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昔の軌跡を辿るです
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「リオン様に見つけられるですかね」
マオはフードで顔を隠し、認識阻害で限りなく自分の存在を消していた。
魔力を外に漏らさない為の魔道具も着け、服装も普段着ないような異国の服だ。
お店も屋台もどこへも寄らないが、食事なんて一日食べなくても平気だ。
気づけば貧民街入口まで来てしまったが、中には入らず踵を返す。
万が一痕跡が残り、リオンが入ったら大変だ。
リオンは剣の扱いが上手くない。
魔法も、魔力はあるが二年前は習得していなかった。
リオンはほぼほぼ語学と勉強に時間を費やしていたからだ。
リオン付きの従者カミュについてマオはあまり知らない。
話したことがそもそも少なく、実力を見る機会もあまり無かったからだ。
だからリオンが貧民街に入ったとしたら、カミュがどれくらい守ってくれるか信用出来なかった。
次に向かうは市場、通い慣れたところだ。
賑わいと人の多さが凄い。
エリックに拾われ、最初にここに来た時は人の多さに辟易した。
うっかり盗みをしないようにするのが大変だった。
今では顔見知りも出来、おまけをされることも多くなった程だ。
良い人が多かった。
不意にマオの横をチェルシーが通り過ぎる。
必死の形相で人を探しているようだが、マオは無言で無表情で見送った。
何でここにいるかわかっているからだ。
(移動するか……)
マオは次なるところに移る。
次に来たのは図書館だ。
ここにリオンを連れてくるのはマオの役目だった。
マオは割と本が好きで、他国の知識を仕入れるためにも休日通うことが多かったからだ。
リオンも勉学のために足繁く通っていたのだが、マオとしては最初はもちろん王宮の図書室を薦めていた。
「市井の図書館に来たほうが市民の様子も見やすいだろ?」
という、理由だった。
マオはあの頃いつも座っていた席に座り、外を見る。
視察も兼ねていたから、通りが見える席がリオンのお気に入りだった。
あの頃のリオンは少年らしく、兄の活躍を自分ごとのように喜んでいた。
その表情に翳りが出たのはいつからだろう。
「しばらく後学のため各諸国をまわります、数年は帰って来ない予定です」
学校生活の途中だった。
突然決め、突然他国へ行った。
エリック達の結婚式には参加しに戻ってきていたが、マオと話すことはほぼないままだった。
国を出るきっかけはなんだったのだろうか……少しだけ考え、席を立つ。
次の所へ行こう。
リオンはティタンの屋敷に来ていた。
「ティタン兄様、ミューズ義姉様、昨日のパーティではあまりお話することが出来ず申し訳ありませんでした。今は急いでおりますので、後日またお詫びに伺いたいと思います」
丁寧に頭を下げる弟の頭をティタンはガシガシと撫でる。
「そんなのいいから急げ。何をすればいいんだ?」
「先程言っていた、マオが残していった物を貸してください。彼女の通信石も欲しいです。他にも愛用していた何かを。不躾ではありますが、ミューズ義姉様に取りに行くのをお願いしたいのですが」
ミューズが急いで取りに行く。
「リオンが選べばいいんじゃないのか?」
「僕やティタン兄様が女性の部屋に許可なく入るのはいけませんので」
使用人もいないので、現在部屋に入れるのはミューズだけだ。
言われた通り、ミューズは通信石と愛用の万年筆を持ってくる。
「ありがとうございます」
愛おしそうにそれらを握り、目を瞑っている。
「必ずマオと二人で挨拶に来ますから」
リオンが屋敷を出ていくためドアに手をかける。
見送りの段階でティタンがようやっと気づいた。
「カミュはどこだ、別行動か? リオンはここに一人で来たのか?」
護衛もつけず、探し回っているのかと心配しているのだ。
「何なら一緒に行くぞ、それか護衛騎士のルドかライカで良ければすぐに呼び出すが」
「大丈夫です、ティタン兄様」
ふわりとリオンの髪が靡いた。
