魔王の霊魂を背負う少女

アベルンルンバ

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第二章 クエストに向かう少女、やり過ぎる

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「確か……騎士団本部中央会議への招待? それ、今日じゃなかった?」
「会議ぃ? んなもん知らないわよ。勝手にすりゃいいじゃない」
「うそ、来月に行われる昇格試験についての会議。出席しなくてよかったの?」
「いいわよ、あんなの。あれよ、確か……最後らへんに全冒険者ランク対象『ギルド対抗試験』があるって書いてあったわね。参加は自由だけど、私達にはゲストとして参加してほしいってあったっけ。前も呼ばれてたわね」
「そうなんか! うちは知らなかったな」
「全ての試験は来月の始めから末までの一ヶ月間で行われる。評価基準はランクごとに求められるものが変わってくるけど、下旬あたりに開催されるギルド対抗試験は全ランク共通で参加できて、ルールも同じで行われる……。当たり前だけど、全ランク対象なんだからゲストのS、試験対象のAからCが存在するってわけよ。これだけ聞けば、ランクが低いほど不利でしかないわ。だけど、対抗試験はどんなランクであれ、少しの成績を残しさえすれば、昇格するためのポイントが多く手に入る。それがギルド対抗試験の特徴」
「でも、あれですよね~。ふぁーっ。もう、最上位のSランクになったリーダーが参加しても、なんの利益もないですよね~」
 仲間の女性が悠長にあくびをしながら、体を軽く捻る。
「ったく分かってないわね。冒険者昇格試験っていうのは唯一、有利にランクを上げる方法。運で受かる可能性だって稀にあるわ。そんな冒険者が一つ上のランクを上がったとして、どうなる?」
「え、えっと……。ランク帯に……ついていけないですね」
「そうよ。冒険者っていうのは対立の世界。何かの手違いでランクが上がっても、強者にねじ伏せられるのがオチ。それを防ぐためにあえて強者をゲストとして招き、試験に挑むやつらに現実を思い知らせるのよ。ランクという壁はどれほど厚いものなのか。今のランクでやっていけるのか……とかね」
 一見、大仰に発せられたリーダーの言葉に、仲間はごくりと息をのむ。
「冒険者には古来より引き継がれてきた決闘制度がある。かつてグランドシオルを賭けて切り結んだ英雄と破壊の暴君による伝説からきた、互いの実力に矜持を持って、名誉を賭ける一騎討ち。勝てば負かした相手になんでも一つ命令できて、ランクもともに変動する。最近は決闘をする冒険者がいないし、そんな出来事をあまり聞かないけど……過去にCランク冒険者がSランクを負かせたことがある……。聞いたことあるでしょ」
「はい。ですが、あまり信じられなくて」
「そうだよな! 最低辺のCランク冒険者が、疾風様みたいなSランク冒険者に勝てるわけないって」
 仲間はその異例な出来事を半信半疑で認識していた。
 しかし、リーダーはこの話を信じているようだ。もっと言えば人物を既知している。脳裏に焼き付いて離れない、あの憎たらしい顔が。
(あの一位候補……ッ!)
「リゼ? どうしたの」
 仲間が思案顔でリーダーの表情を覗くように伺う。
「……いや。なんもないわ。近いんだけど、離れてくれない?」
「冷たいなぁ。心配してあげてるのに」
「はぁ……んで、話変えるけど、あんた達はAランク冒険者になるために昇格試験やんの? 私はゲストとして行くわ。やるならあんた達、Bランク冒険者で試験用ギルド組みなさいよ。確か七人まで組めるし、あんた達と他のメンバーを誘えばいいわ」
「いやいや、なりませんよ。今の話を聞いたら、嫌でも試験を受けたくないです。私達もゲストとして、リーダーと一緒にギルド対抗試験をやります。Sランク冒険者が属しているギルドなら、メンバーも参加できますからね」
 無難な仲間の考えにほんの僅か、リーダーの顔に微笑みが浮かんだ。
「あー。リゼ、笑ってる?」
「いや? なに言ってんのよ。変なこと言うなら口を縫い合わせるわよ」
 相変わらずの歯に衣着せぬリーダーの物言いに、仲間は苦笑する。
「……それで。言っていた手紙って、Sランク冒険者全員に送られてるってわけ?」
 突如、『疾風の覇者』様は澱んだ表情を満面にさらけ出す。
「ど、どうしたの、リゼ」
「……あれよね。手紙はSランク冒険者一位候補『吹雪の剣姫』とか」
「同じく一位候補の『無敵の鋼人むてきのこうじん』にも送られているのでしょうか。ゲストとして参加するんですかね」
「うちはその二人と面識ないから分かんねえけど、ホントにリーダーより強いのか?」
「確かにリゼでSランク冒険者『三位』はないよねー。実際はリーダーの方が強いんじゃない? こんなにも凄い魔法を扱うリーダーを負かす人なんているはず─────」
「やめなさいッ!」
 リーダーは突然、森林にこだまするような怒声を張り上げる。
「り、リゼ……?」
「バカなこと言ってんじゃないわよ。私より強い人がいない……? ふふ……それならどれだけよかったかッ……」
 浮き足立つようにリーダーは身を震わせ、頭を抱えて青ざめる。忘却しても頭に描き並べられる記憶に、とうとう狂奔を制御できそうにない。
(あの鋼人はCランクから一気にこの領域に……攻撃すらあいつは……ッ!)
 リーダーは地団太を踏み、赤く濁った目で仲間を睨みつけた。
「いい、上には上がいる。今、存在する生命体じゃ通用しない化け物だって、世界にはいるのよ……!」
 リーダーは似つかわしくない狼狽を見せて、忌々しげに髪を毟った。
 同時に仲間の三人は固唾を呑み、体を強張らせた。
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