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7.夏休み
ガエネロン
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怪現象の後、私は魔法道具の誤作動だったということにして、邸内の皆に謝った。
「自宅でもお手頃な水族館を演出する、ロマンチックなものだったが、出力を間違えた」という説明だ。
それが何故空から?と突っ込まれたら詰む所だったが、皆は「研究熱心なのも良いですがほどほどに」と言って、苦しい言い訳を優しく見逃してくれた。
また、セパルに友人を喚ぶのは次の日にしてくれと頼んでおいた。単純に私が疲れたからだ…。
そうして迎えた翌日、私は早起きして、人が寄り付かないよう、今日は部屋で研究に専念するから暫く一人にして欲しいと皆に伝えておいた。研究もほどほどにと言われた翌日にこれだ、絶対研究オタクと思われた。
セパルはというと、本来の姿のまま、両腕を広げた。目を閉じたセパルが広げた腕に魔力を込めていくと、ベッドの近くの壁に渦が生じる。それと同時に、目に見えない透明の壁が部屋に張り巡らされる。結界を張って、いよいよセパルの友人を迎える準備が揃った。
…今度は魚じゃないだろうな。
私が疑いの目で渦を凝視していると、その渦から白い手が飛び出してきた。
徐々に姿を現したのは、セパルに負けないレベルの美女だった。長い白銀の髪をサイドで緩く結った美女は、ゆっくりと渦から身体を引き上げる。そして、身にまとったシンプルな意匠の白いドレスを引きずるようにして、美女はセパルに歩み寄った。
「いきなり喚ぶなと何度も言っているでしょ…。それに、この狭い部屋は何なの…?」
見た目通り、儚げで美しい声だ。アンニュイな感じが、その美しさに色気を加えている。
…ただ、私の部屋、極自然に貶された。これでも広い方なんだけども、彼女の基準はどうなっているんだろう。
私が彼女を見つめていると、白銀の美女がこちらに目を向けた。暫くその状態で固まっていると、彼女はまた口を開いた。今度は私に向かって。
「あなた…この迷惑な悪魔に憑かれたのね?何て可哀想な子…」
セパルと同じ悪魔からも同情された…。というか、セパルの友人なのよね?セパルも自然に毒を吐かれているんだけど…。
そんな美女にセパルが答える。
「待て、迷惑とはなんじゃ。妾はクリスティーヌに協力的な良き悪魔じゃろうに?」
…私に聞くな。
そして、その言葉は魚を空から降らさなければの話だ。
私が無言を貫くと、美女が哀れみの目で私を見つめる。初めて会うし、種族も違うのに、私と彼女、何だか分かり合える気がする…。
「…身近に馬鹿がいると苦労するわね…。申し遅れたけれど、私はガエネロン…。ネロンと呼んで」
そう言ってネロンはベッドに腰掛けた。私も自己紹介をすると、ネロンは面倒そうに尋ねた。
「で?私は何故ここへ喚ばれたのかしら…?いつものような理由だったら帰るわよ…」
…いつもくだらない理由で喚び出してるのか。何となく予想がつく。それにしても、信用がまるでない。本当に友人?それとも悪魔の友情とはこんなものなのだろうか…。
「今回は真面目じゃぞ!実は相談事があってだな…」
そこから、今回の本題に入る。セパルが私に憑いて、魔法学園にいたこと、そこで結界が弱まっていることなど、懸念を話す。
説明は私が引き受けた。セパルが説明しようとしたら、ネロンがそれを遮って私に尋ねてきたからだ。本当に扱いが酷い。けど、セパルが上手く説明出来るかというと疑わしいのも事実。
ネロンは私の話を静かに聞いていたかと思うと、おもむろに指を宙へ向けた。
「人間のことなど興味はないのだけれど…。まぁ、暇潰しに協力して差し上げるわ…」
魔力の動きを感じると、ネロンの片手には分厚い本が乗っていた。その本をパラパラと開いて、ネロンはこう語った。
恐らく、学園に高位悪魔が侵入しており、それは複数の人間の身体を依代に、セパルの目を欺いていると。それも、もしセパルより力のある悪魔ならば、依代を特定するのは難しいかもしれないらしい。
高位悪魔について書かれているらしい本の一部を、彼女は私達に見せる。悪魔の言語で書かれていたら読めないのでは?という私の不安は杞憂に終わった。ネロンが読めるように魔法をかけてくれたのだろう。何と気が利く悪魔だ。
「かつて、人間界で騒ぎを起こした高位悪魔は…半身の魂を探していた…?」
「えぇ…。今回の悪魔の行動は随分と慎重だわ…。ただ人間の魂を漁りに来た…わけではなさそうね」
もしかすると、その悪魔の目的は半身の魂を取り込むことかもしれない。
ネロンは真剣に話していたかと思いきや、結った髪の毛をいじり始めた。どうやら飽きてきたようだ。
「これで少しは解決したかしら…?今の所考えられるのはこの程度ね…」
「さすがは妾の友!どうじゃ、クリスティーヌ!」
何が?それは、ほぼ友人がいない私への当てつけ?
