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自然って怖いです
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ザァー
「……雨降ってますね」
「ああ、今日は外へ出かけられないな」
「残念です。お魚取りに行きたかったです……」
「雨の日は特に駄目だ。川の水が増えるから危険が増す。にしても結構降ってるな……。これでは外にすら出掛けられないから、今日は家で大人しくしてよう」
「そう、ですね」
「川へは晴れたら行けばいいだろう?」
「はい!」
例の騒動から既に五日が経過した。
あの後、逃げていた琴音は森の方に向かってフラフラと蛇行しながら歩いていたのを、通りがかった人に保護されたようだ。
一応、殺人や傷害等の罪を起こした訳では無いとの事で、厳重注意を受けたのみでそのまま旦那の元に帰ったらしい。
“らしい”というのは、昨日の買い出し兼日程連絡の時に山吹が街で聞いてきた情報だが、琴音と旦那をその後見かけた人が居ない為、かなり不確かなものなんだとか。
店先で騒いでいる姿を見ることも無くなったようだ。
……一応、街は平穏な日々を取り戻しつつある。
と言っても、文句を言われた店の人達は謝罪も何も無い為、行き場のない怒りを抱えたままだ。
ちなみに婚姻の儀を行う日程だが、あまり早すぎてもお店の都合とかもあるだろうということで二十日後に決定したのが、五日前。
つまりあと十五日後には、この家に 鐐 、貴継、アラン、郁麻を招いて行う。
料理は鈴音が手伝うも、ほとんど山吹が作る。
諸々の準備も含めだが、全体的にそこまで時間はかからないだろうとのこと。
そうそう。
貴継が栄太に聞いた、琴音が嫁になった経緯とかの詳細については、山吹と鈴音二人一緒に聞いた方がいいだろうとのこと。
凄く気になるのだが、残念ながらお預け状態。
そして、まだ街は琴音の起こした騒動がきちんと収まっていなかったと、山吹が言っていた。
一応、貴継と郁麻-- 鐐 は迷子になるのでお留守番だったそう--が『騒動を起こした琴音は双子の姉妹がいてその子は無関係である。似てるってだけで本人だと決めつけて喧嘩を売るな』と街中の人達に説明してくれているようだ。
が、実際鈴音と一緒にいる琴音を見てない人達は信じられないようで完全な鎮静化は難しいとの事だ。
『面倒だから、二人並べて琴音だけが悪いと示せばいいのではないか? 一度で解るうえに公開処刑みたいなものだ。……ああ、楽しそうだな。そしたら妾の抱えたこの鬱憤も、少しは晴れるやも知れぬ』
と一人強制的にお留守番だった事で、かなり機嫌の悪い 鐐 は苛立ちを隠すこと無く言い放ったそうだ。
だが、琴音がそれを良しとするわけがなかった為、もちろんその案は却下された。
それに対して山吹が当事者の鈴音以上に不服だった。もちろん 鐐 もかなり悔しそうにしているようだ。
別の形で街の人の誤解を解かねばいけないので、山吹は一人でよく考え事をするようになった。
……本人としては別にどうでもいいのだけれど。
あの時、山吹と 鐐 が琴音に対して怒ってくれた事で、心が軽くなった。
それだけでこちらの心情的には充分ではあるのだが、街を怖くて歩けないのは困ったものだ。
買い物の度にお留守番は正直言って、嫌。
まあこの事に関しては直ぐに解決できるとは
最初から思っていないので、現時点でこれ以上考えても無駄だろう。
そんな事より。
今日の雨が一向に降り止まない事の方が大問題である。
季節的に夏が近づいて来ているので、涼むついでに魚を取りに川に行く予定だった。
……昨日までは。
だが朝起きて雨が降っていたので、もちろん中止。弱い降り方だったら、山吹も許可してくれたかもしれない。
しかし、時間が経つにつれてその雨足は弱まることなど無く、むしろどんどんと強くなっている。時折、空が光り雷鳴が薄らと聞こえる。
もはや川どころか外にすら出られない状態である。
ザァー
絶え間なく降り注ぐ雨。
