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Ⅸ.親切なクラスメイト
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午前中の授業が終わり、昼休み。
小学生の頃の無邪気さ捨てきれていない男子生徒たちはものの三分程で昼食を胃に収めると、我先にと校庭へと繰り出していく。大人しい男子生徒や女子生徒たちは、仲の良いグループ同士で机をくっつけ合い、各々持参した弁当や、購買で購入したパンやおにぎりを広げている。
メアはただでさえそのような慣れ合いが気に入らない中で、一等気に入らないグループ、御崎の引き入る女子達がこちらの方へしきりに目をやっては嫌味な笑みを張り付かせているのに気が付いた。
正確にはメアの隣、ユウリの方だ。
そのグループの中には昨日ユウリに群がった三人もいた。
どうやら先のことでユウリのこのクラスにおいての立ち位置は決まりつつあるらしい。
当の本人はそのような視線には気付いていない様子で、急に慌ただしくなった教室内を何が起こるのかと、訝し気に眺めていた。
「あんた、お昼ご飯は?」
メアは要領を重視し無駄を極力省く為、込み合う昼時ではなく、授業と授業の合間の五分休みに購買でパンを購入していた。それを広げながらユウリに問う。
「いえ、お金は……持って来たんですけど……」
「あっそ、早く購買行かなきゃ売り切れるわよ」
「でも、その購買というものがどこにあるのか……、そもそもわたしに上手く買うことができるのか……」
ユウリは何かを訴えるような目でメアを見つめた。それが何を訴える目なのか、メアにはわかったが、あえて視線を外し、
「知らないわよ。自分で何とかしなさい」
そう言い切ってそっぽを向く。
「でも……」
「石川は冷たいなぁ」
そう切り出したのは、女子達のリーダー的存在、御崎であった。
「冷たい冷たい。あー冷たい。能登さんかわいそーにー」
「御崎……」
腕を組んで近付いて来る御崎のことをメアはキッと、宿敵に向けるそれで睨む。
「あんたたち、仲良いんでしょ? 今日だって一緒に登校してたらしいじゃん」
どこでそんな噂になったのか、今朝のことがもう御崎の耳に入っているらしい。
「違う! 関係ないわよ、こんなやつ」
だが、御崎はさも興味なさそうに指先でくるくると毛先を弄りながら続ける。
「あーマジかわいそーだわ。か・わ・い・そー。ねぇ能登さん、わたしが代わりに教えてあげるよ。だからついでにわたしの分のイチゴ牛乳も買ってきてね、練習ってことで」
御崎のグループから「わたしのもー」という数人の声が聞こえる。
「そうですか、助かり――」
「やめなさい!」
御崎の汚い思惑を察したメアは、ユウリのお礼の言葉をかき消す形で叫んだ。
言葉を塞がれた御崎はしかし、不快感を露わにするでもなく、未だ嫌味な笑みのままである。そして、口に出してしまってからメアは二の句が継げなくなる。
「あんたちょっとこっち!」
メアは苦し紛れに立ち上がると、ユウリの袖を掴んでそのまま廊下に出た。
あえて確認することはなかったが、メアとユウリの背後から無数の笑みが向けられているのを感じた。
「石川さん? どこへ?」
「購買よ。行くんでしょ」
「でも先程、彼女は御崎さん……でしたっけ? 教えて頂けると仰っていましたのに、無下にしてしまって良いのでしょうか?」
「いいのよ、あんな奴ら。いい? あんたもあいつらのことは無視しなさい」
「でも、ご厚意を無下にするのは……何と言いますか……」