私が微妙にイラッとしていると、ネロンがボソリと呟いた。
「あら…。私、セパルの友達だったの…?初耳だわ」
…友情成立していなかったの?よくそれでドヤ顔できたな、セパル…。
「さて…用はおしまい?なら、付き合った分のお駄賃を頂きたいわ…」
そんなことはどうでもいいと言いたげなネロンが私に手を伸ばす。手をそのままに、ベッドから立ち上がった彼女は、私の前に音を立てずに移動した。そして、少し屈みながら私に抱き着いた。
「え、ちょっと…?」
「そうそう。そやつ、人間の血が好物なんじゃ。ちょいと分けてやってくれぬか」
困惑する私に、セパルが軽い調子で説明してくれた。しかし、「お宅のジャガイモ、少し分けてくんない?」といったノリで血を要求するな。そう思ったが、もう遅い。牙が軽く右肩に触れ、噛み付かれた。
…………あれ、痛くない?
予想に反して痛みはまるでない。私が驚いている間に、ネロンは身体を引き離した。
「…ご馳走様…。あなたの血、とっても美味しかったわ…。また何かあれば気軽に相談して…。勿論、あなたの血をくれるなら…ね」
そう言って口元の血を拭ったネロンは、満足気に帰って行った。
「自宅でもお手頃な水族館を演出する、ロマンチックなものだったが、出力を間違えた」という説明だ。
それが何故空から?と突っ込まれたら詰む所だったが、皆は「研究熱心なのも良いですがほどほどに」と言って、苦しい言い訳を優しく見逃してくれた。
また、セパルに友人を喚ぶのは次の日にしてくれと頼んでおいた。単純に私が疲れたからだ…。
そうして迎えた翌日、私は早起きして、人が寄り付かないよう、今日は部屋で研究に専念するから暫く一人にして欲しいと皆に伝えておいた。研究もほどほどにと言われた翌日にこれだ、絶対研究オタクと思われた。
セパルはというと、本来の姿のまま、両腕を広げた。目を閉じたセパルが広げた腕に魔力を込めていくと、ベッドの近くの壁に渦が生じる。それと同時に、目に見えない透明の壁が部屋に張り巡らされる。結界を張って、いよいよセパルの友人を迎える準備が揃った。
…今度は魚じゃないだろうな。
私が疑いの目で渦を凝視していると、その渦から白い手が飛び出してきた。
徐々に姿を現したのは、セパルに負けないレベルの美女だった。長い白銀の髪をサイドで緩く結った美女は、ゆっくりと渦から身体を引き上げる。そして、身にまとったシンプルな意匠の白いドレスを引きずるようにして、美女はセパルに歩み寄った。
「いきなり喚ぶなと何度も言っているでしょ…。それに、この狭い部屋は何なの…?」
見た目通り、儚げで美しい声だ。アンニュイな感じが、その美しさに色気を加えている。
…ただ、私の部屋、極自然に貶された。これでも広い方なんだけども、彼女の基準はどうなっているんだろう。
私が彼女を見つめていると、白銀の美女がこちらに目を向けた。暫くその状態で固まっていると、彼女はまた口を開いた。今度は私に向かって。
「あなた…この迷惑な悪魔に憑かれたのね?何て可哀想な子…」
セパルと同じ悪魔からも同情された…。というか、セパルの友人なのよね?セパルも自然に毒を吐かれているんだけど…。
そんな美女にセパルが答える。
「待て、迷惑とはなんじゃ。妾はクリスティーヌに協力的な良き悪魔じゃろうに?」
…私に聞くな。
そして、その言葉は魚を空から降らさなければの話だ。
私が無言を貫くと、美女が哀れみの目で私を見つめる。初めて会うし、種族も違うのに、私と彼女、何だか分かり合える気がする…。
