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跡継ぎが逃げたなんて聞いてないのです。
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「う~ん…」
朝日が上る頃、マオはゆっくりと伸びをしてベッドから降りた。
夜は誰より遅く寝て朝は誰よりも早く起きる。
日課の庭の散歩という名の巡視を行い、馴染みの野良猫に餌を与え、撫でさせてもらう。
「ここは僕の家ではないですから、君にお家をあげられないです。いいところ見つけるですよ」
喉の下をこちょこちょ擦るとぐるぐると応えてくれた。
マオは住み込みでここにいるため家がない。
先日主が無事に婚姻を終え、ほっとしているところだ。
マオは穏やかな日々に何気ない日常の幸せを感じて満足していた。
元第二王子、現スフォリア公爵のティタンの従者をしている。
実直で大柄な体格の脳筋主と、ほわほわとした小動物系の小柄で可愛い夫人。
デコボコだが、お似合いな二人だ。
貧民街育ちのマオは幼い頃に兄共々現王太子のエリックに拾われた。
マオは黒髪黒目をしており、それは海を渡ったその先の国の特徴的な容姿だ。
薄茶色の髪をした兄とは似ても似つかない容姿だが、父が違うからとニコラに言われた。
母は娼婦でマオが生まれて少ししてから病気で亡くなった、らしい。
生い立ちについてはニコラからしか聞いてないから、良くはわからない。
しかし唯一の家族である兄がそう云うのならそうなのだろう。
ニコラはお金を払って幼いマオの面倒を、母がいたという娼館に頼んでいた。
その辺りでは大きい所らしく、他に比べるとまだマシだということと、顔見知りだからという理由でお願いしていた。
ご飯は貰えるが、満足に見てもらう事もなく、言葉も教えられない。
たまに娼婦や通い客が暇つぶしくらいにマオに話しかけるくらいだ。
それを聞きとりあえず語尾に、「です」をつければいいのかくらいの認識だった。
呼び捨て、タメ語は絶対にダメだ。
殴られる。
ニコラは多忙だったが、一日一回は必ず来てくれた。
その少しの時間で言葉を教えてくれたのだが、矯正には足りない。
「時間があればとにかく体を動かせ。これを練習しろ」
ニコラに渡されたのは短剣。
初めて持った時は重かった。
兄が暗殺を仕事にしているのを知ったのはその頃だ。
にこやかでおどおどした印象を与えるニコラは、ターゲットに近づきやすい。
また貴族しか持ち得ないと言われる魔法を使えたため、暗殺の失敗はほぼ無いほど優秀だった。
たまに血まみれで帰ってきてたのはそういう事だったのだと気付く。
慣れない頃は怪我したのではないかと大泣きしてしまった。
「魔法が使えるのは秘密だからな。マオは俺の家族だから伝える、大事な妹だ」
それからマオは盗みを教えてもらった。
気配の消し方、人への近づき方、狙っていい者かの目利き。
小柄で猫のようにしなやかな動きを持つマオには容易かった。
ニコラの教えも良かったのだろう。
幾つの時か覚えてないが、ある日ニコラに娼館を出るぞと連れ出された。
「客を取らされるから」
と、ニコラは怒りを顕にしていた。
マオはまだまだ子どもでガリガリ体型であったにも関わらず、そういう話が出てたらしい。
ニコラはみかじめ料も生活費も渡していた。
マオの身の安全の為多めに出していたのに。
娼館の主人はニコラとの約束を反故にしようとしてたらしい。
「今は殺せない……足がつく。だが必ず報いは受けさせるからごめんな」
まだ何もされていないが、ニコラが言うならとコクリと頷く。
それからニコラが見つけた小さな部屋を借りて、ひっそりと暮らした。
女一人では危ないと少年の振りをし、人を殺す手解きも教わる。