「〝でもでも〟うっさい! いいったらいいの! いい? この世界に厚意だなんてもの、存在しないの。それが厚意に見えたら、その裏には絶対に何かあるのよ。表向きでは親切でも自分に得のあることしか絶対にしないの。これはそういうものなの。異論は認めない。そういう文化なの。わかった?」
「えっと……よくわかりません……」
「は? 何がよ」
鬱陶しいながらも昨日までは全面的にメアの言葉に従っていたユウリが初めて示す反応に、メアは苛立った。
「だって、石川さんはこうして購買まで案内してくれているではありませんか。その裏にはどんな得があるのでしょうか?」
「イライラするのよ、あいつら。得があるとすれば、真横であんな醜い茶番を見なくて済むことかしら」
「…………石川さん。わたしがこんなことを言うのは差し出がましいかもしれませんが、石川さんの方からもっと皆さんと仲良くされてはいかがでしょうか?」
「うっわ! 本当に差し出がましい! あんたは自分の心配でもしてなさい」
メアたちが購買に着く頃にはパンはほとんど売り切れてしまっていたが、辛うじて買うことができた。人気のビーフシチューや焼きそばや明太マヨフランスを狙いたければ、メアのように空き時間を利用して先に購入しておくか、チャイムと同時に全力ダッシュするしかない。最後まで売れ残るのは決まってあんぱんやクリームパン等の菓子パンばかりだ。ユウリはあんぱんとクリームパンを一つずつ購入し、飲み物にはアロエドリンクを選んだ。
教室の席に戻ると、ユウリは早速あんぱんを一口かじる。
「石川さん、これ甘くて美味しいです」
メアが鬱陶しそうに横目で睨むと、次いでクリームパンも一口かじる。
「こっちも甘いです。美味しいです」
「うっさいわね! 暗に買えたのが甘い菓子パンばっかりで不満なのを皮肉ってるの?」
「いえ、美味しいので石川さんに教えて差し上げようと……甘いのは大好きです……」
「あっそ。ってかもうこれっきり。もう話し掛けないで」
「石川さんは何故いつも怒っているのですか?」
「…………」
心底わからないといった様子で小首を傾げるユウリをよそに、メアはせめてもの抵抗と言わんばかりに、机を気持ちユウリから遠ざけた。
「あ! 能登さぁーん!」
またしても御崎がユウリに絡む。相変わらずわざとらしい笑顔だ。
「わたし今日日直でゴミ捨ての当番なんだけど、能登さんお願いできない? わたしちょーっと忙しくて困ってるんだよねぇ」
「そういうことでしたら」
ユウリは二つ返事で了承した。
メアは一瞬、口を挟もうと声を出し掛けたが先程のやり取りの手前、グッと堪えた。
「それでゴミ捨て場はどちらでしょうか?」
「うーん……、探してみて! 学校のどっかにあるから。これも勉強勉強!」
瞬間、御崎の後ろに付いていた女子数人が堪え切れず「ぷっ」と小さく吹き出した。
「では早速探してみます」
ユウリは何の疑問も持たないまま教室の隅に置かれた燃えるゴミと燃えないゴミ、二つのゴミ箱を抱えると、一瞬迷ったようにメアの方へ視線を泳がせ、だがすぐに廊下へ出て行ってしまった。
数秒後、メアはガンっ! と机に両の拳を叩き付けると、にやけ顔の御崎を睨みつけ、そのままユウリを追って廊下へ向かった。
メアが追いついた頃には、ユウリはゴミ箱を抱えたままよろよろと階段を上の階へと上がろうとしていた。
「違う違う! 何で上だと思ったの? 屋上から撒くつもり?」
「いえ、場所が予想付かない以上、上からしらみ潰しに探した方が良いかと……」
「ゴミ捨て場は一階の外よ、馬鹿」
「…………石川さん、良いのですか? 先程は話し掛けるなと……」
メアは返答せず、ユウリからゴミ箱を一つひったくると、早々に階段を降り始めた。
その様子を眺めていたユウリは「ありがとうございます」と深くお辞儀をした。そしてゴミ箱を持ったままお辞儀をしたことにより、階段の下にいたメアの頭上にゴミくずがばらばらと降り注いだ。
