人一倍弱虫なぼくはファンタジー世界でアンデッドな彼女に恋をする

所為堂篝火

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第10話

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 店を後にした想次郎は上機嫌な足取りで先を急ぐ。

 自然と駆け足になる。「早く自分が選んだ服を彼女に着てもらいたい」、その一心だった。

 大きな荷物を抱えたまま小走りで街の外への方角へ進んでいると、急に現れた人影にぶつかり、そのまま尻餅をつく想次郎。

「あわっ!」

 間抜けな声を上げ、その影の正体を確認しようと見上げると、そこには二人の男が立っていた。

 図体の大きな男と、やせ型の男。二人とも顎に無精髭を貯え、先程の店主のような人相とは正反対の粗暴な様子が見て取れる。

「おいガキ、お前あの店から出て来たよな」

 図体の大きな方が威圧的な声色で声を掛けてくる。もう一方はにやにやと嫌味な笑みを髭面に張り付かせていた。

「はい……そうですけど……」

「ずいぶんと羽振りが良いじゃねーか。俺たちにもなんか買ってくれよ」

 男は想次郎の抱えた荷物を顎でしゃくるようにする。

「いや……でも……」

 想次郎はその威圧感に耐え切れず後退った。

 よく見ると、二人とも腰に刃物のような武器を携えている。有り体に言えば、想次郎は強盗にあっていた。

 大人しく金を渡した方が良いのか、それとも逃げるべきか。想次郎は焦りで思考が纏まらないまま、煮え切らない態度でもごもごと口籠る。

 その様子が強盗たちの勘に障ったのか、

「おい! 金出せってことだよ! わかんねーのか!」

 急に声を荒げだした。

 人通りが少ないとはいえ、周囲には数人、通行人がいる。しかし誰も彼も見て見ぬふりで俯き気味に過ぎ去ってしまう。

 それがこの始まりの街の治安レベルであった。

 観念するか、逃げるか……。しかし、加えて想次郎にはもう一つの選択肢がある。そう、このならず者二人を返り討ちにするという選択。

 想次郎は二人に気取られないように心の中で〝第三の眼サードアイ〟を唱える。

 まずは大男の方


 人間
 Lv18
 生命力325
 技力28
 魔力8
 攻撃力36
 防御力45
 敏捷性18
 体力36
 所有スキル 剣技C1:撃連斬


 次いでやせ型の方。


 人間
 Lv16
 生命力318
 技力29
 魔力10
 攻撃力32
 防御力36
 敏捷性27
 体力30
 所有スキル なし


 勝てる。想次郎は確信した。

 序盤でレベル上げに勤しみ、既にレベル43の想次郎の敵ではない。

(やってしまおうか……)

 そう考えていると大男が口を開く。

「もたもたしてねぇで早くしねぇか、お嬢ちゃん」

「え? あの、僕男です」

「そりゃあ好都合。女は殴らねぇ主義なもんでよ」

「それってどういう…………あがぁっ!」

 想次郎が何かを言い切る前に、男の拳が想次郎の顎にヒットした。

 殴られたと理解した時には、想次郎は既に地面に這いつくばっていた。

 痛みは思った程ではなかった。恐らくレベル差による防御力が作用しているのだろうと想次郎は予想する。

 しかし、立ち上がろうとすると足が震えるのがわかった。それはダメージの所為ではない。

 想次郎は恐怖していた。いかに能力的に格上であろうと、想次郎には殴り合いの喧嘩が出来る程の度胸がなかった。

 立ち上がった想次郎目掛けて、二発目の拳が飛んでくる。今度は覚悟していただけに、想次郎にもそのタイミングがわかった。それどころか、目で捉えてみると想像以上にその動作が緩慢であることがわかる。

 ステータス差の成せる技なのか、拳が風を切りながら近付いてくる様子をしっかりと目で追うことができる。

 目で追う拳が頬に近づき、やがてその拳が頬に深く食い込み、頬骨に当たり、またもや想次郎はそのまま殴り飛ばされた。

 目で追えても、反応できても、身体が動いてくれない。

 勝てない悔しさよりも、恐怖で涙が滲んでしまう。そして、その現状が酷く悔しかった。

 男たちから十数発程殴られてから、想次郎は降参し、財布から取り出したオウク紙幣を二人に1枚ずつ手渡した。

 本来ならば有り金全てを奪い取ってやろうという算段の二人であったが、一方的に殴られる程弱い反面、なかなか気を失わず何度も立ち上がる想次郎に辟易し始めていただけに、紙幣を受け取ると満足そうな笑みを浮かべて二人は去って行った。

「さ、さあ……、アイさんが待ってる。急がないと……」

 想次郎は人知れず気丈に振る舞い、自身にそう言い聞かせると、目元に残っていた涙を拭ってから、ふらふらとした足取りで今度こそバンシーIの元へと向かう。






------------------フレーバーテキスト紹介------------------
【街】
エアスト
大国カイアス公国に属する街。主にモンスター狩を生業とする狩人と宿経営者の街であり、農業はほとんど行われておず、農作物は他の街との交易で得ている。発展途上の廃れた街だが、唯一決闘場による興行が盛んに行われており、参加と観戦で遠方から訪れる者も多い。だが件の決闘場は街の創生以外にもとある目的があるという噂も。
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