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陥れたのは
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「俺の婚約者であるミューズに対するその暴言…許せる訳が無い」
射殺さんばかりの迫力だ。
ティタンの演技に乗るようにポロポロとミューズは涙を流す。
「ごめんなさいティタン、私があなたに相応しくないからこんな事に」
「そんな事はない!俺の為にずっと努力をして支えてくれていた、今日だってどの令嬢よりも美しい…誰が君を醜いだなどと思うだろうか。そこの無礼者以外はな」
第二王子であるティタンに睨みつけられて、カレンはその場から逃げることも出来ない。
「申し訳ありません、侮辱するつもりは…ほら早く謝って!」
ユミルが無理矢理カレンの頭を下げようとする。
「だって私は…」
「いいから!」
カレンは押され崩折れるように膝をついた。
見上げればティタンの腕の中で泣くミューズと目が合う。
ミューズの口元には微かな笑み。
カッと頭に血が上るが、ユミルに抑えられたままだ。
「このままではまずい、今日は各国の来賓もいるんだ。君の父上にも迷惑がかかる」
ひそひそと言われ、グッと飛びかかるのを抑えた。
「申し訳ありません、ティタン様…」
「謝る相手が違うだろ!」
ダンっと足で床を踏み鳴らした。
床を壊さんばかりの勢いにミューズすらも驚く。
(本気で怒っているんだわ)
見上げた顔は見たことない程怒りに満ちていて、目は血走っている。
演技どころではない。
「ミューズ様…申し訳ありません」
目も合わせず、カレンは震える声で告げる。
ミューズは焦る。
ここはまだ本番ではない、断罪したかったのはこの令嬢ではないのだ。
あくまで彼女はついでなのだ。
「ティタン様…これは一体どういう事でしょう」
静かな厳かな声がする。
カレンの父親ラドンのものだ。
「今日は大事な娘の社交界デビューの日、それが何故このような事になってるのかお答え頂いてよろしいかな?」
怒りと戸惑いに満ちた声。
騒ぎのもとがまさか娘とは思っていなかったに違いない。
「お父様!」
弾かれたようにその場から駆け出し、抱き着くとカレンは泣き出した。
「殿下が、ミューズ様に騙されてるから、私は真実を言っただけなのよ。それなのに信じて貰えなくて…」
「どういうことだ?ユミル殿、一体何が」
「えっと…」
どうしたらいいのかと、ユミルはその場に膝をついたままだ。
「…ラドン殿の娘が俺の婚約者を侮辱したのだ」
先程より幾ばくか落ち着いた声になっている。
「ミューズが金で美貌を買って、俺を誑かしたとな。根暗令嬢などと不名誉な呼び名を付け、あまつさえ不細工だと?これが許せるものか!」
ビリビリとした声量がホールに響く。
それだけで聞いていた、気の弱い令嬢は気を失ってしまったようだ。
騎士の訓練を受けるティタンの声は大きい。
(少し、落ち着いて…)
小声でそう言うものの、頭を撫でられて終わってしまった。
「そのような事をカレンが…」
ラドンは表情を極力抑える。
(まずい、そのような事を直接殿下の前で言うとは…!)