「…身近に馬鹿がいると苦労するわね…。申し遅れたけれど、私はガエネロン…。ネロンと呼んで」
そう言ってネロンはベッドに腰掛けた。私も自己紹介をすると、ネロンは面倒そうに尋ねた。
「で?私は何故ここへ喚ばれたのかしら…?いつものような理由だったら帰るわよ…」
…いつもくだらない理由で喚び出してるのか。何となく予想がつく。それにしても、信用がまるでない。本当に友人?それとも悪魔の友情とはこんなものなのだろうか…。
「今回は真面目じゃぞ!実は相談事があってだな…」
そこから、今回の本題に入る。セパルが私に憑いて、魔法学園にいたこと、そこで結界が弱まっていることなど、懸念を話す。
説明は私が引き受けた。セパルが説明しようとしたら、ネロンがそれを遮って私に尋ねてきたからだ。本当に扱いが酷い。けど、セパルが上手く説明出来るかというと疑わしいのも事実。
ネロンは私の話を静かに聞いていたかと思うと、おもむろに指を宙へ向けた。
「人間のことなど興味はないのだけれど…。まぁ、暇潰しに協力して差し上げるわ…」
魔力の動きを感じると、ネロンの片手には分厚い本が乗っていた。その本をパラパラと開いて、ネロンはこう語った。
恐らく、学園に高位悪魔が侵入しており、それは複数の人間の身体を依代に、セパルの目を欺いていると。それも、もしセパルより力のある悪魔ならば、依代を特定するのは難しいかもしれないらしい。
高位悪魔について書かれているらしい本の一部を、彼女は私達に見せる。悪魔の言語で書かれていたら読めないのでは?という私の不安は杞憂に終わった。ネロンが読めるように魔法をかけてくれたのだろう。何と気が利く悪魔だ。
「かつて、人間界で騒ぎを起こした高位悪魔は…半身の魂を探していた…?」
「えぇ…。今回の悪魔の行動は随分と慎重だわ…。ただ人間の魂を漁りに来た…わけではなさそうね」
もしかすると、その悪魔の目的は半身の魂を取り込むことかもしれない。
ネロンは真剣に話していたかと思いきや、結った髪の毛をいじり始めた。どうやら飽きてきたようだ。
「これで少しは解決したかしら…?今の所考えられるのはこの程度ね…」
「さすがは妾の友!どうじゃ、クリスティーヌ!」
何が?それは、ほぼ友人がいない私への当てつけ?
私が微妙にイラッとしていると、ネロンがボソリと呟いた。
「あら…。私、セパルの友達だったの…?初耳だわ」
…友情成立していなかったの?よくそれでドヤ顔できたな、セパル…。
「さて…用はおしまい?なら、付き合った分のお駄賃を頂きたいわ…」
そんなことはどうでもいいと言いたげなネロンが私に手を伸ばす。手をそのままに、ベッドから立ち上がった彼女は、私の前に音を立てずに移動した。そして、少し屈みながら私に抱き着いた。
「え、ちょっと…?」
「そうそう。そやつ、人間の血が好物なんじゃ。ちょいと分けてやってくれぬか」
困惑する私に、セパルが軽い調子で説明してくれた。しかし、「お宅のジャガイモ、少し分けてくんない?」といったノリで血を要求するな。そう思ったが、もう遅い。牙が軽く右肩に触れ、噛み付かれた。
…………あれ、痛くない?
予想に反して痛みはまるでない。私が驚いている間に、ネロンは身体を引き離した。
「…ご馳走様…。あなたの血、とっても美味しかったわ…。また何かあれば気軽に相談して…。勿論、あなたの血をくれるなら…ね」
そう言って口元の血を拭ったネロンは、満足気に帰って行った。
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