絶対零度の悪役令嬢

コトイアオイ

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6.中間試験も忘れずに

夏休みの計画

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 あの悪夢を見た後、私は目覚ましの音で目を覚ました。今度はぐっすり眠れたようで、ベッドの上で大きく伸びをする。ぐぐっと腕や足を伸して、完全に眠りから覚めた私はその日の準備に取りかかった。


まずは、朝シャンの誓いを有言実行する。その後に顔を洗って、簡単に身なりを整えた。

 この寮は学園のすぐ側に立っていて、よっぽど寝坊しない限りは余裕で準備ができる。

余裕といっても、貴族の令嬢にとってはかなりギリギリらしいが。何せ、今まで侍女に任せきりだった身支度を自分で済ませなくてはならないからだ。


その点、私は前世の記憶や習慣があって助かった。むしろ、自分の準備くらい何故自分でしないのかと常々思っていたくらいだ。


サクサクと準備を終えた私は、1階にある寮の食堂へ向かうため、一旦部屋を出る。


また、私の部屋は3階なので、運動がてら階段を使う。これは私の日課のようなものだが、途中で庶民の生徒に会うといつもびくりと驚かれる。驚かせるつもりはないが、令嬢となるとエレベーターを使うのが当たり前で階段は滅多に使わないらしい。


 部屋というと、私の部屋の近くは庶民から貴族まで多様な構成となっている。これは私に限ったことではない。

身分制度は根強くあるが、少しでも緩和させようと学園側も考えた結果らしい。寮は左右に男子寮、女子寮の棟と分かれつつも、その中では様々な身分がごちゃまぜになっている。

現に、私の両隣の部屋は農家の少女と商家の少女だ。初めは、恐縮されて挨拶だけしか交わせなかったが、最近は授業の話も少しはできるようになった。しかし、依然として友人未満ではある。実際は、学園側の思惑通りとはいかないようだ。


ちなみに、エレベーターは浮遊魔法を使って動かしているのだとか。ちょくちょく馴染み深いものは存在するが、やはり魔法の世界。動力は必ず魔法なのだ。



 リズム良く階段を降りていき、食堂に着く。

そこで焼き立てのクロワッサンとサラダ、コーンポタージュをいただく。朝はクロワッサン、そう決めているのでメニューに悩むことは無い。この食堂ではバイキング形式も選ぶことが出来るが、私は朝のセットメニューにしている。

何故って、朝から食べすぎないようにという苦渋の判断だ。毎朝バイキングなんか、肥満の元よ…。風の噂では、この学園に来て体重が増えたという生徒の話をよく聞く。何せ、寮の食堂は、そのほとんどが無料だから。それは、この学園のOB・OGのお偉方様が、毎年多大な寄付を行っているおかげだ。

その恩恵は有難いが…厳重な注意が必要だと私は思った。肥満は女子の敵だ。この世界でのドレス生活を舐めてはいけない。

パーティの時なんて特に、死活問題である。私は息を止めにかかるコルセットに、未だ慣れない。あれは、きつい。いつなん時であっても、ウエストをこれでもかとばかりに締め上げるアイツは恐ろしい。それが太りなぞしたら…。死因がコルセットとか絶対嫌だ。


 過食の恐怖を振り払い、美味しいご飯を黙々と食べることに集中する。食後は、また部屋へ戻って、歯磨きをしたり必要な教材をチェックしたりした。


 そうして、てきぱきと朝の支度を終えた私は教室へ向かった。しかし、早い人は私よりも早く、既に教室内はがやがやと盛り上がっていた。


 もうじき、大型連休である夏休みがやって来る。学生達の興味は試験から、夏休みの計画に移っていた。


「あと1週間くらいで夏休みだー!」



「俺、家帰ったら手伝い決定だ…」



「私の家来ない?一緒にバーベキューしようよ」



最近の朝や昼休み、暇さえあれば学生達はそれぞれの予定を話し合っていた。


私はというと、それを聞くだけで、輪に入ろうとはしない。私の周りは色々と個性が強いので、そちらの対応で手一杯だ。なるべく平和な夏休みを送りたいと思っていたからだ。けれど、それはあっけなく打ち砕かれた。



 その日の夕方、このクラスに殿下とフレッドがやって来て、「夏休み、遊ばないか」と誘ってきたのだ。



反射的に「謹んで…お断り…」と言いかけたが、クラスの注目が集まる中、仮にも殿下の婚約者が彼の誘いを断るのはまずいと思い直した。



「…謹んでお受け致しますわ」



まぁ、夏休み中ずっと会うわけではない。たった数日程度だろう。これは婚約者の義務であって仕事のようなもの。嫌な取引先の相手とだって会わなければ行けない時はある。…あまり、殿下達の機嫌を損ねて没落に繋がるのも嫌だし。


適度に付き合って、ふわっと穏便に別れたい。


世の恋する乙女が聞いたら、凶器を持って追いかけられそうなことだが、許して欲しい。


ヒロインが良い子なら、ぜひぜひ王子殿下をお任せしたいところ。けれど、マリンについてはまだ詳しいことが分かっていない。いや、今の段階で、かなりのトラブルメーカーということは確定しているか。



夏休み、マリンとは会いたくない。


マリンと会うと精神力が大いに消費される。これ以上余計なストレスは背負うものではない。若白髪にでもなったらどうする。淑女として終わりだ。


夏休みは殿下達との約束以外は受け付けず、家で大人しくしていよう。


この時の私は、安全だと思っていた家で問題が起きるとは思っていなかった。


そう、トラブルの種はマリンだけではないことを忘れていたのだ。
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