利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
844 / 844
番外編

番外編1-4

暑すぎず寒すぎず、今日のイスは絶好の行楽日和だ。

「晴れてよかったね!」

当日の天気だけが心配だった私は、満面の笑みを浮かべながらセーヤのブラッシングを受けていた。いまとなっては、こうして髪を整えてもらわないと気合いが入らないのだから習慣というのは恐ろしい。

朝の身支度を終えてキッチンへ向かうと、コーヒーのいい香りが漂っていた。カウンターにはいつものメンバーが座っている。

「おはようございます!」
「今日は一段と気合いが入っているようじゃな、メイロード」

大きめのマグカップでコーヒーをすすりながらグッケンス博士が笑っている。

「ああ、今日だっけ? あの〝大食い大会〟って……」

よく冷えたグラスで朝ビールを飲みながらマスタードの効いたレタスドッグにかぶりついているセイリュウ。

「メイロードさま、ささ、お座りください。本日はきっとお忙しくて日中は落ち着いた食事の時間はないでしょうから、せめて朝はしっかり召し上がってくださいね」

ソーヤはテキパキとキッチンを動きながら、私の前にスープやサラダ、オムレツに季節の果物を並べていく。ソーヤは私が作ってあげた料理をデータベースのように記憶していて、リクエストすれば瞬時に再現してくれる。

「ありがとうソーヤ。うんうん、とってもよくできてるわ、美味しそう! パンは木の実の入った硬めのものをスライスして焼いてくれる?」

「了解です。ではバターとチーズ、それに木苺のジャムも添えましょう」

こうして、いつものようにみんなで賑やかな朝食を終えた私は、今回のために押さえた広場に向かった。

『サイデム商会提供、メイロード杯争奪〝北東部式ソヴァ大食い大会〟』

立派な横断幕が掲げられた会場は、まだ開始時間のだいぶ前なのにすでに多くの人が列を作っていた。

(期待されているみたいで何よりだけど、あまり列が伸びるようなら開場時間の前倒しも考えないといけないわね)

会場内ではすでにたくさんの屋台が設営と仕込みをしていた。

蕎麦の屋台はもちろん複数出すが、それ以外にも蕎麦粉を使った手軽な料理を提供する。

「〝おやき〟は皮に蕎麦粉を使い中身は野菜あんやミンチ肉、それに甘い芋あんなどバリエーション豊富に仕込んだからね。屋台では鉄板で焼いたアツアツを食べてもらうのよ」

「素晴らしいです、メイロードさま」

ソーヤは目を爛々と輝かせて、あちこちの屋台に目を走らせている。

「お好み焼き風に味付けして棒に巻きつけた軽食は〝くるくる焼き〟って名前で売るつもり。ジャガイモと蕎麦粉で作ったニョッキを揚げた〝ソヴァ揚げ〟はお酒にも合いそうよね」

「どちらも試作で味見させていただきましたが、大変美味でございました! どちらももっと食べたかったです!」

食べ方としては小麦粉に近いから、知ってくれれば普及は早いだろう。なにより安いし地産地消できれば経済効率もいい。

楽しい催しの演出はどうやらうまくいきそうだ。

(あとは〝大食い大会〟がうまくいってくれれば……)
感想 3,015

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3015件)

いづみ
2026.05.08 いづみ

番外編を読むために、1巻から読み直して来ました^^
もう何周目かな〜??何回読んでも好きです!!
飯テロとか生産とか内政とか成り上がりとかのバランスが絶妙に好き(笑)
続きも楽しみにしています♪

解除
嫁丸
2026.04.26 嫁丸

楽しく読まさせてもらってます。
文庫版を集めたいのはやまやまなんですが
老眼なのか本というものが読むのに億劫になり、集めて置く、手放し出来ない、片付かないで諦めてますが、

読みたい、何そのお得感、

ちょっと?いや、もっと永いこと離れてまして、また最初から読み出したとこなんですが、、、

やっぱり買うべき?読みたい、番外編ってことですよね?読みたい読みたいわー

解除
コウ
2026.04.13 コウ

蕎麦、美味しくて大好きなんですが……
知り合いに、蕎麦アレルギー(重度)がいるもので、蕎麦粉を触った後は、絶対に近付けません……(命の危険があると言われた)
イベント中に、アレルギーの症状が出ない事を祈ります

解除

あなたにおすすめの小説

元の世界に帰らせていただきます!

にゃみ3
恋愛
淡い夢物語のように、望む全てが叶うとは限らない。 そう分かっていたとしても、私は敵ばかりの世界で妬まれ、嫌われ、疎まれることに、耐えられなかったの。 「ごめんね、バイバイ……」 限界なので、元いた世界に帰らせていただきます。 ・・・ 数話で完結します、ハピエン!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

夫の不倫相手に「妻の座を譲れ」と言われたので、譲る代わりに全部置いていきます 〜行き先は老舗旅館。追いかけてきても、もう遅いです〜 

なつめ
恋愛
夫の愛人に「妻の座を譲れ」と言い渡された主人公は、怒鳴り返すこともしがみつくこともせず、ただ静かに頷いた。 家のこと、食事のこと、社交のこと、義実家のこと、会社の裏方のこと。 誰も価値を知らなかった“妻の座”の中身を、そっくりそのまま置いて家を出る。 向かった先は、かつて傷ついた自分を受け入れてくれた老舗旅館。 再建に奔走する若旦那とともに働く中で、主人公は初めて「役に立つから愛される」のではなく、「あなた自身がいてほしい」と言われる温かさを知っていく。 一方、主人公を軽んじた元夫の家では、生活も体裁も仕事もじわじわと崩壊を始める。 これは、何も持たずに出ていったはずの女が、自分の人生を取り戻し、最後には新しい恋と居場所を手に入れる再生の物語。

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。

『お前が運命の番だなんて最悪だ』と言われたので、魔女に愛を消してもらいました

志熊みゅう
恋愛
 竜族の王子フェリクスの成人の儀で、侯爵令嬢クロエに現れたのは運命の番紋。けれど彼が放ったのは「お前が番だなんて最悪だ」という残酷な言葉だった。  異母妹ばかりを愛する王子、家族に疎まれる日々に耐えきれなくなったクロエは、半地下に住む魔女へ願う。「この愛を消してください」と。  恋も嫉妬も失い、辺境で静かに生き直そうとした彼女のもとに、三年後、王宮から使者が現れる。異母妹の魅了が暴かれ、王子は今さら真実の愛を誓うが、クロエの心にはもう何も響かない。愛されなかった令嬢と、愛を取り戻したい竜王子。番たちの行く末は――。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

「三番以下を取りなさい」と五年言われ続けたので、公開試験で本気を出しました

歩人
ファンタジー
王立魔法学院、入学時首席のリュシエンヌは、婚約者レイナルト公爵令息から五年間「女は三番以下を取れ」と命じられてきた。学院の序列は国家序列の縮図。レイナルトは常に一位に居続けた。婚約披露を控えた十九歳の春、レイナルトが新しい婚約者を連れて告げる。「お前では並び立てぬ。学力も身分も、足りなすぎる」——リュシエンヌは微笑んで、その翌日の年次公開試験で、五年封じてきた本気を出した。国王臨席の場で、史上最高点。魔法局長官が教授陣に命じる。「過去五年間の彼女の実測点と、もし本気で受けていたら出せた推計点を、公表したまえ」。教授陣は震える手で数字を並べた。レイナルトの「首席」は、全て彼女が譲った場所だった。