地雷持ち聖女のチート商談

コトイアオイ

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販売員から始める商売

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 昨日は、人が集まる船着場や町の役所など、重要な所を簡単に見て回った。その後すぐに私は寝た。初めての馬車での長距離移動は、思っていたよりも負担がかかっていたようで、ひたすら寝ていた。ルティウスに叩き起されるまでは。

淑女の部屋に許しもなく入るべきではないと分かっていたんですけどね、とルティウスは言っていた。そう、最初はメイドが二人がかりで起こしに来ていたらしい。が、私が死んだように眠りこけているものだから、メイドが過剰に心配してルティウスを呼びつけた、という経緯である。勿論、ルティウスは心配などは見せなかった。

「おはようございます。清々しい朝ですね」

「…………えっと、はいそーですね……」

寝起きすぐに思考は働かないものだ。棒読みの返事しかできなかった。


 私は今、取り敢えずルティウスの実家にお邪魔している。ま、他に頼る宛もないってのが真実なんだけど。ここで生活する代わりに、ファティマ商会系列店の販売員として働くというギブアンドテイクなのである。

かつて、私は営業部に苦しんだが、もはややぶれかぶれだ。こうなったら売りまくってやる。トップセールスマンかカリスマ営業になって、がっぽり稼ぐ。その稼いだお金で豪遊してやる。私を蹴落として聖女になった鈴より自由に生きて見返してやるのだ。

もう迷わない。強引に買わせるなんて罪悪感だとか考えない。私は売ることに専念する!

 やる気に満ちた私が配属されたのは、港町の中ではやや閑静な地域だった。そこは町の東側に位置しており、西側が海に面しているのに対して内陸側となる。そのせいか、魚市場というよりは畜産物を取り扱う店が多い。昨日受けた説明では、学校や病院といった公共施設も東側に多いらしい。そんな地域で、私は何の仕事をするのかというと、八百屋の販売員として、働くことになった。

二十店舗程が立ち並ぶ商店街に店を構えている八百屋「フレッシュハウス」、それが私の職場となる。こじんまりとしたお店には、特大サイズの野菜が売ってある。さらに、定番のトマトから、ズッキーニ、ラディッシュ、ロマネスコと、その品揃えは豊富だ。店の看板はあるけれど、年季の入ったもので所々にヒビ割れや色落ちが見られる。店長は最近、この看板を修理しようとして腰を痛めたらしく、座った状態でしか接客が出来ずに困っていたらしい。

その店長は、白髪を頭の後ろでまとめていて、シルバーの眼鏡をかけた六十代頃の男性だった。妻には先立たれ、息子は出稼ぎで外国へ行っている。その代わり、息子の嫁と孫と一緒に暮らしているそうだ。

「初めまして、店長のグラブスです。貴方のような尊いお方に、このような仕事を手伝ってもらうなど恐縮でございますが何卒宜しくお願いします」

「雨宮真澄です。マスミと気軽に呼んでください。こちらこそ、これから宜しくお願いします」

ぺこりと頭を下げ、私達の顔合わせは終わった。


職場は、ルティウスの家から少し距離があったものの、ここでもまた私の謎の力が役立ってくれた。ある日、家を出るのがギリギリであわや遅刻しそうな時だった。急げ急げと頭の中がそれでいっぱいになって、何も考えていなかったのだが、突然全身が何かに持ち上げられたような浮遊感を感じた。謎の浮遊感に咄嗟にしゃがみ込んだが、その浮遊感の後、少し目眩を感じながら立ち上がると、そこは既に八百屋の目の前だったのだ。これには八百屋の店長ダグラスもびっくりして椅子から転げ落ちていた。腰を痛めているのに、大変申し訳ないことをしたと反省している。

が、そんな便利なことができるなら、活用せずにいられるだろうか。否、利用し尽くす。幸い、ダグラスも一度目にした後は、椅子から落ちることはなくなった。なので、早朝四時でも何の問題もなく通勤できた。

 ちなみに、その力についてエンデ叔母さんに話を聞くと、どうやら光の精霊の力を借りて瞬間移動したのではないかということだった。

本当にファンタジーな世界だ。運送業者達にこんな力があれば、現代の物流の問題も些細に感じられるだろう。こちらではせっかく恵まれた力を得たのだから、出し惜しみせずに行こうと私は思った。使えるものは使って、鈴にドヤ顔を見せてやるのだ。
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