生贄な花嫁ですが、愛に溺れそうです

湖月もか

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神様も様々です

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 山吹お手製の暖かい卵粥を食べ終えた2人は、村とは反対側の山の麓にある少し大きな街へ。
 その街は自分が育った村よりも文明が進んでいるようで、まるで異国に来たような気分になる。

 街で二人仲良く買い物をしているのだが、周囲の視線をかなり集めている。

 その理由は--

「鈴音、この服はどうだ? この色が似合うと思うんだが……」
「確かに可愛い服ですが……それよりも、山吹様」
「お、こちらもいいな! 大きさは……うん、これで大丈夫だろう。あとは、靴もだな」
「山吹様! あの、先程も靴を買っていただいたので靴はもう買わなくても……。それに、靴を履けば私も歩けるのですが……」
「うん? 靴は服に合わせるから何足あってもいいだろう? それに、別にこのままでもいいじゃないか。鈴音はまるで羽根のように軽いし俺には苦にならないし、何故だか解らんがとても離しがたい。よって、却下だ」

 離しがたいのだとしても、ずっと抱えてなくて良いのではないだろうか。

 そう、山吹は鈴音を片腕に抱えながら街中の様々な店を渡り歩いているのである。
 そのせいで羨ましそうな視線やら、冷ややかな視線やら、生暖かい視線やらを一手に集めているのだ。

 しかも、

「……兄ちゃん、その娘かどわかしたのか?」
「かどわかしてなどいない。俺の嫁だ。どうだ、凄く可愛いだろう?」
「……お、おう。そうだな」
「やっと来てくれた嫁なのだが、鈴音で良かった。どこもかしこも柔らかく、触れているだけで穏やかな気持ちになれる。声も愛らしいし。それに、こんなに可愛い」
「…………や、兄ちゃんそこまでにしてくれ。もう惚気はいらねえ。胸焼けしそうだ……」

 と、似たような会話がどのお店へ行っても交わされている。
 どうやら背の高い山吹に抱えられている小柄な鈴音という組み合わせは、誰が見ても誘拐に見えるようだ。

 ちなみに鈴音は会話に混じることはないが、毎回毎回可愛い嫁だろうと褒めちぎられる上、とても誇らしげに自慢するので、精神的疲労が溜まり始めている。
 ……山吹の腕に抱えられているのもあるが。

 余談ではあるが、街に来る時から疑問だった『買い物するお金は何処から出ているのか?』という質問を、失礼かもしれないと思いつつも街へ着いた際に山吹へ投げかけてみた。
 なんと、自分で稼いでいるのだそう。

 曰く--

「神ではあるが食事とか色々必要なものがあるだろう? なので、倒れてしまった木を使って木彫りの置物を街で売ってお金を稼いでいる」

 だから、安心して欲しいものを買えるぞ!との事。
 置物が置いてあるお店を見たかったが、また今度。と、残念ながら断られてしまった。


 何軒も回り、鈴音の生活必需品を買い揃えた頃には日が沈みかけていた。

「服もこれくらい買えば足りるだろう。鈴音、他に欲しいものはあるか?」
「……え。……あの、山吹様。私の、お布団は買わないのですか?」
「夫婦になるのだし、一緒に寝れば問題ないだろう。それ以外で他にあるか?」
「……とくには、ございません」
「ならば、行きたいところがあるんだが……良いか?」
「構いませんが……私はやはり降ろしていただけないんですよね?」
「よし、行こうか」

 どうやら拒否権はないようだ。結局降ろされることなく、移動を開始した。

 何処か上機嫌な山吹に恥ずかしくて嫌だから降ろしてくれ、と言い出せなかった。


「ここ、ですか?」

 大通りを暫く歩き、着いた店先には営業中--とても字が汚いので多分--と書かれた札がかかっていた。
 店の名前も字が汚いので読むことすら出来ない。

「ああ。多分、居ると思うんだが……」

 山吹ですら、営業中の確信は持てないらしい。

 ガシャガシャ
 と扉を開け閉めする度に大きな音が鳴る。どうやら扉にベルらしきものがついており、来客を知らせる仕組みになっているようだ。
 音はとても……いや、かなり酷いがシステム的には便利である。

「山神様。これ、全部金属を加工してあるのですか? ……とても美しいですね」

 入った店内には様々な種類の金属で加工したのであろう、装飾品を初めとした生活雑貨などが展示されている。

「だろう? ここの店主はな  鐐  しろがねといって俺の馴染みの神仲間でな……まあ、見てわかる通り金属加工を得意としている。神が作ったものだからな。加護は抜群だぞ。……鈴音何か気にいったのがあるか? 是非とも買おうではないか! そうだ、お前の髪は艶のある黒だからこの辺りの銀とか似合うのではないか?」
「…………こんなに綺麗なもの私には似合いませんよ」

 思わず呟いてしまった一言はすぐ傍にいる山吹に聞こえないなんてことはなかった。

「鈴音……お前、」
「山吹!!! 貴様何をしておるのだ!!!」

 山吹が何かを聞こうとした時。突如店内に響き渡るドスの効いた女性の怒鳴り声と、大きな音を立てて何かが割れた音。
 だがしかし。
 視界が怒声と共に黒い布ととても柔らかな何か・・に押し潰された所で記憶が途絶えている為、その瞬間に何が起きていたのかは当然目が覚めた後に知る事となる。


