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第7話
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幸い迷宮の作りはゲームで見たものと同じらしく、想次郎は迷うことなくバンシーIを先導しながら先を行く。
ゲーム通りならば半ば程であろうかと想次郎が考え始めた頃である。傍らを歩くバンシーIへと横目を向ける。
すらりとしたスタイルで想次郎より頭一つ分程背が高い。バンシー特有の心許ないボロ布程度では隠し切れない胸元、太腿。歩く度になびく長い銀髪は薄闇のなかでもさらりとしていてしなやかなのがわかり、迷宮内にまばらに配置された松明の微かな明かりを受けてきらきらと輝いていた。
想次郎は見惚れてしまいながらも、ひとつ試してみることにする。
魔法。仮にゲーム内に入り込んでしまったなら、当然ゲームキャラクターと同様の魔法が使えるのではないか、そう思ったのだ。
想次郎は口に出さず、バンシーIを見つめながら心で強く念じた。
(第三の眼)
それは闇属性に属する低級魔法。クラスは1。用途としては対象のステータスや弱点を盗み見る為に使うものだ。
心で魔法を唱えた瞬間、想次郎は額のあたりがじんわりと熱を帯びるのを感じた。そして名状し難い感覚と共に、額で何かが開かれる。慌てて自身の額に触れてみるが特に何もなかった。しかし、視界には明確な変化がある。
視界のバンシーIに重なるようにして文字が現れたのだ。どのような仕組みか、薄闇の中でもはっきりと視認することができる。
アンデッド属C2:バンシー
Lv21
生命力558
技力26
魔力13
攻撃力18
防御力13
敏捷性24
体力28
所有スキル 物理属性:毒の牙、闇属性C1:恐怖の叫び、闇属性C3:死の叫び
弱点属性:聖属性
あとはこのゲーム特有の仕様として、モンスター名やスキル名にキザったらしく無駄に長いフレーバーテキストが付随していた。
その内容はゲーム内で想次郎が見てきた内容と何ら遜色のないものであった。
「はぁぁ……」
呆け顔で少し感心してしまっていた想次郎の視線に気が付いたバンシーIは、軽蔑の眼差しを想次郎へ返す。
「あまりこちらを見ないでください」
「あ、い、いえ、すみません……。なんだか未だに頭が追いついていなくて……」
「それはわたしも同じです。こちらを見ないでください」
「そ、そうでしたね……すみません……」
憧れの女性が向ける冷たい態度に想次郎はしゅんと肩を落とし薄暗い地面を見つめるが、何かを思い返し、再度バンシーIへ視線を戻す。
「あ、あの! 勝手に僕が名付けた〝アイさん〟って呼ぶのもなんですし、名前を教えて頂けませんか?」
「……………………。覚えていません。あと……、しつこいです。こちらを見ないでください」
「ちなみに僕は想次郎って言います」
「聞いてません」
「すみません」
想次郎は再び地面に視線を戻した。
「こんな姿のわたし言うのもなんですが、気色が悪いですね、あなた」
そんな想次郎へ向かって、バンシーIは追い打ちの一言を吐き捨てた。
その後も順調に出口を目指す二人。
想次郎が順調に思えるのは、今のところ進む道が慣れ親しんだ迷宮の構造と一致しているという点だけで、果たして本当にそれで出口へ辿り着けるかの根拠は皆無であった。しかし何も縋るもののない今はゲームの構造通りだと信じて進む他に想次郎に選択肢はなかった。
そしてもう一つ、しきりに想次郎の脳裏を過る懸念。
想次郎はこれまでこのボスエリアを敢えてクリアせずに繰り返していた。当然ボス撃破後に迷宮を逆戻りするのは初めてだ。だからこの帰りの道中で何が起こるかは全く予期できなかった。
(想次郎の予想する)出口までもう少しといったところである。無情にも彼の懸念は現実のものとなる。
「があぁっ!!」
「わぁっ!?」
道の角を曲がったところで一体のグールに出くわした。
ボスを倒しても迷宮内のモンスターが全ていなくなるわけではなかったらしい。想次郎の抱いていた「このまま何事もなく出口へ」という期待は無残にも打ち砕かれる。
