男装聖女と暴走天使

コトイアオイ

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番外編

試着室で

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 若い女の子達が通う街、レディーマ通り。今私達が訪れている場所はその真っ只中のとあるお店だった。


仕事の帰り、寄り道しようというアーサーの言葉に釣られたわけではない。若い女性達の悩み事について把握しておこうと思っただけだ。決して、可愛い洋服とアクセサリーとか見てみたいなど、そう、1ミリくらいしか考えていない。


期待に目を輝かせているシェリマをアーサーはチラリと見て、可笑しそうに笑う。そんなアーサーを横から肘打ちするのは、リヒトだ。


「気持ち悪い顔でシェリを見るのやめてくれない?」


「いやぁ、初々しくて可愛らしいねぇ。彼女も君も」


「……」

直後、リヒトによってアーサーのつま先が容赦なく踏まれた。しかし、痛みを感じにくいのかアーサーはピクリとも動じない。


舌打ちするリヒトや、どこかの中年父親のような発言をするアーサーに気づかず、シェリマは前方のショーウィンドウに小走りで駆け寄る。


ガラスの中に飾られているのは、涼しげな洋服に大きめのバッグ、そのどれもが女の子らしさ溢れる商品だった。洋服の首元はフリルがあしらわれ、バッグにはチャームやリボンが付いている。

今まで私はまともなお洒落をしたことがほぼない。むしろ、最近までは男装をしていたくらいだ。当然、女の子的な服装には非常に飢えていたと言ってもいい。


年相応な反応で店内を覗き込む少女に、険悪だった天使らの空気も和む。


「シェリ、お店に入って何着か着てみたら?」


「えっ!いや、でも…」


躊躇う私の手を取り、リヒトが店内に入る。その後に、アーサーも楽しげについていく。


一方、少女趣味な店にミスマッチなイケメン二人の来店に、店内はざわついた。


「いらっしゃ…えっ、何このイケメン」

「ちょ、あの人達モデル?絶対一般人じゃないわよ!」

「後で連絡先聞きましょ」


店内に軽い混乱を撒き散らした私達だったが、私は何とか試着室に選んだ数着の服を用意した。そして、そのまま服などを汚さないために靴を脱ぎ、試着室に足を踏み入れる。


試着室の鏡に映る自分は、少し髪が伸びた。これで可愛い格好をすれば、少しは女の子らしく見えるかな。私は選んだワンピースに恐る恐る腕を通す。


真っ白なワンピースの腰あたりには太めの革ベルトのようなものが付いている。これが店員さんによるとポイントらしい。可愛いだけじゃダメで、正反対のものと合わせることにより良さが引き立つそうだ。


それを優しく教えてくれた店員さんも、お店の雰囲気に合う可愛らしい女性だった。緩く巻いた髪をサイドでまとめ、白いブラウスにタイトスカートを合わせたスタイル抜群の美女だ。


よく考えれば、今リヒト達はそんな美女だらけの店員に囲まれているわけで、そう思うとまた複雑な気持ちになる。自分よりも美しいリヒトの横に立つ美女を想像してしまった私は、それを振り払うかのように慌てて試着室のカーテンを開ける。



「あ、あの!き、着てみたんだけどどうかな…」


目の前にいる美人達を目の前にすると、自然と語尾は小さくなってしまった。


仕方ない、だってここにいる人達皆、顔面偏差値高過ぎるんだよ!!おまけに、店員さんは皆お洒落だし、一般人な私は馬子にも衣装感でしかない。


自分から声をかけておいて、いたたまれなくなった私はカーテンを閉じようとする。しかし、私がカーテンを掴むよりも早く、誰かがそのカーテンを勢い良く掴んだ。


いつの間に靴を脱いだのか、試着室の向こうで店員に囲まれていたリヒトが後ろ手でカーテンを閉め、試着室に乱入してきたのだ。決して広くない試着室に成人男性と少女二人はなかなかきつい。


「え、と…リヒト?何してるの?」


彼の唐突な行為に疑問符を飛ばしていると、リヒトが無言で私の胸元へ手を伸ばす。こんな所で何をするつもりだと言おうとしたが、彼は私が留め忘れていたボタンを留めただけだった。自分の勘違いに恥じ入る私に、リヒトは低い声でぼそっと問いかける。


「こんな可愛い格好…危なくて見てられない。…それとも、シェリは僕以外の男を誘惑するつもりだった?」


可愛いと言われ、つい口元が喜びに綻ぶ。ところがそれは一瞬のことで、リヒトの剣呑な空気に私は正気に返る。

必死にリヒトの言葉を否定するが、彼は何故か先程留めたボタンを逆に外しにかかった。


「ちょっと!リヒト!?」


「シェリは危なっかしいからね。気づけば変な中年天使も骨抜きにしてるくらいだし…。いっそ、どこかに閉じ込めた方がいいかもしれないね?」


待て待て、別にアーサーはそんなに私の事を信じてはいないと思う。どっちかというと、リヒトとの方が仲良いし。あと、後半の本気度が怖い。


「この際、僕のモノって印しっかり付けとこうか」


私の弁解を一切聞かないリヒトは、開かれた首元と鎖骨にキスをする。その後しばらくはリヒトに捕まり、私はされるがままになっていた。


すっかり試着どころではなくなり、リヒトの気が済んだ頃、カーテンを開ければ店員とアーサーがニヤニヤ笑っていた。どうやら、全て聞かれていたらしい。


恥ずかし過ぎてこの店には二度と来れない!


とにかく、あのワンピースだけ買って私は逃げるように店を出た。
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