山の天気は変わりやすいと言うが、その気配もなく、空がより暗さを増していくだけだ。
「雨、止まないですね」
「……そんなに窓に張り付いて見ていても止まないだろう。止んだとしても、直ぐに川には行けぬからな。…………そんな目で見ても駄目だ。大雨が降ったあとの川は油断出来ないんだぞ。とにかく、今日は駄目だ」
「…………、っきゃあ!」
口を開いて『でも』と出るはずだった声は、突如響いた轟音により悲鳴に変わった。
長く続くこちらに迫ってくるような轟音に、思わず隣にいた山吹にしがみつく。
ぎゅうっと、力いっぱい縋り付くようにして。
「や、やまぶきさん……これ、って」
「雷、にしては地面が揺れたな。……もしや、どこかで土砂崩れが起きたか?」
雷だと思った轟音は土砂崩れだったようだ。
しかも、この山のどこかで。
「え……え!? 崩れたって……ここ、大丈夫でしょうか?」
「この辺りではないようだな。……どちらにせよここは何も被害は受けないのだが」
「ま、街は……大丈夫、なんでしょうか……?」
「流石に方向までは解らないな……明日か明後日にでも一度見に行くか? 心配なんだろう? 鐐 達が」
「……はい! 行きたいです!」
「だから、今日は家で大人しくして過ごそう」
かといって何かするべき事等なく、その日はただただ手持ち無沙汰なだけだった。
この大雨は夜まで続き、時たま空が光り雷鳴が響いていた。
--その後の轟音は土砂崩れではなく、雷だと鳴る度に怯える鈴音に、山吹が教えてくれたので間違いないだろう。
この大雨と雷で荒れた天気は、街の方に影響は出なかったのだろうか。
心配ではあったのだが、結局翌日の朝まで降っていた雨の影響で、ぬかるんだ土。
そんな状態で山道を歩くのは危険極まりないので、空は晴れていたのだが外出する事はできなかった。
裏のハーブだけは気になったので見に行ったが、まるで影響を受けてないかのように元気に育っていた。
しかもこの間見た時よりも、瑞々しく青さを増している。
何故かこの付近だけ土もぬかるんでいない。
……山吹のお陰であるのは明確だ。
「……雨降ってますね」
「ああ、今日は外へ出かけられないな」
「残念です。お魚取りに行きたかったです……」
「雨の日は特に駄目だ。川の水が増えるから危険が増す。にしても結構降ってるな……。これでは外にすら出掛けられないから、今日は家で大人しくしてよう」
「そう、ですね」
「川へは晴れたら行けばいいだろう?」
「はい!」
例の騒動から既に五日が経過した。
あの後、逃げていた琴音は森の方に向かってフラフラと蛇行しながら歩いていたのを、通りがかった人に保護されたようだ。
一応、殺人や傷害等の罪を起こした訳では無いとの事で、厳重注意を受けたのみでそのまま旦那の元に帰ったらしい。
“らしい”というのは、昨日の買い出し兼日程連絡の時に山吹が街で聞いてきた情報だが、琴音と旦那をその後見かけた人が居ない為、かなり不確かなものなんだとか。
店先で騒いでいる姿を見ることも無くなったようだ。
……一応、街は平穏な日々を取り戻しつつある。
と言っても、文句を言われた店の人達は謝罪も何も無い為、行き場のない怒りを抱えたままだ。
ちなみに婚姻の儀を行う日程だが、あまり早すぎてもお店の都合とかもあるだろうということで二十日後に決定したのが、五日前。
つまりあと十五日後には、この家に 鐐 、貴継、アラン、郁麻を招いて行う。
料理は鈴音が手伝うも、ほとんど山吹が作る。
諸々の準備も含めだが、全体的にそこまで時間はかからないだろうとのこと。
そうそう。
貴継が栄太に聞いた、琴音が嫁になった経緯とかの詳細については、山吹と鈴音二人一緒に聞いた方がいいだろうとのこと。
凄く気になるのだが、残念ながらお預け状態。
そして、まだ街は琴音の起こした騒動がきちんと収まっていなかったと、山吹が言っていた。
一応、貴継と郁麻-- 鐐 は迷子になるのでお留守番だったそう--が『騒動を起こした琴音は双子の姉妹がいてその子は無関係である。似てるってだけで本人だと決めつけて喧嘩を売るな』と街中の人達に説明してくれているようだ。
