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伯爵継いだのです
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屋敷に戻ったマオは皆に泣かれ、短くなった髪にびっくりされた。
「あんなに艶々にしたのに」
とチェルシーにはめちゃくちゃ怒られた。
王宮に行きエリックにも報告すると、一緒に報告を聞いた王妃アナスタシアに、
「婚約式で結い上げるの楽しみにしてたのに! あなたがしっかりマオを見ないから!」
と息子であるリオンが怒られてしまった。
「僕もお揃いに切ろうかな」
というリオンの言葉にも猛反対をして、更に雷が落ちた。
お茶を飲みつつ、自身の短くなった髪に触れる。
貴族令嬢らしくない短髪だが、マオは軽くて気に入った。
「僕が成人したら結婚式を上げるよ、それまでまた伸ばそう」
ヘアスタイルの幅が広がるからと、頭を撫で撫でされた。
慣れてきたものでマオは無言でお茶を飲むばかりだ。
今はレイモンド伯爵の中庭で二人でティータイム。
これからの領地経営の為と経済立て直しをするために、二人はレイモンド家へ移り住んだ。
「孤児院への寄付のため貧窮するなんて、お人好しだな」
「だから多めにお金入れてたのです。まさか嫡男が逃げるとは思ってなかったですが。クロスが戻ってきたら、どうするです?」
「とっくに廃嫡して籍も抹消した。僕がいるから要らないでしょ?」
責務を放り出すくらいだから、戻ってこないよとリオンは言った。
「そう言えばこの前のベリト、なかなかの悪者だった。他国への人身売買も行なっていたみたいだよ」
「悪い男なのです」
辛うじて生きていたが、結局極刑になった。
「だから僕、国に貢献したってことで恩赦がもらえるよ。それがなくともここ公爵家になるから」
「はぁ?」
何だその話は。
「そもそも僕は王家の人間だから降下したら公爵位が貰えるんだ。でも縁故でここ貰っただけだと、領民に認められないだろ? だから犯罪者捕まえたってことで功績認めさせるの」
第三王子が来るなら手放しで大喜びしそうだが。
主に女性からの支持は厚そう。
「レイモンド伯爵から領地を譲り受ける形になるね。嫡男にも逃げられたし、養子としたマオは僕の妻になるし。彼には僕たちが婚姻した後、孤児院の近くに家を借りて手伝いをしてもらう予定だよ。その方がただ隠居するよりも良いって喜んでた。ニコラは王宮に仕える者として領を持たない名ばかり伯爵になってもらうけど、それの方がいいかなって。どう?」
最初からそうするつもりだったのか、途中からそう決まっていたのか、マオにはわからない事だらけだ。
「最初から兄さんを伯爵にし、リオン様が降下してこの土地の領主になれば、僕はいらない婚活をしなくて済んだのでは?」
「そのままでも可愛いけど、磨かれたマオをきちんとお披露目して、僕が懇意にしているって貴族達に知らしめたかったんだよ。余計な横槍入れられたくないし。そしてマオがいるからここに来たんだから、妻にならないなら縁もゆかりも無いここで領主なんてやらないよ」
「出来レースだったのですか……」
「ティタン兄様は純粋に僕の応援をしてくれただけ。エリック兄様から打診が来たから、僕はそれに乗っからせてもらったの。クロス殿が出奔してから計画したみたい」
「あの腹黒王太子……」
養子を貰えだの、領地が欲しい者なら来るだの言ってたくせに、結婚相手の事も、ニコラが伯爵になることもとっくに決めてたとは。
「人生何回か経験してるような人だから。あの兄に何かあったら僕がスペアで立太子する予定だけど、正直やりたくないな」
荷が重過ぎるよ、とぼやいた。
