男装聖女と暴走天使

コトイアオイ

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1.序章

これが聖女の仕事?

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 バンクロフ帝国には、偉大な聖女がいる。近隣国と比較しても、より広大で肥沃な土地を持つ帝国で、王族と同等もしくはそれ以上に敬われる存在、それが聖女である。


 二年前、先代聖女は病によって突然の引退し、そこからが始まりだった。


先代はまだ若かったため、次代の聖女が決められていなかった。そこで、帝国は急遽、聖女候補となる異能を持つ少女らを国中からかき集めた。


そこに、6歳の私もお呼ばれしたわけである。今となって思えば、これがいけなかった。


農業を営んでいた私の家庭は、決して裕福ではなく、私はここで良い結果を出せたら、お金か食べ物が沢山貰えるのではないかと考えた。



「ヒール…!」



私がそう唱えて手をかざすと、病の後遺症に悩んでいたという面接官の顔が驚きに染まる。この時の私の力では、精々彼の膝の痛みを和らげるぐらいしかできなかった。しかし、彼は持っていた杖を投げ出し、大声で叫んだ。


「ち、治癒魔法…!これは貴重な力だ。次期聖女にふさわしい!!」


その声に人々の注目は私に向けられ、輝く光のベールを纏った姿を見てさらに目を見開く。



ここから、私の名前はシェリマではなく、「光の乙女」と呼ばれるようになった。


ーーー


そうして、6歳から16歳の今に至るまで、私は聖女として過ごすことになった。初めは、これで家族の役に立てると思っていた。実際、家には馬車から溢れる程の金貨が届けられたらしい。母からの手紙から、ボロボロだった家も改修工事により立派な家となったとも聞いた。



しかし、私は聖女になってから外に出る機会がめっきり減った。元々農家の娘に、いきなりずっと室内で祈っていろとは、かなり無茶な話だ。


外に出るのは、帝国の創立セレモニーなどの重要な式典の時くらい。あとは、ひたすら白くそびえ立つ塔の中で祈る。この塔が私の家のようなものである。


本当に毎日が同じことばかりの繰り返しだし、外との接触がないために何の刺激もない。


家族のためだという私の幼く健気な心は、いつしか、この白い牢獄から解き放たれたいという想いに変わっていった。


さらに、聖女の務めには、懇願書の点検や返信というものがある。帝国に暮らす人々の悩みを聞き、助言を与える仕事だ。


パラリと懇願書の束をめくると、そこに書かれていたのは長々とした文章だった。


「片思い中です。僕の想い人はヒメルダというのですが、僕は脈アリでしょうか?彼女は僕の事をいつも見ていて……」


…ここは恋愛相談所ではないはず。しかし、この懇願書はこういった類のものが多い。本当の意味で助けを求めるような手紙は何故か1通も見たことがない。


まったく、聖女が何でもしてくれるっていう認識、止めて欲しい…。大体、よく知りもしない男女の仲を、私がどう助言すればいいのよ。ましてや、私は箱入り中の箱入り娘。自分の恋愛すら未経験なのに。


…今日も私の心は荒れに荒れまくっている。
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