生贄な花嫁ですが、愛に溺れそうです

湖月もか

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衣装受け取りました

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「あ、そうそう。こちらがお届け物の衣装です。…………今日、荷物多そうですが持ち帰れそうですか?」
「大丈夫だ。問題ない。衣装を鈴音に抱えてもらい、左手に荷物を持って右に鈴音を抱えれば余裕だ」
「最初の買い物の時もお主らベタベタして歩いておったなあ……」
「暗くなる前に帰宅するにはそれが一番良いんですよ」
「………………サヨウデスカ」

 郁麻の目に光がない。頬はひきつり、口からは乾いた笑いしか出てこない。
 またこの会話の中に何か彼にとって打撃になったものがあったようだ。

「早速開けてみてもいいですか?」
「……それは、当日のお楽しみってことにしておきましょう? あと気になっていたのですが、鈴音様はご自身で衣装着れますか?」
「無理です」
 鐐 しろがね様は、着付け……出来なそうですね」
「当たり前だろう。出来るわけあるまい」
「もちろん俺も出来ないぞ」
「皆様出来ないことを、そんな自信満々に仰らないでくださいよ……」

 衣装注文までは考えていたが当日の着付けどうするかは全く考えていなかった。
 すっかり忘れていた。

「あ、山吹さん。郁麻さん達もご招待する訳には行きませんか?」
「ああ! なるほどな。それはいい。郁麻、両親共々来るといい。お前の母か父なら着付け出来るだろう?」
「……えーっと、ですね。まず僕の母親はかなり活動的で……今この国に居ないんです。生地とか色々な素材を仕入れに自分の目で確認したいってことであちこち旅してます。……そう言えば、かれこれ二年ほど会ってないですね。多分母の事でしょうから、無傷で渡り歩いてるかと。…………母は父より強いので絶対大丈夫です、連絡ないですがそれだけは確信があります。ああ、話が逸れてしまいましたね。では、父と僕だけでも構わなければ是非伺わせてください。着付けなら父が出来ますし」

 どんな屈強なお母様なのかとても気になる所ではあるが、とりあえず着付け要員は問題なさそうだ。

「なら安心であろう。すまぬなあ……妾もその衣装自分では着れなくてのう。アランに着せてもろうたわ。……貴継と最初は揉めたがな、いつの間にか意気投合しておったわ」
「……それ、私も衣装注文で測る時に同じように最初は揉めました。その後二人で話したあとは何故か意気投合してましたね」
「愛妻って事で通ずるものがあるんだと思います。僕には到底、結婚を控えている女性の着付け等できるわけないので、母の居ない時はその才能が本当に助かります」

 あのお店で働いてる女性の方って、郁麻のお母様だけらしい。
 それでよく成り立っているものだ。

「……で? 肝心の日程は決まったのか? 明日か?明後日か?」
「流石に明日明後日ですぐとはいかないだろう。人数が少ないとはいえ山奥まで出向いてもらうのだから、こちらにも料理など作る必要がある。……何を作るか、材料調達とかで一週間は早くてもほしい」
「まあ、そうなりますよね」

 日数を聞いた 鐐 しろがねは不服そうだが、仕方ない事だ。
 せっかく来ていただくのだから皆さんをもてなしたい。

「日程はまた買い出しに降りてきた時に 鐐 しろがね経由でみんなに伝えてもらうのでもいいか? ……多分街に来るとしても、色々と落ち着くまでは俺だけだろうから、なるべく最小限で済ませたい。……しばらく迷惑かけると思うがすまんな」
「妾は構わぬ。どちらにせよ、郁麻達に伝えるのは貴継だとは思うが」
  鐐  しろがね様方向音痴ですもんね。……ああ、忘れるところでした。今街で起きてる厄介事の詳細を、わかる範囲ですがお教えしますね」