が、実際鈴音と一緒にいる琴音を見てない人達は信じられないようで完全な鎮静化は難しいとの事だ。
『面倒だから、二人並べて琴音だけが悪いと示せばいいのではないか? 一度で解るうえに公開処刑みたいなものだ。……ああ、楽しそうだな。そしたら妾の抱えたこの鬱憤も、少しは晴れるやも知れぬ』
と一人強制的にお留守番だった事で、かなり機嫌の悪い 鐐 は苛立ちを隠すこと無く言い放ったそうだ。
だが、琴音がそれを良しとするわけがなかった為、もちろんその案は却下された。
それに対して山吹が当事者の鈴音以上に不服だった。もちろん 鐐 もかなり悔しそうにしているようだ。
別の形で街の人の誤解を解かねばいけないので、山吹は一人でよく考え事をするようになった。
……本人としては別にどうでもいいのだけれど。
あの時、山吹と 鐐 が琴音に対して怒ってくれた事で、心が軽くなった。
それだけでこちらの心情的には充分ではあるのだが、街を怖くて歩けないのは困ったものだ。
買い物の度にお留守番は正直言って、嫌。
まあこの事に関しては直ぐに解決できるとは
最初から思っていないので、現時点でこれ以上考えても無駄だろう。
そんな事より。
今日の雨が一向に降り止まない事の方が大問題である。
季節的に夏が近づいて来ているので、涼むついでに魚を取りに川に行く予定だった。
……昨日までは。
だが朝起きて雨が降っていたので、もちろん中止。弱い降り方だったら、山吹も許可してくれたかもしれない。
しかし、時間が経つにつれてその雨足は弱まることなど無く、むしろどんどんと強くなっている。時折、空が光り雷鳴が薄らと聞こえる。
もはや川どころか外にすら出られない状態である。
ザァー
絶え間なく降り注ぐ雨。
山の天気は変わりやすいと言うが、その気配もなく、空がより暗さを増していくだけだ。
「雨、止まないですね」
「……そんなに窓に張り付いて見ていても止まないだろう。止んだとしても、直ぐに川には行けぬからな。…………そんな目で見ても駄目だ。大雨が降ったあとの川は油断出来ないんだぞ。とにかく、今日は駄目だ」
「…………、っきゃあ!」
口を開いて『でも』と出るはずだった声は、突如響いた轟音により悲鳴に変わった。
長く続くこちらに迫ってくるような轟音に、思わず隣にいた山吹にしがみつく。
ぎゅうっと、力いっぱい縋り付くようにして。
「や、やまぶきさん……これ、って」
「雷、にしては地面が揺れたな。……もしや、どこかで土砂崩れが起きたか?」
雷だと思った轟音は土砂崩れだったようだ。
しかも、この山のどこかで。
「え……え!? 崩れたって……ここ、大丈夫でしょうか?」
「この辺りではないようだな。……どちらにせよここは何も被害は受けないのだが」
「ま、街は……大丈夫、なんでしょうか……?」
「流石に方向までは解らないな……明日か明後日にでも一度見に行くか? 心配なんだろう? 鐐 達が」
「……はい! 行きたいです!」
「だから、今日は家で大人しくして過ごそう」
かといって何かするべき事等なく、その日はただただ手持ち無沙汰なだけだった。
この大雨は夜まで続き、時たま空が光り雷鳴が響いていた。
--その後の轟音は土砂崩れではなく、雷だと鳴る度に怯える鈴音に、山吹が教えてくれたので間違いないだろう。
この大雨と雷で荒れた天気は、街の方に影響は出なかったのだろうか。
心配ではあったのだが、結局翌日の朝まで降っていた雨の影響で、ぬかるんだ土。
そんな状態で山道を歩くのは危険極まりないので、空は晴れていたのだが外出する事はできなかった。
裏のハーブだけは気になったので見に行ったが、まるで影響を受けてないかのように元気に育っていた。
しかもこの間見た時よりも、瑞々しく青さを増している。
何故かこの付近だけ土もぬかるんでいない。
……山吹のお陰であるのは明確だ。
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