ひきこもりぽっちゃり令嬢とウールドール ~人形がつなぐ優しい恋~

しろねこ。

文字の大きさ
18 / 27

第17話 誤解

しおりを挟む
(もうシルバーニュ領に帰ろうかな……)

 そんな風に弱気になっていた時、ノックもなく扉が開けられ、イティルラ様が駆け寄ってくる。

「エストレア、遅くなってごめんなさい。もうベリンダ様はお帰りになったので、大丈夫ですわよ」

「イティルラ様……」

「今追い返してやりましたから、もうエストレアに何かするという事はございませんわ。もしも近づいてきたらいつでもわたくし達に話してください、絶対に負けませんから」

 私の事を思ってくれるイティルラ様の笑顔に、ついにぽろぽろと涙が出てしまった。

「エストレア、どうしましたの?!」

 何でもないとは言えず、かと言って妬いてしまったというのも躊躇われた。

「ディフェクト、お父様、一体何をしたのです!」

「ベリンダ嬢との関係を話したんだけど、僕と親しかったのではないかと誤解をさせてしまって……」

「誤解させるなんて、伝え方が悪かったのではないですか? 大体あんな女と親しいなんて、そんな風に思うだけでぞっとしてしまいますわね」

 申し訳なさそうなディフェクト様に被せるように、イティルラ様の叱責が飛ぶ。

「いえ、私が悪いのです……私が身を引けば済む事ですから」

 そう口を挟むけれど、イティルラ様は口を尖らせる。

「エストレアが身を引く? 何故? もしそうならばわたくしがエストレアを娶りますわ。だから泣かないで頂戴」

 イティルラ様が私を抱きしめてくれる。

「どさくさに紛れてなんてことを言うんだ! エストレアは僕の婚約者だ」

「その婚約者をディフェクトは悲しませたんですもの、わたくしが立候補してもよろしいでしょ?」

「それとこれとは話が違う。エストレアは僕の婚約者だ、誰にも譲る気はない!」

(ディフェクト様……)

 ここまで強く言ってくれるなんて、急激に気持ちが落ち着いてきて、申し訳なさが勝ってくる。

(ディフェクト様は私の事を好きと言ってくれていましたよね。それなのに疑ってしまったり、話を聞こうともしなかったり……これではいけないわ)

