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2.さらなる出会い
召喚魔術から爆誕
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「それでは、お嬢様。今日は召喚魔術についてです」
召喚魔術、私からすればいかにもオカルトというか、黒魔術を思い起こさせる言葉だ。
「召喚魔術では、下級精霊から高等精霊まではある程度、術式は決まっています。ただ、特例もあり、特例に相当する者は悪魔と呼ばれ、その全貌はまだ詳しく研究されておりません」
この本に基本の術式は載せられているのです、と言いつつ、先生は分厚い本を掲げる。それは図鑑か?と思うほど厚みのある本だ。もっとコンパクトにまとめればいいのに。
「今から私が実際に喚び出しますので、よく見ておいて下さい」
そう言うと、先生は杖を手に持ち、杖が発する光で魔法陣を描いていく。青光りと共に円からはぶわりと風が巻き起こる。おぉ、よく分からないけど、綺麗だ。
その風が止んだ時、円の中心には小さな精霊が佇んでいた。これは、本でも見たことがある。花の精だ。桃色のドレスに小さな身を包んだ妖精はにこりと微笑む。妖精が手を広げると、宙から花びらが舞い落ちる。
「先生、可愛いものをありがとうございます」
目の保養でした。花の精と先生は軽く挨拶した後、花の精はまた円の中へと消えていく。私も可愛い子を召喚したい。このストレス社会での癒しが欲しい。
先生が差し出した本を参考に、その欲望を現実にすべく魔法陣を描く。ええっと、確かこうして、こうだ。
「あっ!?」
途中で先生が焦ったような声を上げる。え、私、間違った?まずい、こういう時間違ったら変なのが出てくるんじゃ…。
青紫色の光がバチバチと激しい音をたて足元から生じ、地響きのような不気味な低音が辺りに響く。さながら、魔王降臨か?そんな馬鹿な。
「…妾を喚ぶ者は、そこの娘かえ?」
魔法陣から腕が伸びてくる。怖い、何だこれホラーか。なまじ、血の気のない真っ白な腕なもので恐怖が増す。「わらわ」って女だよ、やばい幽霊の人呼んでしまった?…先生、これは一体何でしょうか!
「我が名はセパル、魔界の大いなる公爵じゃ。して、娘。そなたの名を申せ」
魔法陣から現れたのは、美しい人魚だった。その身体は宙に浮いている。艶のある漆黒の髪で胸元を覆い、下半身はいわずもがなである。紫色の禍々しい瞳がこちらに向けられる。
「…クリスティーヌ・ウォレス、公爵令嬢です」
セパルの目がこちらを食い入るように見つめる。あの、ちょっと、そこまで見ないで欲しい。まるで何もかも見透かすような瞳を細め、セパルは一つ頷く。
「ふむ、そなたの魂は面白いのう。他の人間と違って複雑に絡む茨の蔓のようじゃな」
ぎくっ。それは、恐らく私が転生前の記憶を持っているからだ。ほんとに、悪魔って魂見えるんだ。あ、この流れ、魂をくれぬかえ?とか聞いてくるのではないだろうか…。内心ビクビクしていると、セパルが私の頬へ手を伸ばす。
「ふふ、可愛い稚児のような頬じゃ。そういえば、そなたも公爵とな?妾とお揃いよの」
セパルが赤子の頬を撫でるかのように、私の頬を撫でる。あの、冷たいです手が…。そして、すみませんが、私自体が公爵じゃないです。娘なだけです。
正直にそれを口にすると、セパルは一瞬考える素振りを見せたが、「妾には同じにしか聞こえぬ」と言う。さ、さすがである。人間の細かいことなど知らぬわということらしい。
「あの、セパル様は人魚なのですね、とてもお美しいです」
妖艶な美貌にスタイルの良さ、完璧過ぎるだろう。これが人外の美しさか。失礼を承知でガン見する。
「確かに妾は人魚の姿じゃが、本性は悪魔ぞ」
悪魔…。
普通の令嬢が悪魔喚ぶだろうか?今の私、どっから見ても悪役令嬢じゃないの。悪魔を喚んで、わたくしの下僕になりなさい!といったイメージが頭をよぎる。…自分で想像して、ダメージを受けた。そんな自分、嫌だ。
「妾はそなたを気に入ったぞ。セパルと気軽に呼ぶがよい。ではな、クリスティーヌ。………おや、良い香りじゃな…」
実に晴れやかなお顔で、セパルはそう告げ魔法陣の中へ戻る。去り際にチラリとクリスティーヌ達の後ろに視線を向け、何かを口にしたようだがはっきりとは聞こえなかった。
何というか、こちらの返答を気にもせず、さっさと帰るあたりから、性格が分かるというものだ。
…………悪魔を喚ぶ令嬢。駄目だこれ、破滅を招くわ。幸い、この場にいたのは私と先生だけである。
「先生、どうかセパルのことはご内密にお願い致します。もし、他言しようものなら…分かりますね?勿論、先生がそのようなことをする方ではないと信じておりますが…」
後ろで事態を見守っていた先生の元へ、据わった目で頼む。すると、先生はガクガクと首を縦に振る。よし、分かってくれたようだ。
全く、とんでもないことになってしまった。召喚魔術は一応成功したのだろうが、意図せずして悪魔を喚ぶとは。この身体が呪われているんじゃないだろうか、いずれ悪役になるべく。
…冗談ではない。悪魔を喚んだことは秘密にしておけば、まだ何とかなる。それに、セパルは文献に容姿が詳しく書かれてはいないはずだ。先生の最初の説明が本当ならば、まだ大丈夫だろう。