 どうやら、琴音はこの街を治めている領主の息子と知り合いである栄太えいた--商人ですごく金持ちな男らしい--の元へ嫁いだらしい。
 嫁いだ経緯の詳細までは流石に本人達に聞かないと解らないが、普段はここから馬に乗っても五日程かかる栄太の家で暮らしているのだとか。

 仲がいい知り合いへ会うついでに、商品仕入れを兼ねているようで、妻の琴音を連れてこの街を度々訪れている。
 夫の栄太は琴音の自由にさせており、街中で彼女が『これは嫌』『あれは嫌』と喚いても咎める事なく傍観している。
 興味が無いのか、なんでも許せるくらい溺愛しているのか。彼の心の内は解らないが、せめてその暴挙を止めて欲しいところである。

 そしてあちらこちらの店の商品に難癖をつけたり、自分が一番だとでも思っているかのような立ち振る舞いで、度々問題を起こしている。
 『ここの服は地味で趣味悪い』『ここのご飯は不味い』等上げだしたらキリがない程らしい。

 そして、その発言をしてあちこちで恨みを買っている琴音とは双子の鈴音。
 今街を出歩けば本人達と遭遇も勿論のこと、難癖を付けられた店主の方々と遭遇する事になる。……つまり面倒事や危険度が何倍にもなっている。
 それこそ、郁麻のように見分けがつかずにそっくりな鈴音に喧嘩をふっかける輩がいてもおかしくないのだ。

 それほどまでに彼女はあちこちのお店で恨みを買っているようだ。

「……と、言うわけなので鈴音様は街を歩かない方が宜しいかと。山吹様が一緒だとしても、何が起きるかは解りません。安全を考慮して、誰にも遭遇しないうちに帰宅されるのが得策だと、僕は思います」
「そういえば、貴継も言っておったな。『街中ピリピリした空気で重い』と。……そういう事だったのか。遅いと魔獣が出るからのう……今ならちょうど昼餉時だ。街を出歩く人が少なかろう。郁麻の言う通り鈴音が巻き込まれる前に帰った方がいいやもしれぬ」
「……そうだな。昼時だからみんな大通りにある飯屋に行っているだろう。鈴音、帰るぞ」
「え、あ」

 山吹は郁麻から受け取った衣装をずっと抱えたままだった鈴音の返事を聞くことなく、右腕で抱えあげた。

「……あの、紐とかありますか?」
「あるが……何に使うのだ」
「山吹さんも両手が塞がりますし、私も衣装抱えてしまうと山吹さんに掴まる事ができないので、…………あ、もちろん落とされる心配はしてないです! ただ、少しでも軽減させられないかな、と思いまして。それならいっその事、紐でお互いを結んでしまおうかな……と」

 落ちるかどうかを心配しながら山を登るのは山吹にとって少なからず負担になるだろう。
 ならばそれを軽減させられないかと考えた結果。
 --自分と山吹を紐などで結べば軽減させられるのでは?と考え至った。

「なるほどのう。面白い。どれ、今結んでやろう」

 いつの間にか紐を握っていた 鐐 しろがねが山吹と鈴音を結ぶ。……結ぶというか、もはや縛るの間違いなのでは?と思える程にぎゅ、と力を入れている。紐で圧迫されて苦しい訳でははない。--が、

「お、おい 鐐 しろがね! 固く結びすぎるなよ……!? 帰宅後に自分たちで外せるようにだな」
「すまぬ……力を入れすぎた。妾にも取れぬ」
「言ったそばからまたか!! お前この間も髪飾りの時力加減誤っただろう!? ……くそ、郁麻にやってもらえばよかった!!」
「でも、苦しくはないので大丈夫じゃないですか?」
「鈴音様、問題はそこではなくてですね? こんなに固いと帰宅した後お二人はどうやって取るんですか……」
「切るしかなかろう」

 胸を張って言う言葉ではない。
 鐐 しろがねは、今後早急にも【力加減】を覚える事が大事だろう。
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