「そうそう、最近カミュの小言が前より多くなってさ。前は静かに付き添ってくれるくらいだったのに、やれ魔法で何でもするなとか、笑顔振り撒きすぎて女性に誤解を与えるだとか。そのくせ僕の好きな物をティータイムに買ってくるし、何か知らないかい?」
「リオン様を『一人の人』として見るようになったですよ。向き合ってほしいです」
あれからカミュは主君として一線置くのではなく、友人のように話すことに決めたらしい。
もちろん節度を保ち、敬意は忘れない。
リオンも満更ではなく、二人の関係もいい方向に変わっていた。
「では俺のマオ。気をつけてお仕事行ってきてね」
頬にキスをされる。
「リオン様も俺って言うですか?」
「兄様達みたいに男らしくなりたいからね、十八を過ぎたら変えたいと思ってるよ」
リオンが十八になったら正式に夫婦になる予定だ。
「何だか似合わない気がします。リオン様の言う可愛い『僕』が聞けなくなるのは寂しいのですが」
「可愛いじゃなく、カッコよくなりたいの。私、でもいいのかな」
柔和なリオンにはそちらの方が似合っていそうだ。
「試しに言ってみてください」
「私の愛しい人、早く帰ってきてね」
仕事場直行の転移陣に乗る前に、リオンはぎゅうっとマオを抱きしめる。
通勤時間すらもどかしく、無理を言ってティタンとリオンの屋敷に転移陣を敷いてもらっていた。
誤作動を起こさないよう、転移陣の部屋には鍵があり、マオしか持たない。
使う魔力はリオンとミューズの物だ。
ミューズもリオンもマオを送る際はハグできる役得を持つ為、喜んでいる。
「はい、行ってくるですよ!」
マオは頬にキスを返した。
屈託のない笑顔だった。
過保護な伴侶と過保護な職場、安定した収入と生活にマオは満足していた。
兄ニコラだけは何もせず伯爵位を継いだ事が許せないので、いつか絶対仕返ししようと思っている。
結婚し、その子の魔力が暴発しちゃって大変なことも、マオの本来の父親の血統のせいで、異国の者が訪ねてなんやかんやがあるなども、また先の話で。
「あんなに艶々にしたのに」
とチェルシーにはめちゃくちゃ怒られた。
王宮に行きエリックにも報告すると、一緒に報告を聞いた王妃アナスタシアに、
「婚約式で結い上げるの楽しみにしてたのに! あなたがしっかりマオを見ないから!」
と息子であるリオンが怒られてしまった。
「僕もお揃いに切ろうかな」
というリオンの言葉にも猛反対をして、更に雷が落ちた。
お茶を飲みつつ、自身の短くなった髪に触れる。
貴族令嬢らしくない短髪だが、マオは軽くて気に入った。
「僕が成人したら結婚式を上げるよ、それまでまた伸ばそう」
ヘアスタイルの幅が広がるからと、頭を撫で撫でされた。
慣れてきたものでマオは無言でお茶を飲むばかりだ。
今はレイモンド伯爵の中庭で二人でティータイム。
これからの領地経営の為と経済立て直しをするために、二人はレイモンド家へ移り住んだ。
「孤児院への寄付のため貧窮するなんて、お人好しだな」
「だから多めにお金入れてたのです。まさか嫡男が逃げるとは思ってなかったですが。クロスが戻ってきたら、どうするです?」
「とっくに廃嫡して籍も抹消した。僕がいるから要らないでしょ?」
責務を放り出すくらいだから、戻ってこないよとリオンは言った。
「そう言えばこの前のベリト、なかなかの悪者だった。他国への人身売買も行なっていたみたいだよ」
「悪い男なのです」
辛うじて生きていたが、結局極刑になった。
「だから僕、国に貢献したってことで恩赦がもらえるよ。それがなくともここ公爵家になるから」
「はぁ?」
何だその話は。
「そもそも僕は王家の人間だから降下したら公爵位が貰えるんだ。でも縁故でここ貰っただけだと、領民に認められないだろ? だから犯罪者捕まえたってことで功績認めさせるの」