 イティルラ様から体を離し、ディフェクト様に向き直る。

「ありがとうございます。ディフェクト様にそう言われて、嬉しいですわ」

「エストレア……僕は本当に君が好きなんだ。君意外と結婚するつもりはない。だから、どうか信じてくれ」

 跪き、許しを請うように手を伸ばされる。

「わかりました。でも、お話色々聞かせてくださいね。また不安になってしまいそうなので……お願いします」

 あれだけ手紙のやり取りをしていたのに、まだ知らない事や気になる事があるなんてという、驕りもあったかもと反省する。

 今度はもっと平静を保って話を聞こう。

 それでもディフェクト様の口から他の女性の名前が出るのは嫌だけれど……私は躊躇いつつもその手に触れた。

「エストレアに隠し事はしないよ。安心してくれるなら何でも話すから、何でも聞いてほしい。僕の好きなものや好きな事とかもたくさん。エストレアの事ももっと知りたいな」

「私の事ですか、そんな大したことはありませんよ?」

 そんな事を言うとディフェクト様がホッとした表情をされる。

「よかった、エストレアが笑ってくれた……それだけで僕はもう」

 ディフェクト様が私の手を握ったまま俯いてしまう。

「ディフェクト様、大丈夫ですか?」

「だって、エストレアが僕から離れてしまうんじゃないかって怖くなって……」

「大丈夫です、離れたりしませんから」

 ディフェクト様の肩が小刻みに揺れている、泣いているんじゃないかと心配になったわ。

「あら。わたくしがエストレアを幸せにするつもりだったのに」

「イティルラ様、今はそのような冗談は……」

「わたくしは本気よ。そうね、自分が男じゃないのが恨めしく思うくらいに」

 イティルラ様が自分の体を見下ろしている。

「イティルラ様はそのままで十分に魅力的ですよ? たとえ男性でなくとも」

 イティルラ様は苦笑される。

「そういう事ではないのだけれど、まぁいいわ。それよりベリンダ様のお話だけれど続きがありますの。結論として今後王城の出入り禁止となりましたわ」

「え?」

 あまりの展開の早さに驚いてしまう。

「でも、王妃様と個人的に会う程親しい仲だったのではないですか。それに侯爵家の方だと聞いています。こんな急に出入りを禁止にする事が出来るのですか?」

 私の疑問にイティルラ様が詳細を話してくれる。

「言葉が強くなってしまいましたね。要するに身分が高かろうと宰相の娘だろうと、婚約者のいる男性に近づくなっていう事をお話しただけですわ。お母様が今日部屋に入れたのは、最後の引導を渡す為。もう事前連絡なしに王宮に入れることはないですわ」

「そうなのですね……」

 ではディフェクト様や陛下を責めたのは間違いだったという事よね。自分の浅はかさが恥ずかしくなる。

「あのディフェクト様、陛下、申し訳ありませんでした。私失礼な事を言ってしまって」

「いいんだ、エストレアがわかってくれたならそれでいいよ」

「こちらこそ不安を与えてしまい、すまなかったね。こちらとしてはこれからもディフェクトとイティルラと仲良くしてもらえたら」

「はい、ありがとうございます」

 穏やかな雰囲気に包まれる中、ノックの音が室内に響く。

「エストレアさんはまだいらっしゃるかしら?」

 現れたのは王妃様だわ。

 さすがディフェクト様とイティルラ様のお母様、綺麗な金の髪に長いまつ毛に伏せられた瞳もとても綺麗。

「良かったわまだいてくれて。ごめんなさいね、ベリンダさんへの対応に時間がかかってしまって」

 コホンと一つ咳ばらいをし、王妃様が話し出す。

「私はイリューシカ、ディフェクトとイティルラの母です。これからよろしくね」

「王妃陛下にお会いできて光栄です。私はシルバーニュ伯爵の……」

「そんな他人行儀にしないで。もっとリラックスしてていいのよ」

 こういう所は陛下と同じだわ。

「ディフェクトの婚約者と言えば私の娘になるのだから、遠慮せずにね」

「ありがとう、ございます」

 嬉しさよりもまだ戸惑いが大きい。

「どうかしたの? 私の距離感が近すぎるかしら」

 狼狽する王妃様にイティルラ様がふぅとため息を吐く。

「お母様。エストレアはベリンダ様の事で先程まで不安を感じていたのです。少しずつ近づいてください」

「まぁベリンダさんの事で?」

 ディフェクト様とイティルラ様が今までの話を整理して話してくれる。

「ごめんなさいね、エストレアさんを悲しませてしまって。今後はベリンダさんはここに入れないから安心して遊びに来て欲しいわ」

 優しい言葉にありがたくもあるけれど、気になる事があるわ。

「今まで入れていたのは婚約者候補、だったからですか……?」

 少なからずベリンダ様を気に入っていたからではないのかしら。

「んー……婚約者候補だったから、というのもあるけれど本人が色々と勉強したいから、という事だったわね。こちらも少し甘くしていたのも悪かったと思うわ。でも婚約者の話は三年位前に無くなっていたし、本人も知っていたからそんなつもりはないと思っていたのだけれど」

 結構前に婚約者の話は立ち消えになっていたのね。

「それは母上の前だけ抑えていただけだよ。僕やイティルラの前では、いつか自分が婚約者になるんだとずっと言っていたから」

「そうみたいね……今日ベリンダさんが来た時に話が出たもの。やっぱり自分の方がふさわしいと。自分は勉強をしてきたから、今からディフェクトの婚約者になっても大丈夫だと言われたのよね。その後イティルラの話もあったから、これからは立ち入りを禁じたのだけど。私の見る目がなくて、皆に心配をかけてしまったわね」