「もうっ! 別に良いから余計なことしないでっ!」
小学生の頃の無邪気さ捨てきれていない男子生徒たちはものの三分程で昼食を胃に収めると、我先にと校庭へと繰り出していく。大人しい男子生徒や女子生徒たちは、仲の良いグループ同士で机をくっつけ合い、各々持参した弁当や、購買で購入したパンやおにぎりを広げている。
メアはただでさえそのような慣れ合いが気に入らない中で、一等気に入らないグループ、御崎の引き入る女子達がこちらの方へしきりに目をやっては嫌味な笑みを張り付かせているのに気が付いた。
正確にはメアの隣、ユウリの方だ。
そのグループの中には昨日ユウリに群がった三人もいた。
どうやら先のことでユウリのこのクラスにおいての立ち位置は決まりつつあるらしい。
当の本人はそのような視線には気付いていない様子で、急に慌ただしくなった教室内を何が起こるのかと、訝し気に眺めていた。
「あんた、お昼ご飯は?」
メアは要領を重視し無駄を極力省く為、込み合う昼時ではなく、授業と授業の合間の五分休みに購買でパンを購入していた。それを広げながらユウリに問う。
「いえ、お金は……持って来たんですけど……」
「あっそ、早く購買行かなきゃ売り切れるわよ」
「でも、その購買というものがどこにあるのか……、そもそもわたしに上手く買うことができるのか……」
ユウリは何かを訴えるような目でメアを見つめた。それが何を訴える目なのか、メアにはわかったが、あえて視線を外し、
「知らないわよ。自分で何とかしなさい」
そう言い切ってそっぽを向く。
「でも……」
「石川は冷たいなぁ」
そう切り出したのは、女子達のリーダー的存在、御崎であった。
「冷たい冷たい。あー冷たい。能登さんかわいそーにー」
「御崎……」
腕を組んで近付いて来る御崎のことをメアはキッと、宿敵に向けるそれで睨む。
「あんたたち、仲良いんでしょ? 今日だって一緒に登校してたらしいじゃん」
どこでそんな噂になったのか、今朝のことがもう御崎の耳に入っているらしい。
「違う! 関係ないわよ、こんなやつ」
だが、御崎はさも興味なさそうに指先でくるくると毛先を弄りながら続ける。
「あーマジかわいそーだわ。か・わ・い・そー。ねぇ能登さん、わたしが代わりに教えてあげるよ。だからついでにわたしの分のイチゴ牛乳も買ってきてね、練習ってことで」
御崎のグループから「わたしのもー」という数人の声が聞こえる。
「そうですか、助かり――」
「やめなさい!」
御崎の汚い思惑を察したメアは、ユウリのお礼の言葉をかき消す形で叫んだ。
言葉を塞がれた御崎はしかし、不快感を露わにするでもなく、未だ嫌味な笑みのままである。そして、口に出してしまってからメアは二の句が継げなくなる。
「あんたちょっとこっち!」
メアは苦し紛れに立ち上がると、ユウリの袖を掴んでそのまま廊下に出た。
あえて確認することはなかったが、メアとユウリの背後から無数の笑みが向けられているのを感じた。
「石川さん? どこへ?」
「購買よ。行くんでしょ」
「でも先程、彼女は御崎さん……でしたっけ? 教えて頂けると仰っていましたのに、無下にしてしまって良いのでしょうか?」
「いいのよ、あんな奴ら。いい? あんたもあいつらのことは無視しなさい」
「でも、ご厚意を無下にするのは……何と言いますか……」
「〝でもでも〟うっさい! いいったらいいの! いい? この世界に厚意だなんてもの、存在しないの。それが厚意に見えたら、その裏には絶対に何かあるのよ。表向きでは親切でも自分に得のあることしか絶対にしないの。これはそういうものなの。異論は認めない。そういう文化なの。わかった?」