第三王子が来るなら手放しで大喜びしそうだが。
主に女性からの支持は厚そう。
「レイモンド伯爵から領地を譲り受ける形になるね。嫡男にも逃げられたし、養子としたマオは僕の妻になるし。彼には僕たちが婚姻した後、孤児院の近くに家を借りて手伝いをしてもらう予定だよ。その方がただ隠居するよりも良いって喜んでた。ニコラは王宮に仕える者として領を持たない名ばかり伯爵になってもらうけど、それの方がいいかなって。どう?」
最初からそうするつもりだったのか、途中からそう決まっていたのか、マオにはわからない事だらけだ。
「最初から兄さんを伯爵にし、リオン様が降下してこの土地の領主になれば、僕はいらない婚活をしなくて済んだのでは?」
「そのままでも可愛いけど、磨かれたマオをきちんとお披露目して、僕が懇意にしているって貴族達に知らしめたかったんだよ。余計な横槍入れられたくないし。そしてマオがいるからここに来たんだから、妻にならないなら縁もゆかりも無いここで領主なんてやらないよ」
「出来レースだったのですか……」
「ティタン兄様は純粋に僕の応援をしてくれただけ。エリック兄様から打診が来たから、僕はそれに乗っからせてもらったの。クロス殿が出奔してから計画したみたい」
「あの腹黒王太子……」
養子を貰えだの、領地が欲しい者なら来るだの言ってたくせに、結婚相手の事も、ニコラが伯爵になることもとっくに決めてたとは。
「人生何回か経験してるような人だから。あの兄に何かあったら僕がスペアで立太子する予定だけど、正直やりたくないな」
荷が重過ぎるよ、とぼやいた。
「そうそう、最近カミュの小言が前より多くなってさ。前は静かに付き添ってくれるくらいだったのに、やれ魔法で何でもするなとか、笑顔振り撒きすぎて女性に誤解を与えるだとか。そのくせ僕の好きな物をティータイムに買ってくるし、何か知らないかい?」
「リオン様を『一人の人』として見るようになったですよ。向き合ってほしいです」
あれからカミュは主君として一線置くのではなく、友人のように話すことに決めたらしい。
もちろん節度を保ち、敬意は忘れない。
リオンも満更ではなく、二人の関係もいい方向に変わっていた。
「では俺のマオ。気をつけてお仕事行ってきてね」
頬にキスをされる。
「リオン様も俺って言うですか?」
「兄様達みたいに男らしくなりたいからね、十八を過ぎたら変えたいと思ってるよ」
リオンが十八になったら正式に夫婦になる予定だ。
「何だか似合わない気がします。リオン様の言う可愛い『僕』が聞けなくなるのは寂しいのですが」
「可愛いじゃなく、カッコよくなりたいの。私、でもいいのかな」
柔和なリオンにはそちらの方が似合っていそうだ。
「試しに言ってみてください」
「私の愛しい人、早く帰ってきてね」
仕事場直行の転移陣に乗る前に、リオンはぎゅうっとマオを抱きしめる。
通勤時間すらもどかしく、無理を言ってティタンとリオンの屋敷に転移陣を敷いてもらっていた。
誤作動を起こさないよう、転移陣の部屋には鍵があり、マオしか持たない。
使う魔力はリオンとミューズの物だ。
ミューズもリオンもマオを送る際はハグできる役得を持つ為、喜んでいる。
「はい、行ってくるですよ!」
マオは頬にキスを返した。
屈託のない笑顔だった。
過保護な伴侶と過保護な職場、安定した収入と生活にマオは満足していた。
兄ニコラだけは何もせず伯爵位を継いだ事が許せないので、いつか絶対仕返ししようと思っている。
結婚し、その子の魔力が暴発しちゃって大変なことも、マオの本来の父親の血統のせいで、異国の者が訪ねてなんやかんやがあるなども、また先の話で。
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