噂はあくまで噂だ。
本人のいないところで話すのはどうとでも誤魔化せる。
だが本人に伝えてしまうは明確な侮辱、明らかなる愚策だ。
誰かの口からではない、実の娘カレンが第二王子であるティタンへ言ってしまった。
証人も多い。
申し開きは出来ない。
「カレン何故そのような嘘をついた?殿下と婚約したミューズ様への妬みか?」
これは妬みによるもので本心ではないと、心象をこれ以上悪くしてはいけないとラドンは娘を誘導しようとしたのだ。
これ以上言い訳しては場が悪化してしまう。
今するのはティタンの気持ちを少しでも鎮め、許してもらうことだ。
「違うわ、真実よ!ミューズ様は本当は醜いのだから!」
育て方を間違えた。
そう、確信する言葉だった。
プライドが高過ぎて、格下だと思っていたミューズに謝る事をしたくなかったのだろう。
大臣という重職に就くラドンが来たことで、カレンは自分の立場を過信したのかもしれない。
「私の娘が醜いなんて誰がそのような事を言ってるのかしら?」
緊迫したホールに響くはあっけらかんとした声だった。
射殺さんばかりの迫力だ。
ティタンの演技に乗るようにポロポロとミューズは涙を流す。
「ごめんなさいティタン、私があなたに相応しくないからこんな事に」
「そんな事はない!俺の為にずっと努力をして支えてくれていた、今日だってどの令嬢よりも美しい…誰が君を醜いだなどと思うだろうか。そこの無礼者以外はな」
第二王子であるティタンに睨みつけられて、カレンはその場から逃げることも出来ない。
「申し訳ありません、侮辱するつもりは…ほら早く謝って!」
ユミルが無理矢理カレンの頭を下げようとする。
「だって私は…」
「いいから!」
カレンは押され崩折れるように膝をついた。
見上げればティタンの腕の中で泣くミューズと目が合う。
ミューズの口元には微かな笑み。
カッと頭に血が上るが、ユミルに抑えられたままだ。
「このままではまずい、今日は各国の来賓もいるんだ。君の父上にも迷惑がかかる」
ひそひそと言われ、グッと飛びかかるのを抑えた。
「申し訳ありません、ティタン様…」
「謝る相手が違うだろ!」
ダンっと足で床を踏み鳴らした。
床を壊さんばかりの勢いにミューズすらも驚く。
(本気で怒っているんだわ)
見上げた顔は見たことない程怒りに満ちていて、目は血走っている。
演技どころではない。
「ミューズ様…申し訳ありません」
目も合わせず、カレンは震える声で告げる。
ミューズは焦る。
ここはまだ本番ではない、断罪したかったのはこの令嬢ではないのだ。
あくまで彼女はついでなのだ。
「ティタン様…これは一体どういう事でしょう」
静かな厳かな声がする。
カレンの父親ラドンのものだ。
「今日は大事な娘の社交界デビューの日、それが何故このような事になってるのかお答え頂いてよろしいかな?」
怒りと戸惑いに満ちた声。
騒ぎのもとがまさか娘とは思っていなかったに違いない。
「お父様!」
弾かれたようにその場から駆け出し、抱き着くとカレンは泣き出した。
「殿下が、ミューズ様に騙されてるから、私は真実を言っただけなのよ。それなのに信じて貰えなくて…」
「どういうことだ?ユミル殿、一体何が」
「えっと…」
どうしたらいいのかと、ユミルはその場に膝をついたままだ。
「…ラドン殿の娘が俺の婚約者を侮辱したのだ」
先程より幾ばくか落ち着いた声になっている。
「ミューズが金で美貌を買って、俺を誑かしたとな。根暗令嬢などと不名誉な呼び名を付け、あまつさえ不細工だと?これが許せるものか!」
ビリビリとした声量がホールに響く。
それだけで聞いていた、気の弱い令嬢は気を失ってしまったようだ。
騎士の訓練を受けるティタンの声は大きい。
(少し、落ち着いて…)
小声でそう言うものの、頭を撫でられて終わってしまった。
「そのような事をカレンが…」
ラドンは表情を極力抑える。
(まずい、そのような事を直接殿下の前で言うとは…!)
噂はあくまで噂だ。
本人のいないところで話すのはどうとでも誤魔化せる。
だが本人に伝えてしまうは明確な侮辱、明らかなる愚策だ。
誰かの口からではない、実の娘カレンが第二王子であるティタンへ言ってしまった。
証人も多い。
申し開きは出来ない。
「カレン何故そのような嘘をついた?殿下と婚約したミューズ様への妬みか?」
これは妬みによるもので本心ではないと、心象をこれ以上悪くしてはいけないとラドンは娘を誘導しようとしたのだ。
これ以上言い訳しては場が悪化してしまう。
今するのはティタンの気持ちを少しでも鎮め、許してもらうことだ。
「違うわ、真実よ!ミューズ様は本当は醜いのだから!」
育て方を間違えた。
そう、確信する言葉だった。
プライドが高過ぎて、格下だと思っていたミューズに謝る事をしたくなかったのだろう。
大臣という重職に就くラドンが来たことで、カレンは自分の立場を過信したのかもしれない。
「私の娘が醜いなんて誰がそのような事を言ってるのかしら?」
緊迫したホールに響くはあっけらかんとした声だった。
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