たった今対峙するグールの姿はゲーム画面の優れたグラフィックなど比にならないくらいに生々しかった。腐ったような色の肌。どす黒い血のようなものが付いたボロ布。狂ったように焦点の定まらない視線。大きく剥かれた口元には鋭い牙があり、常時粘度の高そうな涎を垂れ流している。
「ああああ……」
「ひ、ひぃっ!」
想次郎は思わず頭を抑えてその場にしゃがみこんでしまう。
「な、なんのつもりです! さっきまで散々倒していたでしょう!」
「むむむむ、無理です!」
そうしている間にもゆったりとした足取りで近づいて来るグール。
「がぁっ!」
突如覆い被さろうとしたグールを反射的に避けようとし、想次郎は後方へ飛び退く。そしてまた驚いた。必死であった為、力加減を意識しなかったが、それでも想次郎の身体は彼の予想の3倍以上もの距離を移動していた。
「なんだこのジャンプ力……」
第三の眼で自身のステータスを確認することはできないが、仮にゲームのステータス通りならば、想次郎はこのEXシナリオを効率的にクリアする為だけにレベルアップボーナスの多くを俊敏性へと割り振っていた。
俊敏性は移動スピードだけでなく、跳躍力や回避能力にも関連するステータスだ。
しかし想次郎に自身の常人離れした身体能力を感心している暇はなかった。
想次郎との距離が離れたことにより、グールは近くにいたバンシーIへと狙いを定めたのだ。
「このままではアイさんが……」
「どうすれば」と思案を巡らせる想次郎。
先程の跳躍力がゲーム通りのステータスがもたらした結果だとするならば、ゲームと同様に戦えば何の苦もなく勝てる筈。そう考えながらも足を動かすことができない。
力を込めれば込める程、ただただ震えは増すばかりだ。
腰の後ろに装備していたカランビットナイフを手に取るが、手の震えが大きく、その場に落としてしまう。
------------------フレーバーテキスト紹介------------------
【装備】
武器C1:カランビットナイフ
ステータス要求値:技力15。
鉤爪のように屈曲した独特な形状の刃で対象の首や腱を掻き切るようにして使用する。小ぶりな為携行性に優れ、サバイバル用途の他、しばしば暗殺用の武器としても用いられる。
ゲーム通りならば半ば程であろうかと想次郎が考え始めた頃である。傍らを歩くバンシーIへと横目を向ける。
すらりとしたスタイルで想次郎より頭一つ分程背が高い。バンシー特有の心許ないボロ布程度では隠し切れない胸元、太腿。歩く度になびく長い銀髪は薄闇のなかでもさらりとしていてしなやかなのがわかり、迷宮内にまばらに配置された松明の微かな明かりを受けてきらきらと輝いていた。
想次郎は見惚れてしまいながらも、ひとつ試してみることにする。
魔法。仮にゲーム内に入り込んでしまったなら、当然ゲームキャラクターと同様の魔法が使えるのではないか、そう思ったのだ。
想次郎は口に出さず、バンシーIを見つめながら心で強く念じた。
(第三の眼)
それは闇属性に属する低級魔法。クラスは1。用途としては対象のステータスや弱点を盗み見る為に使うものだ。
心で魔法を唱えた瞬間、想次郎は額のあたりがじんわりと熱を帯びるのを感じた。そして名状し難い感覚と共に、額で何かが開かれる。慌てて自身の額に触れてみるが特に何もなかった。しかし、視界には明確な変化がある。
視界のバンシーIに重なるようにして文字が現れたのだ。どのような仕組みか、薄闇の中でもはっきりと視認することができる。
アンデッド属C2:バンシー
Lv21
生命力558
技力26
魔力13
攻撃力18
防御力13
敏捷性24
体力28
所有スキル 物理属性:毒の牙、闇属性C1:恐怖の叫び、闇属性C3:死の叫び
弱点属性:聖属性
あとはこのゲーム特有の仕様として、モンスター名やスキル名にキザったらしく無駄に長いフレーバーテキストが付随していた。
その内容はゲーム内で想次郎が見てきた内容と何ら遜色のないものであった。
「はぁぁ……」
呆け顔で少し感心してしまっていた想次郎の視線に気が付いたバンシーIは、軽蔑の眼差しを想次郎へ返す。
