赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)

しろねこ。

文字の大きさ
20 / 21

番外編:甘えて甘やかされて

しおりを挟む
勤め先にてご飯をご馳走になって、家路につく。

道は暗いけれど、ルドが一緒だし、手も繋いでもらってるから尚更安心だ。

「食事は美味しかったですか?」

「えぇ、とっても!」
至れり尽くせりの夕食をご馳走になり、お腹は満足している。

完全に気持ちが晴れたわけではないが、少しは落ち着いた気がした。

「今回の事件は目撃者もいたので公表されます。なので、しばらく注目を浴びるかもしれませんから、少しの間お出かけは控えめにしましょう」

「えぇー新作スイーツが発売中なのに」
今日食べ損なった事を思い出してしょんぼりしちゃう。

「そんなに食べたかったですか?」

「ミューズ様やマオと食べようと思って買ったんだけど、落としちゃって。勿体なかったなぁ」
食べ物を粗末にしてしまったことに罪悪感を感じる。

「俺が代わりに買ってきますから、少し我慢してくださいね」
優しく青い瞳が見つめてくる。

「うん……」
いっぱい心配してくれているのに、食いしん坊な事を言っちゃって本当に申し訳ない。

「今日は本当にありがとね。助けにきてもらえて、すっごく嬉しかった」
食べ物の話から軌道修正しよう。

嬉しかったのは本当だ。

まさかルドが来てくれるとは思ってなかったから。

転ばないように支えてくれたし、血の場面を見ないようにハンカチ貸してくれたりとか、あんな気遣いと手厚く保護してもらえたのだから、文句はない。

「助けにいくなんて当然です。あなたは俺の妻なのだから。本当にチェルシーが無事でよかった」
家路に着く途中なのだが、ルドがあたしを抱きしめる。

「ちょ、ちょっと…!」
暗いし、遅い時間とはいえ誰に見られるかわからない。

「すみません、つい」
帰るまで我慢できなかったと耳元で囁かれた。

「チェルシーがこうして俺のもとに帰ってきてくれてよかった。会えなくなるんじゃないかと、顔を見るまで不安で仕方なかったです。もう離れないでください」

「あたしも、もう会えないかと思ったわ……」

圧倒的な力で攫われて、抵抗なんてほぼ出来なかった。

殺されてたかもしれない状況に、今更ながら震えちゃう。

「今日は一緒にいてね」
ルドの背中に回した手に力を籠めると、彼の体に力が入るのが感じられた。

「当然離れるわけがありません。では、早く帰りましょう」
少しだけ余裕のない声。

足早にルドに手を引かれる。

「あの、どうしたの?」

「素直に甘えてくれるチェルシーが可愛いから、抑えが利かないだけです」
握られた手に力が込められた。

「それってどういう意味?」
顔を見ようとすると手で隠される。
ちょっとだけ見えた頬が赤い。

「家に着いたら教えます。だから今は見ないでください」

「?」
やがて家に着いた。

甲斐甲斐しい世話を受け、一緒に入浴し、隅々まで洗われる。

「一人で出来るから!」

「ダメです、一緒にいると約束したのですから」
ルドの手は大きい。

なのにとても繊細に動くからなんだかくすぐったい。

丁寧に髪を洗われ、背中も流してもらった。

お礼にとルドの背中を洗ってあげるがその体には大小様々な傷がついている。

いずれも古いもので、今日ついたものはない。

内心ほっとしながらお湯を掛けてあげる。

「ありがとうございます、チェルシー」

「どういたしまして」
濡れた赤い髪が色っぽい。

引き締まった体がかっこよすぎて、自分の体が恥ずかしい。

食べ過ぎてぽっこりしたお腹とか、もう穴があったら入りたい。

「風邪をひきます、温まりましょう」

「うん」
後ろから抱え込まれるようにして一緒に入る。

ごく普通の浴槽だから二人では狭く、一緒に入るなんて滅多にないから、夫婦であっても恥ずかしい。

すぐにのぼせそうだ。

お腹周りに腕を回され、危うく悲鳴を上げそうになった。

こんな夜中に叫んだらご近所迷惑になっちゃうじゃない。

「ルド、お腹はダメ!」
ぽよぽよしてるから出来れば見るのも触るのもつまむのも止めてほしい。

「何故です?可愛らしいのに」
ふにふにと触れられる。

「ルドと違ってぽっちゃりしてるから、恥ずかしいの。もう触らないでよ」
手を止めようとしたら、押さえられてしまった。

もちろん優しくだが。

「ぽっちゃりでもチェルシーはチェルシーです。どんな姿でもきっと可愛らしいですよ」

「言ったわね、スイーツ食べ放題とか行きまくるわよ」
自分の発言に責任をもってもらえるように、とことん大きなってやろうかしら。

「その前にきっと大きくなりますから」
優しくお腹を撫でられた。

「スイーツご馳走してくれるの?」

「もちろんそちらもご馳走しますが、子ども、欲しいなって思って」
唐突な言葉に頭が働かない。

「チェルシーを失うかもしれないと思ったら、余計に子どもが欲しくなったんです……あなたとの繋がりがもっと欲しい」
のぼせる寸前、浴槽から上げられる。


「ちょっと待って、気持ちの準備が……」

「待てません」
有無を言わさぬ迫力に、言葉を飲み込んでしまう。

強く言われた事など初めてかもしれない。

「今夜は離しませんので、そのつもりで」
艶っぽい笑顔。

あたしはずっとルドは淡泊な人だと思っていたのだけど、違うのかも。

その夜はルドにとろけるほどに甘やかされて、あたしはいつの間にか眠りについていた。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです

珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。 その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

処理中です...