンに注がれている。
「このような場で俺の婚約者を貶すとは、貴様立場をわかっているのか?」
ティタンのこめかみには青筋が立っていた。
25
あなたにおすすめの小説
泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される
琴葉悠
恋愛
エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。
そんな彼女に婚約者がいた。
彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。
エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。
冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──
旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!
恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。
誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、
三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。
「キャ...ス...といっしょ?」
キャス……?
その名を知るはずのない我が子が、どうして?
胸騒ぎはやがて確信へと変わる。
夫が隠し続けていた“女の影”が、
じわりと家族の中に染み出していた。
だがそれは、いま目の前の裏切りではない。
学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。
その一夜の結果は、静かに、確実に、
フローレンスの家族を壊しはじめていた。
愛しているのに疑ってしまう。
信じたいのに、信じられない。
夫は嘘をつき続け、女は影のように
フローレンスの生活に忍び寄る。
──私は、この結婚を守れるの?
──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの?
秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。
真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!
恋を再び
Rj
恋愛
政略結婚した妻のヘザーから恋人と一緒になりたいからと離婚を切りだされたリオ。妻に政略結婚の相手以外の感情はもっていないが離婚するのは面倒くさい。幼馴染みに妻へのあてつけにと押しつけられた偽の恋人役のカレンと出会い、リオは二度と人を好きにならないと捨てた心をとりもどしていく。
本編十二話+番外編三話。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
【完結】旦那様、離縁後は侍女として雇って下さい!
ひかり芽衣
恋愛
男爵令嬢のマリーは、バツイチで気難しいと有名のタングール伯爵と結婚させられた。
数年後、マリーは結婚生活に不満を募らせていた。
子供達と離れたくないために我慢して結婚生活を続けていたマリーは、更に、男児が誕生せずに義母に嫌味を言われる日々。
そんなある日、ある出来事がきっかけでマリーは離縁することとなる。
離婚を迫られるマリーは、子供達と離れたくないと侍女として雇って貰うことを伯爵に頼むのだった……
侍女として働く中で見えてくる伯爵の本来の姿。そしてマリーの心は変化していく……
そんな矢先、伯爵の新たな婚約者が屋敷へやって来た。
そして、伯爵はマリーへ意外な提案をして……!?
※毎日投稿&完結を目指します
※毎朝6時投稿
※2023.6.22完結
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる