ひきこもりぽっちゃり令嬢とウールドール ~人形がつなぐ優しい恋~

しろねこ。

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第1話 ひきこもりの理由

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「お見合い、ですか?」

 久しぶりに王都から帰ってきたお父様との夕食の席で、そのような事を言われ、私は首を傾げてしまう。

 あまりにも唐突過ぎて考えが追い付かない。

(お母様はこの事を知ってらしたのかしら?)

 ちらりと横を見ると、お母様も目を見開き驚いた表情をしている。この話はお母様も知らなかったようだ。

「あなたったら、久しぶりに家に帰ってきたと思ったらそんな話を……エストレアはまだ十歳。お見合いはまだ早いですわ」

 お父様はひと月ほど仕事でいなかったのだけれど、その間に何かそういう話が出たのかしら。
 
「いやいや、早いという事はないだろう。王都や他の国ではこれくらいの年齢で婚約者を持つ者が沢山いる。あまり悠長に構えていると、結婚できなくなるかもしれないぞ」

 お父様は商談で王都や他国の人とお話する機会が多い。それ故の事なのだろうけれど、私とお母様はお父様に振り回されることも多く、こうして辟易してしまうことも。

 今まさにそういう状況なのだけれど、興奮したお父様は私達の戸惑いには気付かないみたい。

「王都に仕事に行ったのだと思ったら、そんな話を持ち帰ってくるなんて……どこの誰に唆されたんですか。こんな可愛いエストレアが結婚するだなんて、私はまだ認めません」

 お父様の意見にお母様は反対のようだ。私の方はまだ事態が飲み込めておらず、何と言っていいのかわからない。

「俺だって、こんな可愛いエストレアがもう結婚してしまうと考えるのは辛い。けれどいつかは結婚するものだし、良い相手とならば早めに決めた方が安心だろ」

 その言い方にお母様は眉をひそめる。

「それは誰か良い相手がいた、という意味ですか?」

「あぁ、うちに婿に来てもいいという令息を見つけたんだ。見た目も悪くないし、商談相手だから、ある程度気心も知れている。それにエストレアと同い年の子だ、話もきっと合うだろう」

 お父様は甚くその相手を気に入ったようで、話が止まらない。

「エストレアはどうだい?」

「えっと、婚約についてはわかりませんが、会ってみたいと思っています」

「エストレアは乗り気なの?」

 お母様の不安そうな言葉に私は首を横に振る。

「そうでもないけど……でも、いつかは誰かと結婚するのなら、話だけは聞いてみたいかなぁって」

 五年後、私は文化交流や社会性を身につける為に王都にある国立学園に通う予定だ。

 けれど知り合いも友人もない中で通うのは少々不安がある。

 この伯爵領からあまり出た事のない私は、同年代の子とお話をしたこともなく、家で過ごすことが多い。だからその前にお父様の推薦する人と会うのは良いことかなと思えた。

(婚約については考えていないけれど、友達になれたら嬉しいな)

「それは良かった、今度お見合いの日を決めるよ。さぁさ、デザートも食べよう。エストレアの為に美味しいものをいっぱい買ってきたぞ」

「こんなに食べられないわ」

 更に大量に盛られたお菓子を見て、困ってしまう。

「エストレアの為に王都で買ってきたんだ、いっぱいお食べ」

 そう言われてしまったら残しづらい。

「いつもありがとう、お父様」

「エストレアが喜ぶなら、何でも買ってくるさ」

 私を思ってくれるその優しさに少しくすぐったさを感じながら、私はお菓子を一口頬張った。

 甘い味と幸せな気持ちが広がっていく。

(お見合いは緊張するけれど、優しいお父様が決めた事だもの、きっとうまくいくわ)

 どんな相手かはわからないけれど、きっと大丈夫。

 そんな期待を持っていたのだけれど、そんな甘い考えは一瞬にして崩れ去った。



 ◇◇◇



 お見合い当日、緊張と期待で胸が痛いほど高鳴っているのを感じながら、相手の方との顔合わせをする。

「初めましてシルバーニュ家のエストレアと申します」

 少し声が上擦ったけれど、何とか声は出せた。

「初めまして、ナイジェル家のビドーです」

 彼は父の友人のナイジェル伯爵の次男だと聞いている。

 ライトブラウンの髪は光の当たり具合で金色にも見え、シュッとしたスタイルと端正な顔立ちはまるで絵本の王子様……とまでは言わないものの、私なんかとは釣り合わないほど素敵だ。

「今日は招いてくれてありがとう、リカオン。俺も息子のビドーも、エストレア嬢に会うのをとても楽しみにしていたよ」

「こちらこそ来てもらえて嬉しいよ、ガーディ。エストレアは自慢の娘なんだ、どうだい可愛いだろう?」

 お父様の発言に頬が熱くなる、そんな風に言われたらまともに顔があげられないじゃない。

 私は恥ずかしさとやるせなさで頬を抑えて俯いた。

「あぁ、可愛らしい。なっ、ビドー」
 ガーディ様の褒め言葉にますます顔が上げられない。

「俺はそうは思いません」

 その声の冷たさに、私の心は冷水を浴びせられたかのようになる。

「とても可愛らしい令嬢とのお見合いと聞いていたのに、こんなデブとなんて……話が違います」
 ぼそりと聞こえてきたその言葉に私は固まってしまった。

(で……ぶ……)

 確かに私は痩せているわけではないし、容姿もけして良いとは言えない。

 けれどまさか面と向かってそう言われるとは想像もしてなくて、あまりの言葉にそのまま固まってしまった。

「大方甘やかされてお菓子ばかり食べていたのでしょう。こんなにもブクブクと太った子と結婚なんて、そんなの家の為とは言え、お断りです」

「何て事を……!!」「ビドー、お前それ本気で言っているのか?!」

 お父様の怒る声と、慌てるのガーディ様の声が聞こえてくる。

 でもそのやり取りがなんだか遠くの方で起きている出来事のようで、段々と言葉が耳に入らなくなってきた。

 自分が美しいとは思っていないし、太っているのはわかっている。けれど、こんな風に言われたのは初めてだ。

「すぐにエストレア嬢に謝るんだ!」

「嫌です、こんな白豚に頭を下げるなんて、ごめんです」

 続く言葉に私は礼も忘れて部屋を飛び出してしまった。

(私って、醜いんだ……)

 その後、どうなったのか正直記憶にない。気づけば朝になっていたから。

 けれど私はこの日を境に人と会うのが怖くなり、自室から出ることが出来なくなってしまった。

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