「あまりこちらを見ないでください」
「あ、い、いえ、すみません……。なんだか未だに頭が追いついていなくて……」
「それはわたしも同じです。こちらを見ないでください」
「そ、そうでしたね……すみません……」
憧れの女性が向ける冷たい態度に想次郎はしゅんと肩を落とし薄暗い地面を見つめるが、何かを思い返し、再度バンシーIへ視線を戻す。
「あ、あの! 勝手に僕が名付けた〝アイさん〟って呼ぶのもなんですし、名前を教えて頂けませんか?」
「……………………。覚えていません。あと……、しつこいです。こちらを見ないでください」
「ちなみに僕は想次郎って言います」
「聞いてません」
「すみません」
想次郎は再び地面に視線を戻した。
「こんな姿のわたし言うのもなんですが、気色が悪いですね、あなた」
そんな想次郎へ向かって、バンシーIは追い打ちの一言を吐き捨てた。
その後も順調に出口を目指す二人。
想次郎が順調に思えるのは、今のところ進む道が慣れ親しんだ迷宮の構造と一致しているという点だけで、果たして本当にそれで出口へ辿り着けるかの根拠は皆無であった。しかし何も縋るもののない今はゲームの構造通りだと信じて進む他に想次郎に選択肢はなかった。
そしてもう一つ、しきりに想次郎の脳裏を過る懸念。
想次郎はこれまでこのボスエリアを敢えてクリアせずに繰り返していた。当然ボス撃破後に迷宮を逆戻りするのは初めてだ。だからこの帰りの道中で何が起こるかは全く予期できなかった。
(想次郎の予想する)出口までもう少しといったところである。無情にも彼の懸念は現実のものとなる。
「があぁっ!!」
「わぁっ!?」
道の角を曲がったところで一体のグールに出くわした。
ボスを倒しても迷宮内のモンスターが全ていなくなるわけではなかったらしい。想次郎の抱いていた「このまま何事もなく出口へ」という期待は無残にも打ち砕かれる。
たった今対峙するグールの姿はゲーム画面の優れたグラフィックなど比にならないくらいに生々しかった。腐ったような色の肌。どす黒い血のようなものが付いたボロ布。狂ったように焦点の定まらない視線。大きく剥かれた口元には鋭い牙があり、常時粘度の高そうな涎を垂れ流している。
「ああああ……」
「ひ、ひぃっ!」
想次郎は思わず頭を抑えてその場にしゃがみこんでしまう。
「な、なんのつもりです! さっきまで散々倒していたでしょう!」
「むむむむ、無理です!」
そうしている間にもゆったりとした足取りで近づいて来るグール。
「がぁっ!」
突如覆い被さろうとしたグールを反射的に避けようとし、想次郎は後方へ飛び退く。そしてまた驚いた。必死であった為、力加減を意識しなかったが、それでも想次郎の身体は彼の予想の3倍以上もの距離を移動していた。
「なんだこのジャンプ力……」
第三の眼で自身のステータスを確認することはできないが、仮にゲームのステータス通りならば、想次郎はこのEXシナリオを効率的にクリアする為だけにレベルアップボーナスの多くを俊敏性へと割り振っていた。
俊敏性は移動スピードだけでなく、跳躍力や回避能力にも関連するステータスだ。
しかし想次郎に自身の常人離れした身体能力を感心している暇はなかった。
想次郎との距離が離れたことにより、グールは近くにいたバンシーIへと狙いを定めたのだ。
「このままではアイさんが……」
「どうすれば」と思案を巡らせる想次郎。
先程の跳躍力がゲーム通りのステータスがもたらした結果だとするならば、ゲームと同様に戦えば何の苦もなく勝てる筈。そう考えながらも足を動かすことができない。
力を込めれば込める程、ただただ震えは増すばかりだ。
腰の後ろに装備していたカランビットナイフを手に取るが、手の震えが大きく、その場に落としてしまう。
------------------フレーバーテキスト紹介------------------
【装備】
武器C1:カランビットナイフ
ステータス要求値:技力15。
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