絶対零度の悪役令嬢

コトイアオイ

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6.中間試験も忘れずに

前世の夢

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 騒動の日の夜、クリスティーヌは夢を見た。それは、この世界ではなく、前世の頃を思わせるような夢だった。


「…ごめんなさい…ごめんなさい…」


スーツ姿の女性が夜道を歩いている。女性はひたすら謝り続けていた。街頭の明かりが朧気に女性を照らすものの、その光は頼りなさげに揺れているようにも見える。

女性の目線は斜め下を向き、前をしっかりと見ていない。女性の足が横断歩道に差し掛かったその時、車のライトが女性を浮かび上がらせる。急ブレーキを踏む音が聞こえないのか、車が迫っているにも関わらず、女性の顔は下を向いたままで、車の存在に気付かない。


『危ない…!』


女性に向かって叫ぶと、その声に合わせて女性は顔を上げる。


その顔は、前世の私の顔だった。


私が驚いていると、女性の身体は車に吹っ飛ばされる。その瞬間、とてつもない衝撃が私の身体に走る。痛いとか、苦しいとか言葉にならない衝撃が私の全身を襲う。


『……!!』



あまりの痛みにこれ以上耐えられない、そう感じた時、私は目を覚ました。




…目を覚ました途端、目の前が豊かな胸に塞がれていた。セパルは普段、長い髪で胸元を隠しているだけなので、髪を背に流した今は丸見えである。ホラー的な感じでの登場も嫌だけど、これはこれで何か…嫌だ。


ちょっと、何しているの。


セパルにそう突っ込む気力も湧かず、首を軽く傾けてもう一度目を閉じようとした。しかし、セパルはそれを許さず、私の額に手を乗せる。セパルの手は人間よりも冷たくて、汗ばんだ私にはとても気持ちが良い。その冷たさに少し気持ちが落ち着いた。


「やっと起きたか。全く、妾が何度呼びかけたと思うておる」



セパルの話によると、どうやら、悪夢にうなされていた私を起こそうとしていたらしい。しかし、全く起きる気配を見せなかったので、無理に起こすのを止め、布団を被せようとしたと。もっと言うなら、位置的には私の頭の真後ろにセパルはいた。私が震えていたため、蹴飛ばされた布団を首元あたりまで引き上げようとしたそうだ。

つまり、私の足元に追いやられた布団を掴むため、前のめりに身を乗り出していたという。そうして、さっきの「目の前にドーン!」に繋がったようだ。好意による行動だったと知り、心の中でセパルに謝った。ただ、私の枕元から足元の布団を引き上げるのに、その行動はどうだろう。腕が布団に届かないんじゃ…?


…深く考えるのは止めよう。とにかく、セパルは私の為に動いていた、それに感謝するだけにしておこう。



布団は…恐らく夢の中で痛みに苦しんでいた際、無意識に蹴飛ばしたのだろう。



嫌な汗をかいている私をセパルは険しい顔で見つめ、ぽつりと尋ねる。


「…そなた、何を見た?」


「…え?」


唐突なセパルの問いに、つい返事が遅れる。まだぼんやりとしている私を見て、セパルは肩に垂れてきた黒髪をじれったそうにかき上げた。


「何の夢を見たのか、と聞いておるのじゃ」


「ゆ、め…?夢…あぁ、女性が…いや、前世の私が死ぬ瞬間を…」


自分で言って、なかなか酷い夢だったと改めて思う。死の追体験など、誰も嬉しくない。最悪な夢だ。冷静に夢を振り返っていると、少しずつ頭の整理が追いついてきた。


私の答えにセパルは、私の額から手を少し離して考え込む。私の夢がどうかしたのか?


「…不穏な気を感じたのじゃが…。そなたの夢に悪いものが引きずられたのかの…?それにしては何か違ったような…」


納得のいかない顔で、セパルはそう話す。


ようやく頭が冷えて脳が働き始めた私からしたら、その違和感が気になって仕方がない。


それに、以前セパルはウォークラリーの時に、懸念を話していたではないか。


悪魔か何かが、結界の力を弱めているのではないかと。


もし、セパルの感じたものがその侵入者だったらーー?


セパルも同じことを考えているのか、難しい顔をしている。


 テストを終えた今、前期は残すところあと数日だ。その数日が過ぎれば魔法学園は夏休みに入る。

そのため、学園の寮で暮らす学生達は、実家に帰ったり、遊びに行ったりするだろう。私も帰省するつもりだから、一時学園からは離れることになる。


その間に何とか対策をしたいところである。だけど、具体的にどうすればいいか見当もつかないのが現状だ。そして、せっかくの夏休みなので私も少しは遊びたい。


私が夏休みの誘惑に揺れていると、セパルがいきなり声を上げた。


「そうじゃ!名案を思いついたぞ」


「名案とは…?」


「妾の友に相談をしようと思うてな!」


 …セパルは、「道がないなら作ってしまえ!」といったノリで、そこはかとなく漂う脳筋臭…。確かに、セパルとは違う意見も聞きたいところだ。


取り敢えずはあともう数日じゃ!と言いながら、セパルはベッドから離れていく。細かいことを教えろよと思って、セパルの背を見ていて私は気付いた。


そういえば今、何時?



ベッドの脇の小さなテーブルにバッと手を伸ばす。掴んだ時計はまだ午前1時だった。いくらなんでもこれは早過ぎる。ここでもう一眠りしなければ、確実に授業中にカクカクしてしまう。公爵令嬢のそんな姿…駄目だ。自ら汚点を作ってどうする。それに、睡眠不足は美容の大敵、やはり眠るべきだ。


しかし、その前に軽く汗を拭いておこう。


そこで、立ち上がってタオルを取りに行き、その場で簡単に汗を拭き取る。その後、タオルを洗濯カゴに入れ、水を少し飲む。起きたら朝シャン、そう心に決めて私はまた眠りについた。

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