絶対零度の悪役令嬢

コトイアオイ

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6.中間試験も忘れずに

衝突

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 中間試験の結果が出て三日目の昼、それは起こった。


一年のクラス前の廊下がやけに騒がしいと思えば、そこに立っていたのはエリザベスとマリンだった。


混ぜるな危険!な組み合わせだなと思っていたら、案の定二人は何事かで揉め始めた。


「何ですって!?もう一度言ってご覧なさい」


「えー、だからぁ、エリザベス様いっぱい勉強したのに残念でしたねーって」


うわ、マリン…。それはない。あれで素なのか?恐ろしい子だ。煽っているようにしか聞こえない。これは、エリザベスが怒るのも仕方がない。正面から侮辱されているようなものだ。


「それにぃ、打倒クリス様!でしたっけ、普通に考えて無理だと思いまぁす!」


ビシッと腕でバツを表現したマリンは、何の悪気もない顔で言った。しかし、それは今のエリザベスには地雷というもの。エリザベスは元々つり上がっている目を、怒りのあまりさらにつり上げた。


「この薄汚い庶民が…!クリスティーヌも私のことを馬鹿にして…!」



 ここで、まさかの飛び火!



まぁ、確かに、この前意地悪いこと言ったもんな…。


それにしても…そろそろ人も増えてきたし、どうにかしないと。だけど、今私が出ていったところで、エリザベスの怒りを助長させるだけだろう。困った…これは一体どう収めるべきか。



「…うるさいんだけど。ここはいつから動物園になったんだろうね?」



ジャック!!救世主…か…?さり気なく酷いこと言ったぞこいつ。動物園て、お前ら人間以下だって言いたいの?


教室から本を片手に廊下へ出てきたジャックは、空いた手で耳を押さえている。


ジャックの登場に、当事者達は口をつぐんだ。イケメンの前では良い女を演出したいんだろう。


静かになった二人をチラリと見て、ジャックは教室へ引き返す。


「あぁ、そうだ…。クリスティーヌはライバルだから。君らには勿体ないよ」


………え。


いや、ちょっと、いきなりそういう発言は控えてもらえないだろうか。心臓に悪い。これ、漫画なら確実にドキンッ…!って効果音流れてるでしょ。


涼しい顔をして教室へ戻るジャックを引き止める者は誰もいなかった。


ーーー


 騒動のあった夜、それも闇の深まった深夜零時を過ぎた頃、エリザベスは寮の自室のベッドに横になっていた。それは本当に横になっていただけで、天井をぼんやり見て、エリザベスは考えに耽っていた。エリザベスはその日の昼、庶民に侮辱されたことを思い出して眠れなかったのである。


 あの後、ジャック様の登場によって騒動は収まったけど、私の心は荒れたままだった…。

そのような状態でも、午後の授業を真面目に受けたのは半ば意地のようなものだった。庶民の言葉を受けた直後は怒りを見せてしまったが、いつまでも引きずるみっともない姿を晒す訳にはいかなかったからだ。


そして、授業が終わるとすぐに私は寮へ引き返した。誰とも話をしたくなくて、自然と早足で寮へ向かった。


私は自室に着くやいなや、部屋に付属のお風呂に入り、気持ちをリフレッシュしようとした。しかし、いつもはさっぱりするはずの入浴も、今の私には何ももたらしてはくれなかった。


 ご飯を食べる気も起きず、ベッドに潜り込む。何も見たくない、聞きたくないとばかりに頭から布団を被った。それから、グルグルと昼間のことを考えていたら、あっという間に時間は過ぎていった。ところが、精神的にかなり疲労したはずなのに、眠気は一向に訪れなかった。


 そうして先程、ついに今日を終える時計の針の音が微かに耳に届いたところだ。今はもう深夜一時になっているかもしれない。それほど、長い時間考えて私は一つの結論に至った。


…これ以上、クリスティーヌに遅れを取るわけにはいかない…。


この数時間で強く思うことは、それだった。この際、庶民の無礼は置いておく。


ただでさえ彼女は、努力など知らないという涼しい顔をして、私の先を行くのだ。そして、そんな彼女を皆が尊敬の目で見つめる。私が婚約者になるはずだったダレン殿下を始めとして、彼の親友であるフレッドや名門伯爵家のジャックまでも。


かつては、殿下に相応しいのは自分だと疑う余地も無かった。だけど、今は?本当に私が殿下の横に立つ女性と言えるかしら。

自分でも疑問を覚えるのだ、周りの評価など聞かなくても分かる。むしろ、クリスティーヌと比べられては、あちらが上だと言われる始末だ。


「…何よ、あの子ばっかり…」


 持て余した感情を抑えるために、布団を強く握り締める。柔らかな布団はすぐにぐしゃりと潰れて皺が寄る。それと同時に目を閉じると、令嬢達のざわめきが聞こえてくる気がした。



「エリザベス様も凄いけれど、やっぱりクリス様には及ばないわよね」



そのざわめきは、かつてのパーティーで、私がいない時に令嬢達が話していた内容だった。私が柱の裏にいるとも気付かず、少女達は談笑していた。その会話を最後まで聞いていられず、静かに立ち去った時の悔しさは今でも忘れられない。私は彼女に及ばない…。彼女が私から奪って行く。好きな人も、成績も、何もかも。


私はいつも一生懸命努力しているのに、何故敵わないの?


いっそ、彼女なんてーーー。



『死んでしまえば良いのに?』



 突如頭に響いた声に、びくりと目を開けた。自分の泣き言を誰かに聞かれたかと思って慌てるが、周囲には人の気配は一切感じられなかった。そもそも、ここは寮の部屋で私しかいないはず。時刻ももう零時を回っていて、とても誰かが訪問に来る時間帯ではない。


…でも、さっきの声の言ったことを私は強く否定できなかった。

だって不公平だもの…。彼女が居なければ私は…こんなに惨めな気持ちになんてならなかった…!お金も地位もあるのに、私は何も満たされていない…。


空耳かと思われる声に誘導されるようにして、私は心で叫ぶように溜め込んでいた想いを吐き出す。心で訴えたその想いを聞き取ったのか、声はさらに私に語りかける。


『…ならば、願え…その血をもって…』


謎の声の囁きを最後に、私は意識を失った。
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