男装聖女と暴走天使

コトイアオイ

文字の大きさ
8 / 32
3.東の村

東の村、クォーツ

しおりを挟む
 少し歩いたが、無事クォーツの村付近へ到着した。リヒトが荷物を少し持とうかと声をかけてくれたが、そこは丁重にお断りしておいた。私はこの10年間で失った体力、筋力を少しでも回復させたいのだ。そうすれば、リヒトにかける負担も少なくなるはずだし。


しかし、彼は私に頼られることが好きなようなので、そこらへんの理由は口にしないでおく。


「大丈夫大丈夫」と強引に自分の意見を押し通した。リヒトは頑固な私に負け、それからは特に何も言わなかった。思うが、彼は少々過保護なところがある気がする。私ってそんなに貧弱に見えるのかしら…。


確かに、今は男の子の格好をしている。そして、本当の男の子より細い骨格であることは否定できない。


うーん、努力しよう。


 私がちょっぴり落ち込んでいると、村の方から誰かが走ってくる。少年のようだが、その速さが尋常じゃない。まるで、イノシシの超突進のようだ。普通に怖い。しかも、真っ直ぐ私目掛けて走ってくるではないか!
 

先程悩んでいたことをぶん投げて、思わずリヒトの背にしがみつく。いやいやいや、だってあの勢いで正面衝突してみ?まずいよ、歯が折れそうだよ。私なんて軽く吹っ飛ぶのが目に見えてるわ。


「おめー、何者だゴルァァァァァ」


雄叫び。まさに野生の獣の雄叫びのような怒鳴り声である。本当に少年か?すごいドスの効いた声なんだけど。


私達(不審者)の前に猛ダッシュしてきた少年は、疑わしげに私達をジロジロ見た。その間、ただでさえ、逃げ出した元聖女兼性別を偽っている私は冷や汗ものだ。


「見ねぇ顔だぜゴルァァァァ!!」


間近でいちいち叫ぶ少年に、リヒトがうるさそうに顔を顰めた。…この天使、意外と感情に素直なのである。


尋問を受けている気分になりながら、私は何とか弁明せねばと口を開く。


「決して怪しいものではありません!」


「怪しいやつは必ずそう言うとオヤジから聞いたぞゴルァァァァ!」


くっ、オヤジめ!ピンポイントで少年の疑惑サーチに引っかかってしまったじゃないの。


「わ、私達は旅をしながらこの村にやって来た薬師です!」


薬師と聞いて、少年がぴくりと眉を動かした。証明書などはないので、今は言葉で信じてもらうしかない。このまま、どうにか説得できないと村にも入れてもらえそうにない。


「……ほんとにおめー、薬師か?」



おぉ、これはいけそうでは!?そう思って私は勢い良く頷こうとした。しかし、私がそうだという前に、少年がまた怒鳴り声を上げた。



「いや、おめーみてぇな細っこくて頼りねぇのが薬師なわけねぇ!!やっぱ詐欺師か」


ひどっ!私の悩みをぶち抜かれた!タイムリー過ぎてより心が傷ついた…。私がガックリ項垂れると、リヒトがずいと前に出て少年に相対する。


「私達は薬師です」 


彼はたった一言しか口にしなかったが、少年はリヒトの美貌にぼうっと見蕩れていた。そして、ポロリとこう言った。


「確かに、兄ちゃんはキレーだし、何か凄そうだぜ…!」


…男に負けた!


や、リヒトはただの男の人じゃないくて天使だけど!それに、私も今は男装してるけどさぁ…。


でも、女心は傷ついた。何で私は駄目なのにリヒトはいいのよ…。


 少年はリヒトの手を引き、村へと案内してくれるようだ。リヒト込みなら私もOKらしいが、私には依然として探りの目を向けてきた。


くっ…。子供は正直だわ。



そんな私達の静かな戦いに、リヒトは苦笑している。


「いいじゃない、もし彼が君の名前を呼んで、君の手を握ったりしたら…僕、何してたか分からないし」


危うくやっちゃってたかもしれないなと、リヒトは軽く笑い飛ばす。よく聞けば相当怖いことを言っていたのだが、私には心の余裕がなかった。つまり、リヒトの危険発言をまるで聞いていなかったわけである。


少年もまた、リヒトの発言を聞いておらず、グイグイと村の中心へと私達を連れていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです

籠の中のうさぎ
恋愛
 日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。 「はー、何もかも投げだしたぁい……」  直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。  十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。  王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。  聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。  そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。 「では、私の愛人はいかがでしょう」

処理中です...