  *  *  ◆  *  *


 いきなり出てきた  鐐  しろがねにどうやら鈴音をかどわかしてきたと思われ、殴り飛ばされた。
 ……冤罪だ。
 しかもちゃっかり鈴音を抱き締めて--

「……おい!   鐐  しろがね!! 鈴音が気絶しているからさっさと離せ!」

 鈴音は  鐐  しろがねの豊満な脂肪に顔をうずめて、青い顔で気絶していた。

 すぐさま鈴音を救出し、  鐐  しろがねの寝室のベッドで寝かせた。

「鈴音はつい昨日死にかけていて、まだ本調子ではなさそうなんだ。今日は服とか必要だから買い物にでてきただけだ。頼むから気をつけてくれ。あとかどわかしたのではなく、俺の嫁だ」

 鈴音を見つけた時の経緯やその様子などを  鐐  しろがねへ丁寧に、説明した。
 ちなみに鈴音から目が離せなかったので、ベッドのすぐ隣で小声で話している。

「…………えっと、そのー……すまなかった」

 背の高く気の強い  鐐  しろがねが肩を落として反省している姿はなかなか見れない光景だ。
 今回はこちらに非が無い分、それに対しては何も言えない。

「冤罪だからな。割れた物は弁償しないぞ」
「……うむ。お詫びに婚姻の指輪でも作ってやろうか? 代金はなしで、加護はめいっぱいつけて」

 なんとも魅力的な提案である。
 もともとこの店に来たのは鈴音へ指輪でも作ろうと思ったからだ。
 ……あわよくば鈴音の好みを探れれば程度の下見と  鐐  しろがねへの紹介がメインではあったが。

「では、頼めるか?鈴音が日頃から着けやすい簡素な絵柄がいいな。……絵柄は後で入れたりとかもできるか?」
「構わんぞ。奥方への贈り物だろう? 好みとか聞いた方が良いだろうし、絵柄彫るのはいつでもできる」

 ありがたいものだ。
 鈴音には好きな絵柄をゆっくり決めてもらえれば、それでいい。

「……にしてもだ。お前の奥方、異様に細くないか? 軽すぎて驚いたぞ」
「やはりあれは異様な細さか。……推測だが、あまりいい待遇で育てられなかったのだと思う。さっきも髪飾り似合うと思うと勧めたのだが……私には似合わないと呟いていたんだ。そんなこと、ないのにな? 鈴音は可愛いのだからどれでも似合うに決まってる」

 自分に自信が無いようだし、彼女には感情の起伏もあまり見られない。

「嫁だと紹介したが、鈴音は生贄として俺に捧げられたのだと言っていた。……つまりは死ぬつもりで覚悟していたのだろう? 救って、俺の嫁だと説明して、それで良かったのだろうか」

 正直、鈴音を泉からすくい上げた時は本当にゾッとした。
 辛うじて引っかかっていた湖面から除く愛らしい容姿。だがその頬は生気を感じられないほど青白く、身体も折ってしまいそうな程に細く、体温もほとんど感じられなかった。

 そして異様なまでの軽さ。
 あの時の鈴音が今でも目に、記憶に焼き付いて離れない。
 暫くあの泉には行けないと思うほど、心が酷く揺さぶられたのだ。
 あの時、この娘を死なせてはいけないと強く思い、急いで連れ帰って暖めた。
 暖め方は褒められたものでは無いかもしれないが死にかけてたのだ。緊急事態なので仕方がない。
 ……得したなとは思うが。

 細い彼女の身体を抱き抱えて体温を移している時、確かに俺は彼女がいいと。彼女しか要らないと。直感的に、そう思った。
 多分一目惚れなんだろうが、ここまで強く感じたのは永い時を生きていて鈴音が初めてだった。
 だからこそ、彼女には幸せになって欲しいもので。

「どうしたらいいと思う? 彼女には幸せになって欲しいと思う。だが……俺の心が狭いのだろうな。鈴音には俺と・・幸せになって欲しいんだ。他の誰かになんてやれない。……でも鈴音にとっては俺以外の誰かの方が幸せになれるのかもしれないと思うと……どうしたらいいのか、わからないんだ」

 俺の幸せは彼女と共に歩むことだが、鈴音の幸せ・・・・・も同じとは限らないという事で。
 ずっと、昨日鈴音を救って嫁だと伝えた時から悩んでいる。
 ……所詮神だと言っても惚れた娘の前ではただの男と同じなのである。

「そんな図体で沈むな、鬱陶しい。簡単だろうに。お前が・・・ゆっくりと奥方に教えてやればよかろう。『愛らしい容姿をしている、自信を持て、俺はお前だけが欲しいのだ』と、ありのままを伝えれば。それでお前が奥方をこの世で一番幸せだと思えるようにしてやれば良かろう」

 それくらいしないでどうする。男だろう?
 と、吊り上がった赤銅色の瞳が剣呑な色を帯び、射殺しそうな視線で発破をかける。
 その時の  鐐  しろがねはまるで戦場の戦士のようだった。

「だいたい、答えはとうに出ているだろう? 『他の男に触れさせたくない。渡したくない』と思うならそれが答えだろうに。……全く。種族が違っていてもどの時代であろうが男は覚悟が足らんな。山吹、お前が幸せにしてやる他選択肢などないだろう? 違うか?」
「……そう、だな。  鐐  しろがねの言う通り他のやつに渡したくないなら俺が幸せにする努力をしたらいいのか」
「ふん、最初から解りきったことをグチグチと悩みおって」

 どうやら俺は悩まなくていい事を悩んでいたようだ。
 前の酷い生活を忘れる程、俺が今の生活で鈴音を幸せにしようと誓った。
 ……何故か本人ではなく  鐐  しろがねに誓わされたのだが、まあ後日 本人にもちゃんと話して固く誓おうと思う。
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