「えっと……よくわかりません……」
「は? 何がよ」
鬱陶しいながらも昨日までは全面的にメアの言葉に従っていたユウリが初めて示す反応に、メアは苛立った。
「だって、石川さんはこうして購買まで案内してくれているではありませんか。その裏にはどんな得があるのでしょうか?」
「イライラするのよ、あいつら。得があるとすれば、真横であんな醜い茶番を見なくて済むことかしら」
「…………石川さん。わたしがこんなことを言うのは差し出がましいかもしれませんが、石川さんの方からもっと皆さんと仲良くされてはいかがでしょうか?」
「うっわ! 本当に差し出がましい! あんたは自分の心配でもしてなさい」
メアたちが購買に着く頃にはパンはほとんど売り切れてしまっていたが、辛うじて買うことができた。人気のビーフシチューや焼きそばや明太マヨフランスを狙いたければ、メアのように空き時間を利用して先に購入しておくか、チャイムと同時に全力ダッシュするしかない。最後まで売れ残るのは決まってあんぱんやクリームパン等の菓子パンばかりだ。ユウリはあんぱんとクリームパンを一つずつ購入し、飲み物にはアロエドリンクを選んだ。
教室の席に戻ると、ユウリは早速あんぱんを一口かじる。
「石川さん、これ甘くて美味しいです」
メアが鬱陶しそうに横目で睨むと、次いでクリームパンも一口かじる。
「こっちも甘いです。美味しいです」
「うっさいわね! 暗に買えたのが甘い菓子パンばっかりで不満なのを皮肉ってるの?」
「いえ、美味しいので石川さんに教えて差し上げようと……甘いのは大好きです……」
「あっそ。ってかもうこれっきり。もう話し掛けないで」
「石川さんは何故いつも怒っているのですか?」
「…………」
心底わからないといった様子で小首を傾げるユウリをよそに、メアはせめてもの抵抗と言わんばかりに、机を気持ちユウリから遠ざけた。
「あ! 能登さぁーん!」
またしても御崎がユウリに絡む。相変わらずわざとらしい笑顔だ。
「わたし今日日直でゴミ捨ての当番なんだけど、能登さんお願いできない? わたしちょーっと忙しくて困ってるんだよねぇ」
「そういうことでしたら」
ユウリは二つ返事で了承した。
メアは一瞬、口を挟もうと声を出し掛けたが先程のやり取りの手前、グッと堪えた。
「それでゴミ捨て場はどちらでしょうか?」
「うーん……、探してみて! 学校のどっかにあるから。これも勉強勉強!」
瞬間、御崎の後ろに付いていた女子数人が堪え切れず「ぷっ」と小さく吹き出した。
「では早速探してみます」
ユウリは何の疑問も持たないまま教室の隅に置かれた燃えるゴミと燃えないゴミ、二つのゴミ箱を抱えると、一瞬迷ったようにメアの方へ視線を泳がせ、だがすぐに廊下へ出て行ってしまった。
数秒後、メアはガンっ! と机に両の拳を叩き付けると、にやけ顔の御崎を睨みつけ、そのままユウリを追って廊下へ向かった。
メアが追いついた頃には、ユウリはゴミ箱を抱えたままよろよろと階段を上の階へと上がろうとしていた。
「違う違う! 何で上だと思ったの? 屋上から撒くつもり?」
「いえ、場所が予想付かない以上、上からしらみ潰しに探した方が良いかと……」
「ゴミ捨て場は一階の外よ、馬鹿」
「…………石川さん、良いのですか? 先程は話し掛けるなと……」
メアは返答せず、ユウリからゴミ箱を一つひったくると、早々に階段を降り始めた。
その様子を眺めていたユウリは「ありがとうございます」と深くお辞儀をした。そしてゴミ箱を持ったままお辞儀をしたことにより、階段の下にいたメアの頭上にゴミくずがばらばらと降り注いだ。
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