微笑んだのは胡蝶蘭

湖月もか

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微笑んだのは胡蝶蘭

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 直前の天気予報でも雨だったが、気持ちのいいくらいの晴天で雲一つない綺麗な空。
 暑いという程の気温もなく、この季節にしてとても過ごしやすい珍しい気温だ。

 今日私の親友は天候に恵まれた中、式を挙げる。

 ドレス、式場等々。頻繁にどうしようという悩みの電話が来ていたのでどうなることかと思ったが、無事この日を迎えられた彼女は間違いなく今世界一幸せなのだろう。

 親友にせがまれて、彼女がお色直しで着るカラードレスと同じ色で似たようなデザイン--もっとも、彼女のよりはシンプルではあるが--ドレスを身に纏い都内でも有名なホテルへ到着した。

 式まではまだ少し時間がある。
 その為、式に呼ばれている人達は皆【柳様、雨宮様両家 ご来賓控え室】と書かれた部屋で現在待機中だ。
 二人の共通の友人が多い中私は知り合いもおらず、ポツンと一人扉の近くに佇む他なかった。

「ご来賓の皆様、準備が整いましたので今からご案内いたします」
 凛としたホテル従業員である女性が開始間もないことを伝えた。
 必然的に扉の近くにいた私は一番前を歩くことになった。



 ステンドグラスから差し込む太陽がキラキラと輝き、これまた豪華なチャペルである。
 流石にいくらかかったのかは怖くて聞けていない。

 しばらくして、親族の人達が目の前に着席し、その後新郎が入場してきた。
 あとは新婦を待つだけで式はもうまもなくだ。

「それでは皆様お立ちください。新婦の入場です」
 パイプオルガンの澄んだ音色が柔らかで、厳かな雰囲気を醸し出す。
 そして親友が父親にエスコートされて入場。一歩ずつゆっくりと新郎の元へと向かう。

 新郎も眩しそうに新婦を見ながら今か今かと到着を待ち望んでいる。

 そして、父から離れた彼女の手はこれから夫となる新郎へと引き渡される。

 その後も滞りなく式は進み、新郎新婦は退場した。そこから披露宴までは時間を開けずに、開催される。
 もちろん会場はホテル内の大きくて綺麗な場所。彼女の好きな白百合があちらこちらに飾られている。

 甘ったるさでクラクラしてくるほどに大量の白百合に、ラブラブな新婚夫婦がこれから入場してくるので胸焼けしそうだ。

 苦手な百合に囲まれて新郎新婦入場を待つ。少し整えてからの入場だからだろう。
 思ったよりも早く彼女等は入場して、高砂へと二人の仲良く歩いていく。

 二人の馴れ初めから、お互いに好きなところ、スピーチ、乾杯、お色直し、余興、そして最後の両親への手紙。
 運命の愛!感動の秘話!という盛り上がりを見せてこれまた滞りなく、披露宴も終わりを迎えた。

 最後。本当に最後。
 新郎新婦が来賓を送り、引出物を直接渡して一人一人に感謝を伝える。

「ありがとう、来てくれて。ドレスのデザイン近いものにしてくれてありがとう。ほんとうに一生の思い出になった!」

 涙ながらに親友は両手を握りつつ、私に感謝を述べた。
 その隣で旦那は仲いいんだねと見守っている。

「うん。……おめでとう、幸せにね」

 特にこれと言って気の利いたセリフも出てこない。可もなく不可もなく、といったような感想と思いしか彼女に伝えられなかった。

 彼女の幸せを心から祈り、会場をあとにした。

 --多分、二度とあの夫婦とは合わないだろうが未練はない。


 *****


「なにが、運命よ。なにが七年の末の大恋愛よ。……ふざけんじゃないわ」

 ガン
 とグラスがカウンターにあたった音が鳴る。
 すこし力が入りすぎてしまったようだ。

 親友の夫。
 実は私の恋人だった・・・・・男なのである。数年の付き合いで、本当に好きだった。

 五年ほど前のある日、彼は突然音信不通になった。
 --で、数年後に突然連絡が来たと思ったら『俺、結婚するから』というとんでもない報告である。
 人混みの中慌てて出た私に、謝罪もなしにその台詞。
 ふざけんじゃねーよ。と電話口で思いっきり叫んだ覚えがある。
 あとはなにか色々と言ったような気はするがもはや覚えていない。