「僕も兄様ほどじゃないですが、強くなりましたので。お気遣いありがとうございます」
マオはフードで顔を隠し、認識阻害で限りなく自分の存在を消していた。
魔力を外に漏らさない為の魔道具も着け、服装も普段着ないような異国の服だ。
お店も屋台もどこへも寄らないが、食事なんて一日食べなくても平気だ。
気づけば貧民街入口まで来てしまったが、中には入らず踵を返す。
万が一痕跡が残り、リオンが入ったら大変だ。
リオンは剣の扱いが上手くない。
魔法も、魔力はあるが二年前は習得していなかった。
リオンはほぼほぼ語学と勉強に時間を費やしていたからだ。
リオン付きの従者カミュについてマオはあまり知らない。
話したことがそもそも少なく、実力を見る機会もあまり無かったからだ。
だからリオンが貧民街に入ったとしたら、カミュがどれくらい守ってくれるか信用出来なかった。
次に向かうは市場、通い慣れたところだ。
賑わいと人の多さが凄い。
エリックに拾われ、最初にここに来た時は人の多さに辟易した。
うっかり盗みをしないようにするのが大変だった。
今では顔見知りも出来、おまけをされることも多くなった程だ。
良い人が多かった。
不意にマオの横をチェルシーが通り過ぎる。
必死の形相で人を探しているようだが、マオは無言で無表情で見送った。
何でここにいるかわかっているからだ。
(移動するか……)
マオは次なるところに移る。
次に来たのは図書館だ。
ここにリオンを連れてくるのはマオの役目だった。
マオは割と本が好きで、他国の知識を仕入れるためにも休日通うことが多かったからだ。
リオンも勉学のために足繁く通っていたのだが、マオとしては最初はもちろん王宮の図書室を薦めていた。
「市井の図書館に来たほうが市民の様子も見やすいだろ?」
という、理由だった。
マオはあの頃いつも座っていた席に座り、外を見る。
視察も兼ねていたから、通りが見える席がリオンのお気に入りだった。
あの頃のリオンは少年らしく、兄の活躍を自分ごとのように喜んでいた。
その表情に翳りが出たのはいつからだろう。
「しばらく後学のため各諸国をまわります、数年は帰って来ない予定です」
学校生活の途中だった。
突然決め、突然他国へ行った。
エリック達の結婚式には参加しに戻ってきていたが、マオと話すことはほぼないままだった。
国を出るきっかけはなんだったのだろうか……少しだけ考え、席を立つ。
次の所へ行こう。
リオンはティタンの屋敷に来ていた。
「ティタン兄様、ミューズ義姉様、昨日のパーティではあまりお話することが出来ず申し訳ありませんでした。今は急いでおりますので、後日またお詫びに伺いたいと思います」
丁寧に頭を下げる弟の頭をティタンはガシガシと撫でる。
「そんなのいいから急げ。何をすればいいんだ?」
「先程言っていた、マオが残していった物を貸してください。彼女の通信石も欲しいです。他にも愛用していた何かを。不躾ではありますが、ミューズ義姉様に取りに行くのをお願いしたいのですが」
ミューズが急いで取りに行く。
「リオンが選べばいいんじゃないのか?」
「僕やティタン兄様が女性の部屋に許可なく入るのはいけませんので」
使用人もいないので、現在部屋に入れるのはミューズだけだ。
言われた通り、ミューズは通信石と愛用の万年筆を持ってくる。
「ありがとうございます」
愛おしそうにそれらを握り、目を瞑っている。
「必ずマオと二人で挨拶に来ますから」
リオンが屋敷を出ていくためドアに手をかける。
見送りの段階でティタンがようやっと気づいた。
「カミュはどこだ、別行動か? リオンはここに一人で来たのか?」
護衛もつけず、探し回っているのかと心配しているのだ。
「何なら一緒に行くぞ、それか護衛騎士のルドかライカで良ければすぐに呼び出すが」
「大丈夫です、ティタン兄様」
ふわりとリオンの髪が靡いた。
「僕も兄様ほどじゃないですが、強くなりましたので。お気遣いありがとうございます」
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