女従者の婚約やら恋やら愛やらその辺り

しろねこ。

文字の大きさ
10 / 12

再会したですが…

しおりを挟む
「どうしても駄目か……」
ベリトの嘆息。

扉のところに気配が集まる。

リオンを捕らえるためか、不穏な気配だ。

どう答えてもリオンをここから出す気はなかったのだろう。

この蝶を譲ったとて、生息地や飼育方法を知らねば長生き出来ない。

短命では売れる価値も少なくなるだろう。

そしてリオンが増やし方を知っていれば希少価値も減る。

リオンを捕らえて蝶の育成や飼育をさせれば効率は良い、そこにリオンの身の安全は含まれてないが。

「まだ早いな…」 
リオンは小さく呟いた。

蝶の感覚からマオとカミュがまだ遠い事を感じる。

馬車の距離を走ってきているから仕方ないが。

こいつらをぶちのめすにしても、マオに見てもらえねば彼女を呼んだ意味がない。

強くなったところを見せねば婚姻相手として認めてもらえないだろう、昔のように庇護者でいるわけにはいかない。

「ベリト侯爵。せめてひと目この蝶を恋人に見せたいのです」
リオンは場を長引かせようと話し始める。

「こちらの蝶は本日恋人へ婚約を申し込む為に見つけたものなのです、つまり僕の一生を左右する大事なもの。ですがひと目見せたら、ベリト侯爵に譲っても構いません。ただでもいいです」
さすがにそれにはビックリしたようだ。

「その代わりお聞きしたい事があります。侯爵は女性を口説く時、どのような言葉をかけますか?」












やがてマオとカミュが着いたのは、近くの街からだいぶ離れた屋敷だ。

「商人の屋敷でしょうか。貴族のではないと思うです」
こんなところの屋敷など記憶にない。

「ただの商人のところに、リオン様が連絡もなく行くとは思えない。ましてやこちらからの連絡にも応じないなんて普通じゃないな」
屋敷から結界のようなものは感じない。

二人は認識阻害の魔法を使用し、忍び込むことを決めた。

屋敷の中はやたら警備の者が多い。

こういう配置はロクでもない事をしていると言っているようなものだ。

(リオン様、拐かされたですか?)

(わざとだろう、知っていて来たはずだ)
小声でのやり取り。

リオンを探していると、攫われたであろう人が監禁されてるのが見えた。

通信石にて警備隊への連絡をお願いしようとし、マオは思い出す。
(すみませんがカミュから誰かに連絡するです、通信石を置いてきてしまったのです)

(……普通置いてこないだろうが。仕方ない)
カミュは一度外へ行くようだ。

ここでは人が多過ぎるため、通信がバレてしまう可能性が高い。

(無事に助け出せよ)

(わかってるです)
分かれたあと慎重にマオは進んでいく。

大体この手の屋敷は作りが似通っている。

リオンが来てからそこまで時間は経ってないと思うし、監禁部屋にはいなかった。

いるとしたら、応接室だろう。

扉の外に五人程の男が見える。

明らかにあやしい。

中の様子を探るように扉に近づいているのだ。

「どう思う? まだ合図はないぞ」

「さぁな。どちらにしろ捕まえるんだから、そろそろだろ。悠長に話をしているな」

「高く売れそうな男だし、ベリト様も機嫌がいいんだろ。好事家には好まれそうな容姿だ」

「虹の蝶なんて珍しいから聞き出してからだろ。どこにいるんだこれ、ここいらじゃいないだろ」

この中か。

マオは集中し、魔力を高めていく。

「邪魔ですよ」
放ったのは周囲の空気を無くすものだ。

マオは風の魔法を得意とする。

空気を操り男たちの周りから音を、呼吸を、熱を奪っていく。

男たちの顔が、赤から白へと移りゆく。

短時間のものなので、死んではないと思うが、酸欠状態により後遺症は残るかもしれない。

「リオン様を売ろうなんて、許しません」
バンっと、音を立て、扉を開けた。

目の前の光景に、マオは怯む。

埋め尽くすほどの蝶の群れ。

幻想的ではあるが、今はリオンの確認が先だ。

「マオ。この場合僕の勝ちでいいかな?」
ソファに座るは間違いなくリオンで、
その対面にいるもう一人は全く知らない者だ。

「誰だお前は?! どうやって入った!」
男は立ち上がり、マオを睨みつける。

「玄関から入ってきたです。それよりそちらの方を返してほしいです。リオン様これは無効です。まだ後日するです」

「僕の蝶に見つかったのだろう? ならば僕の勝ちだ。この子達はどこにいても僕の知りたいものをみつけてくれる、優秀な子達なんだよ」
すっとリオンが手を上げればそちらに集まる。

「僕が呼んでるって知っていて導かれて来たのだろ? 僕の勝ちで良くないかな、ねぇベリト侯爵」
どう思う?と話を振られても、ただただ困惑するだけだ。

「誰かいないか?! 侵入者だ!」
逃げようにもマオが入り口にいる。

ここまで来たならただの女じゃないことはベリトにもわかっていた。

「拐かされたかと心配したです」

「そんな訳ない、僕は王族の義務を果たしてるだけだ」

「王族だと?」
こんな優男が? 共も連れず歩いていた男が?

「そうか、第三王子だな!」
ここ数年、国のために外遊中だという噂を思い出した。

もし本当に本人ならただでは済まないが、ベリトの呼びかけにも誰も来ない。

こうなれば一刻も早くここを離れねば!

「どけぇ!」
ベリトが放ったのは火魔法だ。

出入り口にいるマオを狙う。

直様防御壁を作るが、その前に蝶の大群がマオの前に回り込む。

「僕の恋人に手を出してはいけない」
蝶の壁は火を弾いていた。

もともとリオンの魔力が流れている蝶だから、そこに更に力を流して防御壁代わりにしたのだ。

「マオに見せたから、約束通りこれは侯爵に譲るよ」
蝶たちは今度はベリトに群がった。

むせ返るほどの燐粉に呼吸が出来なくなる。

「うっ」
マオが顔を歪める。

蝶が離れた後に見たベリトの相貌が酷い爛れを起こし変化していた。

「強過ぎる魔力は毒になるんだ、マオに手を出そうとしたんだ。仕方ないよね」
リオンはクスクスと笑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...