 しかも、何故か相手は私の親友で結婚式にまで呼びつける始末。当然断わったが親友に泣きつかれたら断れるわけはないのだ。
 結果、結婚式と披露宴にフル参加を果たした。

 蓋を開けてみれば途中年数被ってて、お前二股じゃねーか。と馴れ初めを聞いて心の中で突っ込んだのは致し方ないと思う。

 そして帰り道、悔しいやら悲しいやらで泣きながら歩いたのはまだ多少未練があったから。次第にだんだん腹が立ってきて、お酒を煽りたくなったのですっかり通い慣れたバーに。

 当然、そのまま来たのでドレスのまま、乾いた涙の後で化粧がぐちゃぐちゃになっている有様だ。

「ほら、あなたこれで拭きなさいよ。せめて、化粧落とした方がいいわ。お化けみたい」
「ママ。なんで化粧落としすぐ出てくるの?」
乙女の嗜みよ」

 男とは思えないほど美しいママが、そっとカウンターに置いたのは【潤いたっぷり!これ1枚でお化粧スッキリ】と書かれた化粧落とし。
 有難く1枚使わせて頂く。
 どうせ夜で見えないし、ぐちゃぐちゃになった顔よりはスッピンのがまだましだろう。

「ありがとう。ママ、女子力高いね」
「どういたしまして。……ねえ、あなたそろそろお酒はやめて帰った方がいいんじゃないかしら? 女の子の独り歩きは危ないわよ」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。……それよりこれ、もう一杯ちょうだい」
「だーめ。ほら、こっち飲みなさい」

 コトリと目の前に置かれたのは、先程まで飲んでいた【芋焼酎のロック】というオシャレなバーに不似合いだった飲み物ではなく、淡いピンク色のカクテルだ。
 カクテルグラスの縁には白とピンクの小さい花が二つ添えてあり、女の子らくてオシャレ。

「ママ、これはなに?」
「カクテルジュース。お酒じゃなくてただのジュース」
「えー、そこはお酒じゃないの? ……じゃなくて、この添えてある花のこと」
「ああ、これ?」

 そういってママは綺麗な指先で、ちょんと花をつついた。

「胡蝶蘭の小さいものよ。……胡蝶蘭は知ってるわよね?」
「あ、うん。よく開店祝いとかで置いてある大きな花でしょ? 知ってる知ってる」
「ふふ、そうね。そういう覚え方が一般的かもね。……ちょうどお店にあったからサービスよ」
「ふうん?」

 相変わらず、ママはつんつんと指先で胡蝶蘭を弄んでいる。

「今のあなたにね、ぴったりだと思ったのよ。胡蝶蘭の花言葉知ってる?」
「ううん。知らない。花言葉とかあんまり興味なかったから」
「でしょうね。……胡蝶蘭の花言葉はね、“幸福が飛んでくる”よ」
「え? 幸せが飛んでくるの? 私にぴったりではないと思うけど……」
「いいえ、ピッタリよ。白い胡蝶蘭はさっき言った“幸福が飛んでくる”なんだけど、ピンクはね……」

 今まで胡蝶蘭を眺めて伏せられていたママの視線が上がる。興味深くて前のめりで聞いてた為、思ったよりも顔の距離が近かくなっていた。
 じっとこちらを見るママの瞳に至近距離の驚いたすっぴん顔の自分が映る。

「“あなたを愛しています”っていう意味があるの」

 分かるわよね?と色気たっぷりに囁いたママは、はっきりとの顔をしていた。
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