最初に手を下したのはそこらのチンピラだった。
絡まれて女とバレたからやむを得ず。
自分より大きい相手だ、当たり前だが上手く立ち回れず死ぬところだった。
ニコラの手助けで実行出来た。
刺す感触に慣れず、吐いて吐いて苦しかった。
回数を重ねるとその感覚も麻痺してきた。
自分の命を守るためには仕方ないのもあったからだ。
「手を出したらいけない奴もいる。見極めが大事だぞ」
そう言っていたニコラだが、ある日失敗したのだ。
普段の彼ならけして手を出さないような相手に手を出した。
急に押し入ってきた者たちに、マオは為す術もなく捕まった。
猿轡までされる。
死ぬのは怖くないが、ニコラに会えなくなるのは嫌だった。
ニコラからこれ以上何かを奪いたくなかったのだ。
連れていかれたその先にいたのは美しい金髪の少年。
だがその瞳は恐ろしく冷えていて、マオですらゾッとする程だ。
「安心してくれ、君を殺すつもりはない。寧ろ俺のために動いてくれるなら良い生活をさせると保証するが、どうだ?」
フルフルと首を横に振ろうとして、止めた。
その返事がどう響くか怖くて伝えられなかった。
「すぐには決められないか……そうだよな。ならば済まないが今解放する事は出来ない。君の兄が来るか来ないかの賭けをしているところなんだ」
兄を知っているのか。
身体を動かすと強く押さえつけられた。
この少年に何かすると思われたらしい。
「レディにあまり酷い事をするなよ」
マオが女だとも知っているようだ。
どこまで調べたのか。
「二十四時間以内にニコラが来ればそちらの勝ち。来なければニコラとマオには俺の手足となって動いてもらう。給金も用意するし、必要な教育も受けさせる。破格の条件だと思うが」
少年はマオを口説いているようだ。
猿轡を外せとアピールした。
「名前くらい、教えて欲しいです」
兄が来たら絶対仕返しすると心に誓い、そう聞いた。
「エリック=ウィズフォードだ」
少年が言ったその名は、別な意味で忘れられないものになった。
結局ニコラは負け、忠誠を誓わされ、契約魔法まで掛けられた。
イヤイヤながらだったが、勉強は楽しく、温かな生活は存外心地良かった。
ティタンというお人好しでちょっと抜けた主に遣わされた後に契約魔法も解かれたが、その頃には逃げる気もなくなっていた。
新たな主は筋肉バカで目が離せないからだ。
妻になった夫人もほわほわとしているので、マオはまだまだ目が離せないなぁと保護者のような気持ちで思っている。
「そろそろ伯爵家に顔を出しますか」
ほぼほぼ帰っていない、マオの養子先だ。
表は従者として。
裏では諜報活動をしている。
なので住み込みの方が仕事をしやすいのもあり、養子先で寝泊まりしたことすらない。
マオとニコラは便宜上レイモンド伯爵の養子になっているが、王族に仕えるための名ばかり貴族だ。
周囲の目線もあるため、貴族籍が必要だったに過ぎない。
跡継ぎがいる家で、王都から近い場所に領地があり、真面目過ぎてお金が少し足りない、そんなお人好しな伯爵なら大丈夫かとマオとニコラはここを養子先として選んだのだ。
もちろんマオとニコラの本当の素性はは秘密にすると、しっかりと契約もさせて。
これまで自由気ままにさせてもらっていたが、ここ数日養子先の伯爵家から話がしたい、顔を出してほしいという手紙が頻繁に届いていた。
一応養子先だからとちょっとだけ顔を出すかと軽い気持ちでいたのだが。
「すまないマオ嬢。伯爵家が無くなりそうだ」
「はぁぁ?」
会ってそうそう、マオの養父にあたるレイモンド伯爵が頭を下げた。
名前を借りる代わりにまとまったお金は支払っていた。
契約上の付き合いで、実家というかただの知り合いレベルだったが、そこまで貧窮していたか?