 王妃様は眉間に皺を寄せている。

「宰相にも話をしておくわ、今後ベリンダさんに甘い顔はしないと。息子の婚約者であるエストレアさんの方が大切だもの。二人の恩人でもあるし」

 王妃様が私に向かい、頭を下げてくる。

「ありがとう、二人を元気づけてくれて。チェリちゃんのお陰で二人は元気になったんだもの」

「いえ、私は大した事はしていませんので。どうかお顔を上げてください」

「そんな事ないわ。落ち込んでいた二人に笑顔をもたらしてくれたんだもの」

(私は本当に大した事してないのに……)

 あたふたする私から盛大なお腹の音が鳴り響いた。

 皆の視線が一気に集まるけれど、音は止まらない。

「……お腹すいたにゃー、いつまで話してるのにゃ」









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の姉的存在の幼馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜

柿 心刃
恋愛
僕の幼馴染で姉的な存在である西田香奈は、眉目秀麗・品行方正・成績優秀と三拍子揃った女の子だ。彼女は、この辺りじゃ有名な女子校に通っている。僕とは何の接点もないように思える香奈姉ちゃんが、ある日、急に僕に急接近してきた。 僕の名は、周防楓。 女子校とは反対側にある男子校に通う、ごく普通の男子だ。

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました

志熊みゅう
恋愛
 十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。  卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。  マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。  その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。  ――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。  彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。  断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!

乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)

藤原 柚月
恋愛
(週一更新になります。楽しみにしてくださる方々、申し訳ありません。) この物語の主人公、ソフィアは五歳の時にデメトリアス公爵家の養女として迎えられた。 両親の不幸で令嬢になったソフィアは、両親が亡くなった時の記憶と引き替えに前世の記憶を思い出してしまった。 この世界が乙女ゲームの世界だと気付くのに時間がかからなかった。 自分が悪役令嬢と知ったソフィア。 婚約者となるのはアレン・ミットライト王太子殿下。なんとしても婚約破棄、もしくは婚約しないように計画していた矢先、突然の訪問が! 驚いたソフィアは何も考えず、「婚約破棄したい!」と、言ってしまう。 死亡フラグが立ってしまったーー!!?  早速フラグを回収してしまって内心穏やかではいられなかった。 そんなソフィアに殿下から「婚約破棄はしない」と衝撃な言葉が……。 しかも、正式に求婚されてしまう!? これはどういうこと!? ソフィアは混乱しつつもストーリーは進んでいく。 なんとしてても、ゲーム本作の学園入学までには婚約を破棄したい。 攻略対象者ともできるなら関わりたくない。そう思っているのになぜか関わってしまう。 中世ヨーロッパのような世界。だけど、中世ヨーロッパとはわずかに違う。 ファンタジーのふんわりとした世界で、彼女は婚約破棄、そして死亡フラグを回避出来るのか!? ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体などに一切関係ありません。 誤字脱字、感想を受け付けております。 HOT ランキング 4位にランクイン 第1回 一二三書房WEB小説大賞 一次選考通過作品 この作品は、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

思い込み、勘違いも、程々に。

恋愛
※一部タイトルを変えました。 伯爵令嬢フィオーレは、自分がいつか異母妹を虐げた末に片想い相手の公爵令息や父と義母に断罪され、家を追い出される『予知夢』を視る。 現実にならないように、最後の学生生活は彼と異母妹がどれだけお似合いか、理想の恋人同士だと周囲に見られるように行動すると決意。 自身は卒業後、隣国の教会で神官になり、2度と母国に戻らない準備を進めていた。 ――これで皆が幸福になると思い込み、良かれと思って計画し、行動した結果がまさかの事態を引き起こす……

【完結短編】真実の愛を見つけたとして雑な離婚を強行した国王の末路は?

ジャン・幸田
恋愛
真実の愛を見つけたとして政略結婚をした新妻を追い出した国王の末路は、本人以外はハッピーになったかもしれない。

処理中です...