癒しどころか、ストレスの種がまた一つ増えた。
クリスティーヌ・ウォレス、前世から通算しての初召喚は、まさかの悪魔でしたーー。
召喚魔術、私からすればいかにもオカルトというか、黒魔術を思い起こさせる言葉だ。
「召喚魔術では、下級精霊から高等精霊まではある程度、術式は決まっています。ただ、特例もあり、特例に相当する者は悪魔と呼ばれ、その全貌はまだ詳しく研究されておりません」
この本に基本の術式は載せられているのです、と言いつつ、先生は分厚い本を掲げる。それは図鑑か?と思うほど厚みのある本だ。もっとコンパクトにまとめればいいのに。
「今から私が実際に喚び出しますので、よく見ておいて下さい」
そう言うと、先生は杖を手に持ち、杖が発する光で魔法陣を描いていく。青光りと共に円からはぶわりと風が巻き起こる。おぉ、よく分からないけど、綺麗だ。
その風が止んだ時、円の中心には小さな精霊が佇んでいた。これは、本でも見たことがある。花の精だ。桃色のドレスに小さな身を包んだ妖精はにこりと微笑む。妖精が手を広げると、宙から花びらが舞い落ちる。
「先生、可愛いものをありがとうございます」
目の保養でした。花の精と先生は軽く挨拶した後、花の精はまた円の中へと消えていく。私も可愛い子を召喚したい。このストレス社会での癒しが欲しい。
先生が差し出した本を参考に、その欲望を現実にすべく魔法陣を描く。ええっと、確かこうして、こうだ。
「あっ!?」
途中で先生が焦ったような声を上げる。え、私、間違った?まずい、こういう時間違ったら変なのが出てくるんじゃ…。
青紫色の光がバチバチと激しい音をたて足元から生じ、地響きのような不気味な低音が辺りに響く。さながら、魔王降臨か?そんな馬鹿な。
「…妾を喚ぶ者は、そこの娘かえ?」
魔法陣から腕が伸びてくる。怖い、何だこれホラーか。なまじ、血の気のない真っ白な腕なもので恐怖が増す。「わらわ」って女だよ、やばい幽霊の人呼んでしまった?…先生、これは一体何でしょうか!
「我が名はセパル、魔界の大いなる公爵じゃ。して、娘。そなたの名を申せ」
魔法陣から現れたのは、美しい人魚だった。その身体は宙に浮いている。艶のある漆黒の髪で胸元を覆い、下半身はいわずもがなである。紫色の禍々しい瞳がこちらに向けられる。
「…クリスティーヌ・ウォレス、公爵令嬢です」
セパルの目がこちらを食い入るように見つめる。あの、ちょっと、そこまで見ないで欲しい。まるで何もかも見透かすような瞳を細め、セパルは一つ頷く。
「ふむ、そなたの魂は面白いのう。他の人間と違って複雑に絡む茨の蔓のようじゃな」
ぎくっ。それは、恐らく私が転生前の記憶を持っているからだ。ほんとに、悪魔って魂見えるんだ。あ、この流れ、魂をくれぬかえ?とか聞いてくるのではないだろうか…。内心ビクビクしていると、セパルが私の頬へ手を伸ばす。
「ふふ、可愛い稚児のような頬じゃ。そういえば、そなたも公爵とな?妾とお揃いよの」
セパルが赤子の頬を撫でるかのように、私の頬を撫でる。あの、冷たいです手が…。そして、すみませんが、私自体が公爵じゃないです。娘なだけです。
正直にそれを口にすると、セパルは一瞬考える素振りを見せたが、「妾には同じにしか聞こえぬ」と言う。さ、さすがである。人間の細かいことなど知らぬわということらしい。
「あの、セパル様は人魚なのですね、とてもお美しいです」
妖艶な美貌にスタイルの良さ、完璧過ぎるだろう。これが人外の美しさか。失礼を承知でガン見する。
「確かに妾は人魚の姿じゃが、本性は悪魔ぞ」
悪魔…。
普通の令嬢が悪魔喚ぶだろうか?今の私、どっから見ても悪役令嬢じゃないの。悪魔を喚んで、わたくしの下僕になりなさい!といったイメージが頭をよぎる。…自分で想像して、ダメージを受けた。そんな自分、嫌だ。
「妾はそなたを気に入ったぞ。セパルと気軽に呼ぶがよい。ではな、クリスティーヌ。………おや、良い香りじゃな…」
実に晴れやかなお顔で、セパルはそう告げ魔法陣の中へ戻る。去り際にチラリとクリスティーヌ達の後ろに視線を向け、何かを口にしたようだがはっきりとは聞こえなかった。
何というか、こちらの返答を気にもせず、さっさと帰るあたりから、性格が分かるというものだ。
…………悪魔を喚ぶ令嬢。駄目だこれ、破滅を招くわ。幸い、この場にいたのは私と先生だけである。
「先生、どうかセパルのことはご内密にお願い致します。もし、他言しようものなら…分かりますね?勿論、先生がそのようなことをする方ではないと信じておりますが…」
後ろで事態を見守っていた先生の元へ、据わった目で頼む。すると、先生はガクガクと首を縦に振る。よし、分かってくれたようだ。
全く、とんでもないことになってしまった。召喚魔術は一応成功したのだろうが、意図せずして悪魔を喚ぶとは。この身体が呪われているんじゃないだろうか、いずれ悪役になるべく。
…冗談ではない。悪魔を喚んだことは秘密にしておけば、まだ何とかなる。それに、セパルは文献に容姿が詳しく書かれてはいないはずだ。先生の最初の説明が本当ならば、まだ大丈夫だろう。
癒しどころか、ストレスの種がまた一つ増えた。
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