「何故無くなるのです?跡継ぎのクロス様がいたですよね?」
伯爵家に興味はないし別に無くなってもいいのだが、後ろ盾を失うのは困る。
ここがなくなれば貴族ではなくなるし、今から他のところを探すのも面倒だ。
名だけ借りられれば良かったため、マオもニコラも伯爵を継ぐ気はない。
取り潰しにならないよう年に数回謝礼金も出してたのに。
「クロスは……」
見せられたのは直筆の手紙。
「要約すると、『真実の愛を見つけた。もうここには戻らない』ですか」
呆れた文言だ、思わず天を仰いでしまう。
「わかったです。兄と相談してくるので、しばし待つですよ」
朝日が上る頃、マオはゆっくりと伸びをしてベッドから降りた。
夜は誰より遅く寝て朝は誰よりも早く起きる。
日課の庭の散歩という名の巡視を行い、馴染みの野良猫に餌を与え、撫でさせてもらう。
「ここは僕の家ではないですから、君にお家をあげられないです。いいところ見つけるですよ」
喉の下をこちょこちょ擦るとぐるぐると応えてくれた。
マオは住み込みでここにいるため家がない。
先日主が無事に婚姻を終え、ほっとしているところだ。
マオは穏やかな日々に何気ない日常の幸せを感じて満足していた。
元第二王子、現スフォリア公爵のティタンの従者をしている。
実直で大柄な体格の脳筋主と、ほわほわとした小動物系の小柄で可愛い夫人。
デコボコだが、お似合いな二人だ。
貧民街育ちのマオは幼い頃に兄共々現王太子のエリックに拾われた。
マオは黒髪黒目をしており、それは海を渡ったその先の国の特徴的な容姿だ。
薄茶色の髪をした兄とは似ても似つかない容姿だが、父が違うからとニコラに言われた。
母は娼婦でマオが生まれて少ししてから病気で亡くなった、らしい。
生い立ちについてはニコラからしか聞いてないから、良くはわからない。
しかし唯一の家族である兄がそう云うのならそうなのだろう。
ニコラはお金を払って幼いマオの面倒を、母がいたという娼館に頼んでいた。
その辺りでは大きい所らしく、他に比べるとまだマシだということと、顔見知りだからという理由でお願いしていた。
ご飯は貰えるが、満足に見てもらう事もなく、言葉も教えられない。
たまに娼婦や通い客が暇つぶしくらいにマオに話しかけるくらいだ。
それを聞きとりあえず語尾に、「です」をつければいいのかくらいの認識だった。
呼び捨て、タメ語は絶対にダメだ。
殴られる。
ニコラは多忙だったが、一日一回は必ず来てくれた。
その少しの時間で言葉を教えてくれたのだが、矯正には足りない。
「時間があればとにかく体を動かせ。これを練習しろ」
ニコラに渡されたのは短剣。
初めて持った時は重かった。
兄が暗殺を仕事にしているのを知ったのはその頃だ。
にこやかでおどおどした印象を与えるニコラは、ターゲットに近づきやすい。
また貴族しか持ち得ないと言われる魔法を使えたため、暗殺の失敗はほぼ無いほど優秀だった。
たまに血まみれで帰ってきてたのはそういう事だったのだと気付く。
慣れない頃は怪我したのではないかと大泣きしてしまった。
「魔法が使えるのは秘密だからな。マオは俺の家族だから伝える、大事な妹だ」
それからマオは盗みを教えてもらった。
気配の消し方、人への近づき方、狙っていい者かの目利き。
小柄で猫のようにしなやかな動きを持つマオには容易かった。
ニコラの教えも良かったのだろう。
幾つの時か覚えてないが、ある日ニコラに娼館を出るぞと連れ出された。
「客を取らされるから」
と、ニコラは怒りを顕にしていた。
マオはまだまだ子どもでガリガリ体型であったにも関わらず、そういう話が出てたらしい。
ニコラはみかじめ料も生活費も渡していた。
マオの身の安全の為多めに出していたのに。
娼館の主人はニコラとの約束を反故にしようとしてたらしい。
「今は殺せない……足がつく。だが必ず報いは受けさせるからごめんな」
まだ何もされていないが、ニコラが言うならとコクリと頷く。
それからニコラが見つけた小さな部屋を借りて、ひっそりと暮らした。
女一人では危ないと少年の振りをし、人を殺す手解きも教わる。
最初に手を下したのはそこらのチンピラだった。
絡まれて女とバレたからやむを得ず。
自分より大きい相手だ、当たり前だが上手く立ち回れず死ぬところだった。
ニコラの手助けで実行出来た。
刺す感触に慣れず、吐いて吐いて苦しかった。
回数を重ねるとその感覚も麻痺してきた。
自分の命を守るためには仕方ないのもあったからだ。
「手を出したらいけない奴もいる。見極めが大事だぞ」
そう言っていたニコラだが、ある日失敗したのだ。
普段の彼ならけして手を出さないような相手に手を出した。
急に押し入ってきた者たちに、マオは為す術もなく捕まった。
猿轡までされる。
死ぬのは怖くないが、ニコラに会えなくなるのは嫌だった。
ニコラからこれ以上何かを奪いたくなかったのだ。
連れていかれたその先にいたのは美しい金髪の少年。
だがその瞳は恐ろしく冷えていて、マオですらゾッとする程だ。
「安心してくれ、君を殺すつもりはない。寧ろ俺のために動いてくれるなら良い生活をさせると保証するが、どうだ?」
フルフルと首を横に振ろうとして、止めた。
その返事がどう響くか怖くて伝えられなかった。
「すぐには決められないか……そうだよな。ならば済まないが今解放する事は出来ない。君の兄が来るか来ないかの賭けをしているところなんだ」
兄を知っているのか。
身体を動かすと強く押さえつけられた。
この少年に何かすると思われたらしい。
「レディにあまり酷い事をするなよ」
マオが女だとも知っているようだ。
どこまで調べたのか。
「二十四時間以内にニコラが来ればそちらの勝ち。来なければニコラとマオには俺の手足となって動いてもらう。給金も用意するし、必要な教育も受けさせる。破格の条件だと思うが」
少年はマオを口説いているようだ。
猿轡を外せとアピールした。
「名前くらい、教えて欲しいです」
兄が来たら絶対仕返しすると心に誓い、そう聞いた。
「エリック=ウィズフォードだ」
少年が言ったその名は、別な意味で忘れられないものになった。
結局ニコラは負け、忠誠を誓わされ、契約魔法まで掛けられた。
イヤイヤながらだったが、勉強は楽しく、温かな生活は存外心地良かった。
ティタンというお人好しでちょっと抜けた主に遣わされた後に契約魔法も解かれたが、その頃には逃げる気もなくなっていた。
新たな主は筋肉バカで目が離せないからだ。
妻になった夫人もほわほわとしているので、マオはまだまだ目が離せないなぁと保護者のような気持ちで思っている。
「そろそろ伯爵家に顔を出しますか」
ほぼほぼ帰っていない、マオの養子先だ。
表は従者として。
裏では諜報活動をしている。
なので住み込みの方が仕事をしやすいのもあり、養子先で寝泊まりしたことすらない。
マオとニコラは便宜上レイモンド伯爵の養子になっているが、王族に仕えるための名ばかり貴族だ。
周囲の目線もあるため、貴族籍が必要だったに過ぎない。
跡継ぎがいる家で、王都から近い場所に領地があり、真面目過ぎてお金が少し足りない、そんなお人好しな伯爵なら大丈夫かとマオとニコラはここを養子先として選んだのだ。
もちろんマオとニコラの本当の素性はは秘密にすると、しっかりと契約もさせて。
これまで自由気ままにさせてもらっていたが、ここ数日養子先の伯爵家から話がしたい、顔を出してほしいという手紙が頻繁に届いていた。
一応養子先だからとちょっとだけ顔を出すかと軽い気持ちでいたのだが。
「すまないマオ嬢。伯爵家が無くなりそうだ」
「はぁぁ?」
会ってそうそう、マオの養父にあたるレイモンド伯爵が頭を下げた。
名前を借りる代わりにまとまったお金は支払っていた。
契約上の付き合いで、実家というかただの知り合いレベルだったが、そこまで貧窮していたか?
「何故無くなるのです?跡継ぎのクロス様がいたですよね?」
伯爵家に興味はないし別に無くなってもいいのだが、後ろ盾を失うのは困る。
ここがなくなれば貴族ではなくなるし、今から他のところを探すのも面倒だ。
名だけ借りられれば良かったため、マオもニコラも伯爵を継ぐ気はない。
取り潰しにならないよう年に数回謝礼金も出してたのに。
「クロスは……」
見せられたのは直筆の手紙。
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